第三百八十三話【カルト宗教の定義(仏暁の定義編)2 『仏暁の白熱教室』?】
「——『カルト宗教とは社会に害悪を与える宗教である』、こうカルト宗教を定義した場合、この定義は効果を生むだろうか?——」
「——どうです? マドモアゼル遠山?」
「えっ⁈ わたし?」
仏暁は演説を中断してしまっている。
(なにか表情に出てしまったんだろうか?)と今さらながらに〝ちょっとだけ怒っていたのかな〟と思うが後の祭り。続行で仏暁に畳みかけられてしまう。
「そうです。同意か不同意か、そしてその理由もお願いします」
〝この手の感覚〟、ゼミの苦闘をつい思い出すかたな(刀)。『大学』繋がりの連想ゲームで瞬間的にピンと来た。
(これ、ほとんどあのアメリカの大学教授のマネじゃない!)
ちなみに〝あのアメリカの大学教授〟とは日本の公共放送がその講義模様を放送し、ちょっとしたブームになったハーバード大学の教授の事だった。『ハーバード大』の名とも相まって、次から次へと同大の学生達に〝誰にでも答えが言えそうな、しかし奇妙な質問〟を浴びせるところが物珍しく、そこが〝受けた〟ようである。
(衆目の前で臆せず意見など表明できる性格なら就職試験にまるで受からないなんてことあるわけない)、とかたな(刀)は仏暁の仕打ちに戸惑いつつ腹が立っていた。そんなかたな(刀)の内心を知ってか知らずか、
「座ったままでいいですよ」と仏暁。
あたかも件の教授をなぞったかのように、なお質問に対する回答をかたな(刀)に求める。
(まぁ座ったままなら、)とかたな(刀)は思い直し、少し考えた。
「えーと、『社会に害悪を与える宗教』でしたっけ? それだと少し範囲が広すぎるような気がします」
「つまりそれは『カルト宗教の定義にはならない』。不同意だという事ですね?」
「はい」
かたな(刀)の回答に場内が〝ざわっ〟とした。『韓国発祥のカルト宗教』を一網打尽にできそうな定義をあっさりと否定したが故であった。
「では〝少し範囲が広い〟について解説をお願いします」と仏曉。
「なんか、こう、神様の名前を持ちだしていろいろと爆発させている人たちがいるじゃないですか。同じ神様を信じていても『派が違う』だけで的にしたり。それで、爆発させると当然人が死ぬからそれは社会に対する害悪で、だけどそれを『カルト』と言っちゃうと世界中カルト宗教だらけになってしまうというのか……」
元来〝喋り〟が上手くないため語尾が怪しくなっている。そしてもちろんかたな(刀)には直接宗教名を出す勇気は無い。しかし仏暁、
「トレ・ビアン! イスラム教のシーア派とスンニ派ですね」
(それ口に出して言う⁈)とかたな(刀)。
「私の期待していない答えを答えてくれたらそれを訂正する形で話しを進めようと思ったのですが、良い意味で思惑が外れてくれました。大丈夫です。『イスラム教』の名を出した以上、『キリスト教』の名も出しておけばバランスはとれますから」
(さらにエスカレートさせてる!)
「さて昨今、いや昨今に限らないのかもしれないが、『多様な価値観を容認する』という価値観は、
「——ところがこの『多様な価値観を容認する』という価値観は『キリスト教』や『イスラム教』といった一神教の価値観と実に相性が悪い。具体的には『同性婚問題』で、例えばアメリカ社会に於いて社会分断の重大な原因の一つとなっている。一神教という形態の宗教は『多様な価値観を容認しない』という価値観を持っているのだ。つまりそれは今現在の社会感覚で言えば〝正しくない価値観〟になるのだ」
「——『多様な価値観を容認しない』のでは生まれるのは対立ばかり。したがって『一神教は社会に害悪を与えている』と言えてしまう」
「——こうなるとマドモアゼル遠山の指摘の通り、その信者人口からして世界の半分以上の宗教が『カルト宗教』になってしまう。さすがにこれだと宗教そのものの存在を否定する共産主義者と同じになってしまう。これでは一応〝共産主義者と戦う〟という看板を掲げている『韓国発祥のカルト宗教』の、それこそ思う壺で、こんなものが『キリスト教』や『イスラム教』の中に堂々と紛れ込めてしまう。早い話し『カルト宗教とは社会に害悪を与える宗教である』という定義では『韓国発祥のカルト宗教』が、限りなく有利な立ち位置を得る事に繋がってしまうのだ」
ここで腕組みをして天井を見上げ、一拍の間をとる仏暁。
「——そこで次にこう考えるのはどうだろうか? 『信者個人が社会に対し害悪を与える』のと『宗教の教義が社会に対し害悪を与える』のとを、区別して考える」
「——つまりこういう事だ。イスラム教徒が常に爆弾を携帯しているわけではないし、同性婚賛成派もキリスト教徒だったりすると、」
そしてまたも一拍の間をとる仏曉。
「——実は『カルト宗教の定義』を、私は既にハッキリさせてある」
(だったら試すような真似やめて最初から言ってよねっ、)と思うかたな(刀)だったが、仏暁的には意味のあることかもしれないと、そう思い直した。仏暁の口が動く。
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