第三百八十二話【カルト宗教の定義(仏暁の定義編)1 『洗脳論』】

「思わず声が出てしまいましたね、マドモアゼル遠山」

 仏暁に呼びかけられてしまうかたな(刀)。目が合ってしまってる。

「いや、あまりに驚いてつい——」と返答するのが精一杯。

 仏暁は顔を上げる。合った目が逸れた。


「しかしだ、私に『カルトの定義』を決められる、という事は、敵方にもまた『カルトの定義』を決める自由がある事になる。『韓国発祥のカルト宗教』自身にさえそうした自由がある事になり、ヤツらは当然『我々はカルトではない』と言い張る事であろう」


「——また『左翼・左派・リベラル勢力』は当該宗教について報道する際、『霊感商法』とは言っても『カルト』とは決して言わない。『』という心情が透けて見える。つまり霊感商法をしていようと当該宗教をカルトと認識していないのだ。しかし、カルトと認識はしていないが、『』ということばは使う。『霊感商法』と『洗脳』は結びつけられるが、『カルト』と『洗脳』は分離させている」


「——こうしたもろもろを頭の隅に入れつつ——」と仏暁は自身の頭を軽くポンと叩き、「——持論を展開する」と堂々宣言した。


「——まず私の『カルトの定義』だが、『カルトと宗教は別物』などという価値観は採らない。宗教の中にも『カルト』は存在し、『カルト宗教』はれっきとして、。これを大前提とする!」


「——そうしてまず私は考えた。その言動からして『人を洗脳していてもカルトにはならない』というのが、『韓国発祥のカルト宗教』についての『左翼・左派・リベラル勢力の思想的立ち位置』であるのは間違いない。こうしたスタンスにどう反応すべきか、即ちこうした定義の是非についてだ」


「——若干しゃくだが


 場内がざわっとした。

(『洗脳→霊感商法→カルト宗教』の流れで定義するのが一番簡単そうなのになぜしないの?)とかたな(刀)。


「——私が先ほど言った『昔のトレーディングカード理論』を思いだしてみて欲しい。仮にこちら側が〝高額で買わされた壺〟を根拠に『人を洗脳するカルト宗教だ!』と言っても、信者自身が高額と思っていなければそうした非難の論理はたちどころに力を失いここでジ・エンドだ。この定義では『韓国発祥のカルト宗教』にまんまと逃げられてしまう。現実に1993年の時に、『壺』『壺』言っていてもまんまと逃げられたではないか」


「——しかしこれに対する突っ込みは当然予想される。『〝昔のトレーディングカード〟は買ってるだけで〝壺〟とは違う! ガラクタ壺を高額で買ってしまったのだ!』と」


「——しかし『洗脳』という語彙、このことばは武器として役に立つのだろうか? その効果はいかほどか? 私はそれを考えた。むろんここで言う〝効果〟とは『韓国発祥のカルト宗教』からありとあらゆる力を奪う効果で、信者を奪い、最終的に〝〟効果という意味だ」



「——残念ながら私は〝効果は無い〟と考える。効果が期待できないため、この韓国絡み案件について『左』のヤツらが、『カルト』と『洗脳』を結びつけなくてもろくに腹が立たないのだ」


(はぃ?)


「——なぜなら『韓国発祥のカルト宗教』の側・信者側が『』で来るのは確実だからだ。『あなたこそサタンに洗脳されている』とか、こういう反応で戻ってくるのが関の山なのだ」


(……)

 〝さもありなん〟、という感覚が頭の中をかすめてしまったかたな(刀)。


「——それに日本人の場合、別の意味で他人に向かって『お前は洗脳されている!』と説教できる身ではない。ことわざで言うなら『人のふり見て我がふり直せ』だ。『洗脳されている!』と言ったその当人も別の何者かから洗脳されているのではお話しにならない」


「——私が何を言わんとしているかと言えば、『』だ。最少に見積もっても日本人の過半数程度は未だ洗脳されている。彼らには『戦争には勝ち負けがあるだけ。正邪は後付け』という物事の本質がまるで理解できない。我々の側がネット上で『それは洗脳されているぞ!』と言おうものなら『ネトウヨは負け組』といったトンチンカンな返答で戻ってくる。そんな連中の内心をことばにしてやろう。それは『お前なんぞに洗脳されるか!』だ。洗脳されている者に『それは洗脳だ!』と言ってやっても効果は無い。つまりこれが『洗脳』というものなのだ」


「——そして皮肉な事に『左』のヤツらが『洗脳』と『カルト』を結びつけなくても自己矛盾には陥らない。『左翼・左派・リベラル勢力』自身が現在進行形で大衆を『日本悪玉史観』で洗脳し続けている存在だからだ。もし『洗脳』と『カルト』を結びつけたら『』という事になる。『左翼・左派・リベラル勢力』も自分で自分の事を『カルトだ』と定義したくはあるまい」


 ちょっとイラッとしてきたかたな(刀)。

(『カルト宗教』を語るのに『洗脳』ってフレーズが使えないんじゃ、じゃあどうするのっ?)と。

 だが仏暁の話しがここで終わる筈もない。

「——『カルト宗教の定義』は、今度こそ『韓国発祥のカルト宗教』を絶対に逃がさないものでなければならない。そこで別の定義を考えてみた」と続いていく——

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