第三百八十一話【カルト宗教の定義(権威筋編)】

(あの『壺の宗教』を非難するのにここから始める必要があるのか、)と思うかたな(刀)。日本人にとって〝韓国絡み〟がいかに鬼門であるかを改めて思い知らされる。と同時に『極右』などと公然と自分で名乗りながらどこか極右らしくない仏曉の事が解らなくなってくる。『極右』と聞いて余人が思い浮かべる単純なイメージで割り切ろうと思っても、容易に割り切る事のできない違うナニカがある事を感じ取っていた。(円周率みたい)、と。


(リクエストの人が〝韓国叩き〟を聞きたがっているのに、なかなか話しが韓国へと行かない。それでいて『韓国発祥のカルト宗教』と何度も何度も口にして『韓国から逃げている』と言われてしまう隙も作らない——)


(ただ者じゃないのは分かった。いったい何を考えて何を目的にこれほどにまで喋り続けているのだろう——)

 仏暁は喋り続けている。

「——とは言え私の独断で〝カルト宗教の定義〟を決めてしまっても説得力はかなりイマイチになるしかない。そこでまず、〝〟がどう言っているのか、そこから始めなければならない。どこいら辺の権威かと言えば〝公共放送の番組〟だ。元首相暗殺事件の後、公共放送はいくつかの特集番組を組んだ。2022年10月9日、『問われる宗教と“カルト”』という番組が放送されている」


「——私は番組タイトルで〝あれっ?〟と思ってしまった。『問われるカルト宗教』ではなく『宗教カルト』なのかと、『宗教カルト』なのかと、」


「——で、この番組内容は、というと、タイトル通り『カルトと宗教』をテーマに識者が語り合うというものだ」


「——いきなり結論めいた事を言うが、かなりとしてくる」


(こんとん?)


「——タイトルを見たときに感じた悪い直感は当たってしまった。『だ』と言った識者がいた事だ。これでは『宗教とカルトは別物です』と言われたようなもので、『カルト宗教』という語彙が存在し得なくなってしまう。私などは『』という認識だったが『宗教法人として認められているのでカルトではありません』と反論され、これが通ってしまう。ヲイヲイと言いたくなった。」


(〝定義づけする〟とか言っておいて最初からこれ?)とかたな(刀)も内心で〝をいをい〟。


「——識者の1人は手始めに『カルト』という言葉を純粋に国語辞典的解釈したものを紹介してくれた。『マイノリティの集団である』、そして『熱狂的な崇拝行為などを実践している』という、この2点がカルトの定義だという」


「——しかし……、」と、ここでことばを区切る仏暁。


「——『マイノリティの集団』とは『極右』の事ではないか? 加えて今現在の私に対し、崇拝してくれているのかどうかは怪しいものの少数の熱狂的な支持者はいる。なにせ彼らのおかげで今の私がある」


 場内、みな内心でさえ絶句しているようであった。


「——対して『韓国発祥のカルト宗教』の日本人信者というのか被害者というのか、それらが5万人から6万人もいるらしい。マイノリティーとは〝少数者〟という意味だが、員数を比べてしまったら向こうよりこっちの方がマイノリティーだ。これでは『極右』などと名乗っている私が『カルト』になってしまう」


(いったい何処へ行くのよこの話しっ)さらにかたな(刀)内心で突っ込む。


「——しかし〝識者〟を名乗る者が国語辞典を朗読するだけでは話しにならないので当然〝続き〟はある」


「——『カルト』に関わると『違法行為、反社会的な行為に巻き込まれていく』と言う。私はむろん諸君らを違法行為やら反社会的行為に巻き込むつもりは無いが、元首相暗殺事件に関しては実行犯に対する糾弾感情が極めて希薄である。この件については或る意味、『違法行為や反社会的な行為をあまり気にしていない』と言える。これではこちら側が益々『カルト』に近くなってしまう」


 さすがに絶句の段階を通り越し、場内ざわめき始める。しかし仏曉の表情に気にする様子が見えない。


「——それどころか私が『韓国発祥のカルト宗教』と呼んでいる〝あの対象〟は、極めてギリギリのグレーゾーンを歩いていると言えてしまう」


「——まず自己の財産をどう使おうが何を買おうが自由である。たとえそれがガラクタでしかない『壺』であっても。これを『違法行為』とするのは無理がある」


「——家族名義の財産を勝手に使ってしまった場合には家族とは言え他人であるから違法行為となるが、その場合でも違法行為をしたのは勝手に使ってしまった本人で、『その宗教団体が違法行為をした!』とは言えない」


「——かろうじて何かを言える隙があるとしたら、その『壺』の値が社会的通念からしてあまりに高額であった場合に『反社会的行為』と言える程度だ。しかしこれとて買った本人が『適正価格だ』と言い張った場合、こちら側はお手上げになるしかない。それは例えば我々の立場のような者が〝昔のトレーディングカード〟につけてある値札を見て『なんと法外な、』と感じたとしても、ソレにのめり込んでいる人からすればそれが適正価格に見えるのと同じである」


「——〝そこで〟というわけでもないだろうが、『カルト』について識者からはこんな定義も呈示されていた。『、これがカルトである』と」


「——なにやらこれが決定打となる〝定義〟のようである。正にその通りだからだ」


「——しかしこの話しには〝続き〟がある。こちら側の視点では実に芳しくない〝続き〟だ」


「——私が『韓国発祥のカルト宗教』と呼んでいるこの問題教団についてこの識者は、『カルト性は歴然としてるんですけど』と前置きしておいて、『このおさえかただけで『カルト』と認識するには、ちょっと不足がある』と言い出すのだ」


「——いったいこれはどういう事かと言うと、まず『規模』だ。先ほど触れた通り『日本だけで5万人から6万人の信者がいる。世界全体を含めれば相当数の信者がいる』と。つまり〝マイノリティー〟と言うには『規模が少し大きい』と言いたいらしい」


「——そして『政治的なロビー活動をしている』『活動の動機は〝政治家の庇護を得ながら守られ成長したい〟、そうした意志がある事は歴然としている』からだ、という」


「——極め付きは『70年くらいのから』と言い出した事だ。『馬鹿な、』意外にことばが無い。定着させたのは日本の長期政権与党の政治家だ。政治家どもの愚かしい判断で一旦定着してしまったらカルトもカルトではなくなるのか? もはや『カルトとは?』という論点から話しを逸らしているとしか思えない」


「——あまりの腹立たしさについ怒りをぶちまけてしまったが、番組内では『カルト』について、別の識者による別の定義づけも示されてあった」


「——その識者によると『カルトの定義』は3つあるという。それは『恐怖・搾取・拘束』であると。恐怖で人を縛りつけ、その人が生活破綻するまで搾取し、自由を許さない。今度こそ『これがカルトだ!』という決定的定義のようだ」


「——しかし少し考え、私は引っ掛かった。何に引っ掛かったかというとさっき言ったばかりの『昔のトレーディングカード理論』だ。傍目から見て『バカな買い物をして』としか見えなくても当人からしたら『こんな貴重な物をようやく手に入れる事ができた』なのだ。信者本人が『恐怖によって動かされているのではない』と信じ込み、『搾取などされていない、善行を積んでいるだけだ』と信じ込み、『私は自分の自由意志でやっていて、それを〝拘束〟などとは失礼だ!』と言い出した場合、我々の側は反論法が無くなってしまう。何せ『恐怖・搾取・拘束、全て無い!』と言われてしまったら、『じゃあカルトじゃないですね』しか返答の道が無くなる」


「——しかし『カルトの定義』については、また別の識者が別の考え方を示した。ただ、発言した本人は『定義する』とは言っていない。が、聞く限り『』が強い。〝〟ので紹介しておく事とする」

 仏暁、手元のファイルに目を落とす。

「——『非常に閉鎖的で、それから排外的、敵を見つける、敵へのこう、対立感が非常に強くある。そして、ひきこもるんじゃなくて、攻撃的に外に向かって打って出るという側面があると。で、そういう団体はですね、大体コンフリクトを激しく起こす』と。聞いた瞬間『そうだ、これだ!』という感じがしたが、肝心の言った識者本人が『定義ではない』と言っている。なので立ち止まり私も考えてみた」


「——なんだか『一神教』にこのケがないか? そう思えた。我々日本民族は一神教の価値観を有する外国人、要するにアメリカ人だが、連中から鍵括弧入りの『絶対に正しい価値観』を攻撃的に押しつけられている。そうした志向の極地にいるのがアフガニスタンのタリバンだ。そう言えばタリバンの事を『カルトだ』と言った者の話しを聞かない。ただ単にタリバンが怖いだけかもしれないが」


「——だがこの識者は別の意味で〝決定的な事〟を言ってくれた。なんと『宗教学、宗教社会学、あるいは法学の立場からもカルトの定義は非常に難しい』と。『学術用語としてはちょっと使えないというのが、われわれの考えですね』と来たのだ。しかもだ、この識者は『』だった。公共放送も権威だが、これ以上の権威が言ったのだ」


「——つまり、『』、これが結論なのだ!」


 かたな(刀)は口あんぐり、ちなみに本当に半分ほど口が開いていた。場内の雰囲気もまた同じ。しかし仏暁のキレっぷりはここでは終わらなかった。


「——特段定説が無いのなら『カルトの定義』を


「えっ!」思わず声が出てしまったかたな(刀)。

(ぜんっぜん『権威に従おう』って気が無いっっ!)ただ驚き呆れ、演台の仏暁を見上げるのみ。

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