第三百七十九話【初球は変化球。まずは与党政治家どもから討て】

「2022年7月、奈良県はK鉄大和西大寺駅前、参院選与党候補者の応援演説に駆けつけていた元首相が暗殺された。凶器は手製の銃。その在任期間、歴代最長だった事も相まって、これは必ず日本史の教科書に載る事件となるだろう」と仏暁切り出す。


「——問題は事件の背景だ。銃撃犯は『韓国発祥のカルト宗教』に人生をメチャメチャにされた男だった。家族が当該カルト宗教にのめり込み、財産を献金として丸ごとつぎ込んでしまったため、彼の教育資金すらも消え失せた。こうして彼は不遇の人生を歩まざるを得なかったのである」


「——次の問題は自然とこうなる。即ち『なぜ元首相という与党の有力政治家が暗殺の対象となったのか?』という点へと行き着くしかない」


「——実はこの元首相、『韓国発祥のカルト宗教』へとメッセージ動画を送っていた。その動画がどうひいき目に見ても〝当該宗教に対するエール〟にしか見えず、その動画を銃撃犯が見てしまったがために暗殺対象として元首相が選ばれてしまった」


「——しかしこの元首相は暗殺対象として的外れとは言えない。実に適切な対象だった事は否定できない」


「——と言うのも、『韓国発祥のカルト宗教』への多額の献金が原因で家庭崩壊に至ったのは銃撃犯個人の人生だけに起こった特殊事例などではない。他にあまたの日本人被害者がいたのである。しかもそれは既に1993年には明らかになっていた。この時『韓国発祥のカルト宗教』に入信してしまった信者の身に何が起こっていたのか、その実態はテレビのワイドショーネタになっていた。既にこの時点で、客観的にはガラクタでしかない『壺』を信者に高額で買わせ、多額の献金をさせている事は日本社会に広く知られていたのだ」


「——つまりだ、『韓国発祥のカルト宗教』の悪名は、元首相暗殺事件が起こる約30年近くも前に日本社会にとどろいていた。ところがだ、あまりに『その名』が悪い意味で有名になってしまった当該カルト宗教は、法人としての宗教団体の名称の変更を願い出た。『平和』だとか『家族』だとか、否定しにくい名詞を組み込んだ〝新たな名〟だ。常識的に考えて組織のイメージロンダリングを試みたとしか思えないのだが、イメージがすっかり悪化した元の名から別の名への変更願に許可を出してしまったのは〝〟だったのだ」


「——そしてこの『宗教団体名 変更許可願い』は受理され変更が認められてしまった。『韓国発祥のカルト宗教』からしたら〝してやったり〟だろう。悪名高き古い名を捨てることに成功したのだからな」


「——名称変更の許可を出したのは文部科学省で、当時の大臣は暗殺された元首相の盟友と言われていた男だった。が、ふざけた事に『韓国発祥のカルト宗教』の名称変更について『官僚が勝手にやった』と部下に責任をなすりつけたのである。この言い草がいかに説得力が無いかは『官邸主導』『政治主導』という造語で全て説明がつく。即ち『官僚に動かされず政治家の決断によって政治を動かしていきます!』が売りの政権が、〝『韓国発祥のカルト宗教』の名称変更の件〟についてのみは『官僚が勝手にやった事』とはこれ如何に、だ。バカも休み休み言え! 以外のことばが無い! ふざけるな!だ」


「——ところが、ここまででもまだ話しは終わらない。この問題には続きがある。暗殺された元首相だけが『韓国発祥のカルト宗教』と友好関係を築いていたわけではなかったという事実だ。長年この日本の施政を任されていた与党の、有名無名問わず多くの政治家どもが当該カルト宗教と関わりを持ち、友好関係を築いていたのである」


「——その上〝横の広がり〟だけでなく〝縦の繋がり〟の問題もあった。つまり時間軸を視点とした問題だ。このカルト宗教が日本社会に対してしている行為が社会問題として認識されたのが1993年と言ったが、その頃、暗殺された元首相は国会議員に初当選したばかりのペーペーであった。つまりこの男が『韓国発祥のカルト宗教』との繋がりを造ったわけではないという事だ。とは言え全く無関係でもなく彼の母方の祖父もまた内閣総理大臣であったがその政権時代からの繋がりであるとの事。即ちこの日本の長期政権与党は半世紀以上に及ぶ長きに渡り政党的レベルで『韓国発祥のカルト宗教との友好関係』を築き続けてきたのである。〝半世紀〟と言えばそれはもはや歴史的時間と言えるほどだ。こうしてさらに問題は根深いものになっていく」


「——私は言ってやる! 長期政権与党の政治家どもは外国発祥のカルト宗教が日本人の人生に取り返しのつかない被害を与え続けていたのにも関わらずこれを見て見ぬふりをして取り締まる事もせず、友好的なメッセージさえ送っていた我々の民族の裏切り者である!」


「——元首相が暗殺されてからの長期政権与党の政治家は当該カルト宗教に対し今さらながらに〝解散命令請求〟を出したりしている。しかし今ごろになってのそうした行動からは『日本国民を外国人から護らねば』という〝使命感〟と言うよりは『死にたくない』という〝我が身可愛さ〟しか感じ取れないのである。〝〟とは恐ろしいものだな、諸君」


(なんか、否定していないように聞こえる、)とかたな(刀)。


「——しかしいったいなぜ長期政権与党の政治家どもは『韓国発祥のカルト宗教』などと友好関係を築いたものだろうか? その一番もっともらしく聞こえる理屈は『反共』、つまり『反共産主義』だと云う。具体的には『北朝鮮』に対抗するための〝韓国人達との連携〟なのだそうだ」


「——これまたデジャビュな話しだな、諸君。『日米韓の連携』と構図は同じだ。『北朝鮮に対抗するためには日本はどんな理不尽も我慢せよ』とはまったくふざけている。そもそもだ、日本の長期政権与党の政治家どもにはまともな教養があるのか?  1994年に北朝鮮の初代のトップが死に、後継に息子が選ばれた時点で北朝鮮が共産主義国家などではない事は証明されている。世襲ではそれは君主制である! それは共産主義革命によって打倒されるべき存在だ。故に『反共という価値観を共有していた』などという理屈は1ミクロンほども通らないのである。なぜ我々大衆が、無知無学無教養のお馬鹿な政治家どもの言うことに服従し続けなければならないのか?」


「——となると残った目的、長期政権与党の政治家どもにとっての利点は『選挙時の集票目当て』しかない。『韓国発祥のカルト宗教』と言えど、金を巻き上げられる信者の方は日本国籍を持つ日本人だからな。選挙の勝負が僅差になった時には役に立つのだろう」


「——とは言えこれは私個人の当て推量に過ぎない。『韓国発祥のカルト宗教』と与党政治家達の繋がりの程度については今もって不明。闇の中である。なにせ長期政権与党そのものが〝政治家個人の自己申告で片付けられる〟とタカをくくり、政党の名に於いての調査すら行わない。疑惑の衆議院議長に至っては遂に秘密を胸に抱いたままあの世へと旅立ってしまった」


「——個々の議員のめいめい各自の自己申告で事は済んだと考えた長期政権与党の政治家どもは次に異口同音に『もう関係を断ち切った』と一方的に我々大衆に宣言しただけであった。彼らの中では『この問題は終わった』事になったらしい。外国発祥のカルト宗教によって日本人が危害を加えられていても何も感じるところが無い政治屋どもめ、重ね重ね私は許さん!」そう言い放ち仏暁右手の拳を高々と突き上げるが場内の反応は今一つ。ぱらぱらと気の抜けたような拍手が鳴ったのみ。


 その後はなんとも微妙な無音の時間となってしまった。しかしそうした反応をあらかじめ読んでいたかのようにニヤリと笑みを浮かべる仏暁。

「諸君らが面食らったのはこういうことであろう? 『韓国発祥のカルト宗教を叩かず、どうして唐突に与党の政治家の方を攻撃し始めたのか?』と、」


 変化球じみた仏暁の物言いに、ざわめく場内。たちまちのうちに今一つ以上の反応となった。


「——相手が『韓国発祥のカルト宗教』である以上、相手は韓国人なのである」あまりに当たり前の事を仏曉は口にしてみせた。


「——韓国人という異民族が我々日本民族を攻撃する際、連中にとっての勝利の方程式とも言える手口というものがある。それは大いなる力を持つ第三勢力を韓国側に味方として付け、その第三勢力に日本人を攻撃させる手法だ。第三勢力は案件ごとに入れ替わる。例えば『慰安婦問題』ではアメリカ人達、『サッカーワールドカップ招致』では国際サッカー連盟ヨーロッパ人役員達であった。したがって我々が韓国人に敗北しないためにはあらかじめ〝韓国の味方をしそうな第三勢力の者ども〟が正義面して動けぬよう、作為を施しておく必要がある。解りやすい例えを使うならソイツらの足元にマキビシを撒いておくのだ」


(あれ、?)とかたな(刀)。なにかが引っかかった。


「——我々日本民族にはそうした知恵が決定的に欠けている。『慰安婦問題』では『米軍慰安婦問題』というマキビシをアメリカ人どもの周りに撒いておけば第二次大戦で二度と正義面できないよう日本人の居る地獄へとヤツらを道連れにする事もできた」


「——『サッカーワールドカップ招致』ではヨーロッパ人役員どもの大義名分が〝国際サッカー連盟の改革〟であったのだから限られた理事による投票というやり方を2002年大会決定時から改めるよう連中に要求しておけば良かった。さすればあの時点でヨーロッパ人役員どもに総会投票という改革したやり方で開催地を決めなかったという〝偽改革者〟としての汚名を着せる事もできたろう」


「——『韓国発祥のカルト宗教』を攻撃する際、我々日本民族ではなく韓国の味方をしそうな者は、日本の長期政権与党の政治家どもである。『韓国発祥のカルト宗教』を潰すにはこうした第三勢力が迂闊に動けぬよう前もって十二分にマキビシをバラ撒いておく必要があるのだ。そして事実私はこうして撒いた」


(そうだ。『左翼・左派・リベラル勢力』なんだ。いつもこういう人たちを〝敵〟に認定してるのに今度は〝敵〟が『政府』になってる!)

 そう思いつき最前列から見ていたかたな(刀)は仏暁と目が合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る