第三百七十八話【日本がまかり間違いまたワールドカップなどを招致しようとすると二度目の日韓共催大会となってしまうだろう】
仏暁の演説は雨土のリクエストからやや脱線し、『韓国』から『国際サッカー連盟』へと、話しの軸足を移している。だがこの場の聴衆は〝事の顛末は聞いておきたい〟とでも思ったか、未だ温和しく話しを聞き続けている。
「——なにせ『改革』を名分に会長職を得た人物が再び『改革』の名の下に失脚したからな。『次の会長はどうなったのだ?』という話しだ。このスイス人会長の後、別の新たなスイス人会長が誕生した。ただこの人物、二重国籍で他にイタリア国籍も持っている。だからスイス人ともイタリア人とも言える。ただ、結局の所、会長は『ヨーロッパ人』となった」と仏暁、新たな国際サッカー連盟会長について触れ始める。
「——この人物、『ビジネス手腕がある』との専らの評判である。とまあ、こう表現すれば聞こえはいいが要するにそれは〝金儲けが上手い〟という意味であるから、『改革』は〝金銭的にクリーン〟と言うよりは、〝より金が儲かるようにする〟という方向性の『改革』となった。これは目に見えて解りやすい。と言うのもワールドカップ出場国の大幅な拡大がこの新会長によって行われた」
「——これについては日本人である以上、あまり大きな顔でものを言いにくいのだが、日本もかつては出場国数が24カ国から32カ国に増えた恩恵を受けた身だ。だからワールドカップ出場国が32カ国から48カ国になる事について、あまり大きな顔で文句を言える身ではないのかもしれない。ただ、8カ国増えるのと16カ国増えるのとではあまりに体感が違う。増加幅がダブルスコアである。そしてこの『48カ国』という数字についてちょっとした計算してみた者がいて、その計算によると実に国際サッカー連盟加盟国の23%がワールドカップ本大会に出場できる事になった。かつて出る事を実現させるだけで苦労させられた身からすれば〝ずいぶんと出やすい大会になった〟と思うしかない」
「——特に拡大幅が顕著なのがこの日本も所属している『アジア枠』で、2026年大会からなんと8.5枠にもなっている。1994年アメリカ大会のアジア出場枠がたったの『2枠』だった事を思えば隔世の感があるがこれを手放しで喜んでいいのかは微妙なところだ。別にアジアサッカーのレベルがこの枠数に比例しているとは到底思えないからだ。ここからはカネの臭いがする。それは腐敗の臭いでもある。欲しいのは『オイルマネーも中国マネーもインドマネーも』か」
「——私のこの話しはここが肝となるが、これだけ参加国が増えるともはやワールドカップの単独開催は無理である。現に2026年大会は『アメリカ・カナダ・メキシコ』の3カ国もの共催だ。もちろんこの現在に於いてこれは規約破りではない。その後の2030年大会はさらにカオスな事態となっている。基本は『スペイン・ポルトガル・モロッコ』という3カ国共同開催は同じなのだが、『第1回のウルグアイ大会から100年の節目になる』と理由をつけて、『ウルグアイ・パラグアイ・アルゼンチン』の3カ国でもそれぞれ3試合ずつワールドカップの試合をするそうだ。なんと、6カ国の共催だ」
「——だがその後、2034年大会は単独開催となる。しかしこれは元の流れに戻ったとは到底言えない。現在国際サッカー連盟はワールドカップを大陸の持ち回りで開催することを原則としていて『2034年大会はアジアか、オセアニアから立候補を受け付ける』と広報していたのだが、何しろ『ワールドカップを開催したい!』と名乗りを上げたのが唯一『サウジアラビア』1カ国だけだった! 日韓が激しく招致を争った2002年大会と比べて何たる人気の無さか! 繰り返すがこれは『ワールドカップは1カ国で』という〝かつての原則〟に戻ったのではない。共催さえ実現しないという過酷な現実の表れでしかないのだ」
「——私は先ほど『日本にワールドカップを招致するという肝心な時に日本人役員不在で、どうでもいい時期に限って国際サッカー連盟に日本人役員がいた』という趣旨の発言をしたが、日本サッカー界は2050年までにワールドカップ日本開催を目指すと公言している」
「——だがもはや日本のワールドカップの単独開催など無い。100%無い。2050年の日本の国力など人口動態から考えて2002年にも及ばない。あの金満大国アメリカでさえ〝3カ国共催〟なのだ。参加国48カ国ものワールドカップの単独開催など今や国家にとって貧乏クジそのものだ」
「——ただ日本が動けばまたぞろ韓国が立ち上がるのかもしれない。しかし事情はかつてとはまるで違う。もはやワールドカップは単独開催が異端で共同開催が基本だ。今度トチ狂ってワールドカップ招致合戦などに参戦してみろ。2度目の日韓共催大会だ! 悪夢のイメージ再びだ」
「——とは言え2026年大会も2030年大会も3カ国もの共催だ。日韓2カ国だけでは足りないのかもしれない。すると中国か。2050年までとなるとやはり人口動態から考えて中華人民共和国の国力も下降線だからな。しかし中国人は中華思想だから『日本・韓国・中国』の3カ国共催は考えにくい。アイツらがやるなら『中国単独開催』だ。これの実現の可能性はどうだろうか?」
「——カネに汚いのが国際サッカー連盟だが、日ごろから『人権!』『人権!』言っている地元ヨーロッパ人連中の意向を無視する蛮勇は無いだろう。中国が外国人プレスにチベットやウイグルにおける自由な取材活動を許す事は無いだろうから、政治的に国際サッカー連盟が『中国単独開催』を推す事は極めて難しくなる。やはり日本がワールドカップ招致に名乗りを上げてしまうと、いくら日韓共催のイメージが一般ヨーロッパ人の中で最悪でも『2度目の日韓共催大会』が実現されてしまう可能性が高くなる。誰がそんなものに血税を使うことを許す? 喜ぶのは『左翼・左派・リベラル勢力』だけだっ!」
(ここで話しを『日韓共催』に戻した!)とかたな(刀)は感心する。
「——どうだったろうか、諸君。たかがワールドカップ、されどワールドカップだ。サッカー・ワールドカップを通じこれだけ韓国人という異民族の性質を把握できる。こういう異民族が日本のすぐ隣に棲んでいるのだ。ワールドカップはそうした理解を得るための助けとなる」
ここで意味ありげな一拍の間を取る仏曉。
「——ただ、これだけでは、どうしても取りこぼしてしまう件も出てくる。かの韓国発祥のカルト宗教についてだ。これだけは2002ワールドカップを持ち出してみても、かすりもしない事案なのだ」
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