第三百七十七話【2015国際サッカー連盟汚職事件と韓国財閥のボンボン】
「ワールドカップの日本単独開催を支持していた国際サッカー連盟のブラジル人会長は、『腐敗防止・連盟の改革』を大義としてヨーロッパ人役員達に反旗を翻され、そのとばっちりを食って日本のワールドカップ単独開催が消えた事は既に述べた通りだ」と仏曉、ざっとこれまでのお
「——ではブラジル人会長の後、国際サッカー連盟はそうした大義を実践に移せたのだろうか? 日本人にとっては実に忌々しい事だが、会長職をブラジル人がやろうとスイス人がやろうと、国際サッカー連盟という組織は全く変わらなかったのである。結局ブラジル人会長を改革の名の下に引きずり下ろした行為に何らの大義も無かった。国際サッカー連盟の改革を大義としたワールドカップの日韓共催は日本人に痛みを与えただけで、その体質は不変のままだった事が、日韓共催が決まってから19年後に証明されたと言える」
「——これまた日本人にとっては甚だ複雑な感情を持たざるを得ないのだが、国際サッカー連盟に対する告発者はアメリカ合衆国司法省であった。2015年5月27日、国際サッカー連盟副会長ら14人が『贈収賄やマネーロンダリングなどの罪』でアメリカ人に起訴された。国際サッカー連盟はこの5月28日から29日にかけ総会を開く予定で、チューリヒに関係者一同が集まっていた。一網打尽ができるタイミングを見計らって起訴だった」
「——具体的な告発内容は、というと『国際サッカー連盟幹部らは1991年から2015年までスポーツ関連会社などから計1億5000万ドルを受け取り、その見返りに企業側は国際大会のマーケティング権を得るなどの便宜を受けた』という。要するに贈収賄だ。何やらこれも日本人にとってはデジャビュな話しで、2020東京オリンピックで似たような事件が起こっている。とまれ、これが俗に言う『2015FIFA汚職事件』というやつである」
「——アメリカ司法省の告発を受け、スイスの司法当局が直ちに動いた。なぜにスイスかと言えばスイス・チューリヒに国際サッカー連盟の本部があるからである。スイスの司法当局は要請を受けた同日にうち7人を逮捕した。ここいら辺りが我々からすれば複雑な感情の原因となっている。日本人にはこんな政治的な力は無いからだ」
「——もちろんアメリカ合衆国の司法長官は即日即ち5月27日に記者会見を行っていた。場所はニューヨーク。司法長官はまず『FIFA(国際サッカー連盟)幹部は自己の利益のために地位を乱用した』と非難から切り出し、『汚職は20年にわたって繰り返されてきた』とさえ述べた。2015年の20年前といったら1995年である。『それが分かっていたのなら20年前に行動に移してくれよ、その時やっていてくれたら日本単独開催だったかもしれないのに』というのが〝日本人的感情〟というものである」
「——ちなみに、当時のアメリカ司法長官の名前は『リンチ』といったが、これ自体が一種のブラックジョークになっている。ただ、国際サッカー連盟側からは『それはリンチ(私刑)だ!』という抗議の声は上がらなかったようだ」と極めて真顔で述べた仏暁。場内からは苦笑が漏れる。
「——しかしなぜアメリカ司法省なんぞにスイスに集まっている外国人達の逮捕権という、そんな権限があるのかについては一応押さえておこうと思う」
「——なぜアメリカ司法省が動けたのか? その理由は二つあると云われている。一つはアメリカ合衆国の銀行の銀行口座が送金に使われた事。今一つは通称『RICO法』と呼称されるマフィア等の組織犯罪を取り締まる法律がある事。ゆすり・たかり・強要等、何かしらの利益と引き替えに金品を要求する行為を禁じている。これらが名分となった。アメリカ合衆国的には国際サッカー連盟とはマフィアの親戚みたいなもの、という認識なのだ」
「——こうしてアメリカが動いた事をきっかけとして『汚職は〝ワールドカップ開催地の決定〟を巡る案件にも及んでいた』とさえ取りざたされるようになった。スイス司法当局はこのアメリカの逮捕容疑とは別に、『2018年ロシア大会と2022年カタール大会のワールドカップ開催地選定を巡り不正があった疑いがある』として捜査を始めた。傍目にはアメリカに迎合しているように見えてさらに気分にさざ波が立つ。ただ結局国際サッカー連盟には開催地変更のつもりもなく、事実決められた通りの場所で大会は開催されたのであるが」
「——しかしサッカー・ワールドカップを不本意な形で開催してしまった国民としては『他の大会では本当に何も無いのか?』と勘ぐりたくなってくる。例えばこんな話しもある。2002ワールドカップの後、南アフリカでもワールドカップは開催された。2010年の事だ。この大会の招致の際、当時日本円にしておよそ12億円の賄賂を国際サッカー連盟元副会長が要求したというのだ。ただ、実際支払ったのかどうかがどうもよく分からない」
「——他には或る意味お約束。ワールドカップの放映権を得ようとする代理店などから複数の国際サッカー連盟理事に賄賂が渡り、総額100億円超の裏金が動いたという話しもある」
「——しかしそんな事より日本人として重要なのはこの『2015FIFA汚職事件』の後から開催地決定の方法が改められた事だ。つまり開催地は〝理事会の理事投票〟では決まらない。2026年大会は〝総会での投票〟で開催地が決まった。数字を見ればそれは一目瞭然だ。総会では『アメリカ・カナダ・メキシコ3カ国共催』に134票の支持票が投じられた。ちなみに最終候補に残ったもう1つの開催地であるモロッコは65票だった。国際サッカー連盟の理事は20余人程度だからな、全加盟国による投票によって開催地は決められるという事が実によく解る数字だ」
「——さて、アメリカ合衆国が国際サッカー連盟を告発した2015年、国際サッカー連盟が一致団結してアメリカと闘う、などという流れができる筈も無く、アメリカによる告発日から僅か一週間ほど後の2015年6月2日、あのブラジル人会長の後を受け会長職を得たスイス人会長が引責辞任を表明した。会長選5選を果たした僅か4日後にはもう辞任とは。内輪の絶対権力者もアメリカという権力の前にはここまで弱い。そしてここに『本能寺の変』直後の織田家中よろしく、国際サッカー連盟という組織の〝権力の頂点の座〟に誰が就くかという壮絶な跡目争いが始まった」
「——ここで再びあの名が出てくる。韓国財閥のボンボンだ。この男、この時既に韓国政界で上り詰めようとして失敗、さらには2011年の国際サッカー連盟の副会長選挙でも落選と、『人生の絶頂期は1994年から2002年だった過去の人状態』であったが、まだ性懲りも無く権力を欲しがった。この機に乗じ国際サッカー連盟会長職を得ようと動き出した。頂点を欲しがった」
「——韓国財閥のボンボンは直ちに活動を開始。アメリカのテレビ局に出演し、そこでスイス人会長の体制を厳しく批判してみせ、『我こそはクリーンな改革者である』と、国際的イメージ造りに励んだ。また同時に2002大会の過去を忘れてしまったか、当時の『欧州サッカー連盟』の会長との会談を設定したりもした」
「——だがワールドカップ招致で煮え湯を飲まされた日本人からしたら、相手が南米人だろうとヨーロッパ人だろうと自己の利益のためには誰でも彼でも攻撃し、そして誰でも彼でも利用する人間としか見えない」
「——そうこうして、本人的には『地ならしは済んだ』と思い込んだらしい。韓国財閥のボンボンは2015年8月18日、満を持して訪問先のパリに於いて〝次期国際サッカー連盟会長選挙への出馬〟を正式に宣言した。ところがこのすぐ翌日の8月19日、驚くべきニュースが流れるのである」
「——過去韓国財閥のボンボンはパキスタンに40万ドルを寄付し、大地震が起きたハイチに50万ドルを支援していた。これらの件について『国際サッカー連盟が韓国財閥のボンボンを調査している』と報じられたのだ。一見美談めいて見えるこれらの案件がどうして問題とされたのか? それはこれらの金が贈られた時期が2011年1月の国際サッカー連盟副会長選挙の時期と一致しているからだった。要は『この金をあげる見返りにぜひ私に役職を、』という賄賂の疑惑アリというわけだ」
「——ちなみにどういうわけかこの2011年時には韓国財閥のボンボンは副会長選挙で敗北しているのだが、そうした〝結果〟にお構いなしにこうした疑惑追及が始まった。さて、この疑惑が真実か否かについては、正直日本人の立場ではどうでもいい事だ。私には1996年の恩を2002年に仇で返した件について、本格的に国際サッカー連盟、即ちヨーロッパ人役員達による韓国への報復が始まったようにしか見えないと、そう理解するだけだ」
「——むろん韓国財閥のボンボンは韓国人ぶりを発揮し、温和しく真摯に対応するなどしなかった。『慈善寄付金さえ政治的に利用しようとするFIFA(国際サッカー連盟)のネジ曲がった反倫理的な態度を非難する』と、直ちに激しい反発をしてみせたのである。しかし国際サッカー連盟の会長になるのに、当の国際サッカー連盟から〝疑惑の持ち主〟として指弾されていたのではお話しにならない。役職は選挙で選ぶのであるから、こんな状態に身が置かれてしまったのでは会長職など夢のまた夢である」
「——こうして当人からしたら青天の
「——韓国財閥のボンボンは発言した。『日本の助けがあれば当選の可能性は99%』と。日本人からしてみたら『今さらどの口が言う!』以外の感想しか涌かない。99%どころかデジャビュ100%。これがあの有名な『用日』である」
「——こうした韓国財閥のボンボンに対する対応について、日本サッカー界の人間は日本の与党政治家ほど甘くなくボンクラではなかった。早い話し韓国に利用されなかった。〝国際サッカー連盟次期会長選〟に於いて韓国財閥のボンボンを会長に推さなかった」
「——ところがこうした日本の塩対応など外国人と比べたらまだまだずいぶんと甘かった。国際サッカー連盟の役員達、事実上ヨーロッパ人役員達と言っていいだろうが、彼らはこの後さらに苛烈な報復に討って出たのだ」
「——それは同年2015年10月8日の事であった。突如として韓国財閥のボンボンは国際サッカー連盟から6年間の資格停止と10万スイス・フランの罰金処分を受けたのである」
「——我々からしたら『え? そうだったっけ?』という感覚しか無いが、実は大韓民国はワールドカップ2022年大会を自国に招致しようとしていた。さっきも触れたが2022年大会はカタールだったので、韓国は招致レースに敗れている。だがこれまたそうした〝結果〟お構いなしに『韓国のワールドカップ招致活動で倫理規定違反があった』事とした。これが韓国財閥のボンボンの資格停止と罰金処分の根拠とされた」
「——この結果何が起こったか? 韓国財閥のボンボンの、国際サッカー連盟会長選への立候補が不可能となった」
「——韓国財閥のボンボンはこの決定にさらに激しく怒り、案の定と言うべきか『FIFA会長選への出馬を妨害する策略だ!』と罵った。そして実際行動にも移しありとあらゆる手段を採り対抗した。その結果はどうなったか? 資格停止期間の短縮には成功したものの、結局冤罪事件とはならなかった。この時点で韓国財閥のボンボンの国際サッカー連盟内部における政治力はゼロになったと言える。正に報復の完成だ」
「——我々日本人は『外国を見習え! それに比べ日本は』と言うのが大好きだ。これは思想の左右すら問わない。ぜひとも見習うべきだ。やられたら必ず報復する。こうしたグローバルスタンダードを身につけること無く外国人と相対するなど自殺行為でしかないと強調しておく」
「——さてこれは韓国から離れた余談となるしかないが、その後『国際サッカー連盟は改革されたのだろうか?』という話しも一応しておこうかと思う」
(これは『韓国』だけを叩くつもりはない、というギリギリのバランス感覚の発動なのだろうか?)かたな(刀)はふとそう思った。
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