第三百七十四話【2002ワールドカップ呼称問題】

「1996年6月、日本が招致を目指していたワールドカップ2002年大会が『日韓共催』という超異例の決着を見た後、一般の日本人、その大半は落胆し憤っていたのだが、そんな日本人の思いなど余所に『共催はどちらの国も傷つけない落としどころ』などと早くも報じ始めていたのが日本の国内メディアという『左翼・左派・リベラル勢力』であった。コイツらは本当に日本人の心に寄り添わない」


「——だがそうした一種の情報操作が積み重なるにつれ、いつの間にか多くの日本人の脳はコントロールされ、そもそも『ワールドカップ』が国際サッカー連盟のであることさえ忘れ去られていった。日韓友好ムード一色に世論が染め上げられていったのである」


「——しかし、日本メディアに代表される『左翼・左派・リベラル勢力』の懸命な日本人洗脳工作も韓国人という民族の手にかかれば一瞬で破壊される。ワールドカップ2002年大会が始まる前にもうその事件は起こった。それが『2002ワールドカップ呼称問題』なのである」


 今春、大学を卒業したばかりのかたな(刀)には何の事やらちんぷんかんぷんであったが、このプレハブ小屋に集うは大半が高齢者、若い方の遠山公羽でも60代である。彼らからは、

「あぁ、あったな、そんなのが」という声が上がり、その声はかたな(刀)の耳にも届いていた。仏暁は続ける。


「——2002年のワールドカップが規約破りの共催となってしまった結果、ワールドカップの組織委員会も二つ立ち上がる事になった。『ワールドカップ日本組織委員会』と『ワールドカップ韓国組織委員会』の二つである。先に述べた通り、1996年6月の日韓共催決定後の日本国内のマスコミ報道によって日韓の間には〝友好ムード〟が漂っていた」


「——だがそんなものは2001年、突如壊れた。あっさりと壊れるからこそ『かりそめ』という」


「——壊れたきっかけは〝呼称〟だ」


「——そもそも、ワールドカップ2002年大会の正式名称は『2002 FIFA World Cup Korea/Japan』であった。しかしこの名称からしておかしかった。英語表記なのに英語的慣習に反しているからだ」


(ん?、)とかたな(刀)。


「——アルファベットをそらんじてみ給え諸君。『——エイチ・アイ・ジェイ・ケイ——』の順じゃないかね? 『J』は『K』よりも先だ。つまりアルファベット順だと『ジャパン』が『コリア』より前になる。韓国の事を『サウスコリア』としてみても頭文字は『S』で『J』よりも後だ。英語的慣習に倣うならば『2002 FIFA World Cup Japan/Korea』としなければならなかった筈である」


「——なのになぜアルファベット順に逆らい順序が逆になっているのか?」


「——その理由は『ワールドカップの決勝戦を日本で開催する事になったから大会正式名の方はアルファベット順を逆さにして日本が譲った』のだという。韓国人的に言って『自国の名前が日本の後では感情的に許せなかった』からこうした異形の名前となった」


「——要するにこれは韓国人のゴネ得で、本来関係が無い事柄どうしを強引に結びつけた結果であり、韓国人という異民族の使だ。日本人ならお馴染みだろう」と言い切ってみせた仏曉。


「——例えばこうだ。韓国人は『日本人の歴史認識』を『安全保障の問題』と簡単に結びつけてしまう。そこに深刻な矛盾を見いだせないのだ。『日本は朝鮮半島を侵略し悪いことをした』という歴史観を、日韓あるいは日米韓の安全保障の基礎に置くならば、北朝鮮だって朝鮮半島の北半分なのだから、韓国人好みの歴史観は畢竟ひっきょう『日本が北朝鮮に対抗してはならない歴史観』となるしかないのである。それどころか『二度と侵略されないために』などという理屈をつけられて『北朝鮮核武装』さえ正当化されるオチとなる。そもそも『日米韓の連携』とはなんのためにやっているのか? という疑問さえ惹起じゃっきせしめる。関係無い事柄を強引に結びつけるといかにマヌケな事になるかという実例だ」


「——共催ワールドカップの試合会場に文句があるのなら、会場取り決めの際に取り引きをしなければ良かっただけの事だ。というのも決勝戦は日本でも開幕戦は韓国で行われているのだからな。つまり派手な開幕セレモニーの方は韓国側が獲ったのだ。いったん『開幕戦を韓国で、決勝戦を日本で』と合意した以上、これを蒸し返し絡める要求は難癖以外の何物でもない。どうして決勝戦の会場と大会名称が結びつくというのか? 韓国人という民族は自らの民族集団のを何よりも優先させ、他国他民族に押しつける性向がある」


「——これは韓国人という民族が絡んだだけで慣習すらも踏みにじられていくという教科書的実例だ。だがこれだけで終わらないから〝をいく民族〟などと言われる」


「——その〝斜め上〟がどんなものかを語るとしよう。『ワールドカップ日本組織委員会』は2002年大会の日本国内向けの印刷物に『2002ワールドカップ日本・韓国』と印刷していた。これに突如噛み付いてきたのがあの韓国財閥のボンボンで、当然というべきかこの男、『ワールドカップ韓国組織委員会』の会長も務めていた。韓国財閥のボンボンの要求は、『日本語の表記でも [韓国・日本]と、韓国を先に書け』、というもの。これがの事である。それまで何事も言ってこなかったのに突如攻撃が始まった。しかしそれを直接日本側に言って来たわけではない」


「——これがどういう事かというと、これもまた『事大じだい主義』というか、国際サッカー連盟を通じ、『 [韓国・日本] と、韓国を先に書け』と日本側に要求してきたのである。なにせ韓国財閥のボンボンは国際サッカー連盟の副会長だからな。『この地位を利用しない手はない』と、そう小ずるい事を考えたのだろう」


「——日本側のサッカー関係者も、共催のいきさつもあり相当にカチンと来ていたのだろう。直ちに反論を試みた。日本側の言い分は『日本国内での日本語表記について、[日本・韓国] と表記することは、共同開催が決まった96年時点に口頭で合意されていた事項だ』として、 [日本・韓国] の表記を認めるよう、国際サッカー連盟に求めた」


「——『』と、日本人側がいかにマヌケであるか、そうした揶揄やゆを誰かが口にしそうだが、もはや韓国人を語るのにそういうレベルはとうに通り過ぎた。もはやそういう事を言う者こそ韓国人に対する理解を欠いているマヌケなのだ。『日韓基本条約・日韓請求権協定』を結んでいてさえ、即ち条約として文書化していてさえ『徴用工問題で日本は賠償しろ!』と言ってくるのが韓国人という異民族である。文書にしてもこれならもはや、文字での約束も口約束と同じではないかね?」


「——案の定というべきか日本側の要求は国際サッカー連盟には通らない。なにせ韓国財閥のボンボンは国際サッカー連盟の副会長だ。奴の思い通りに事が運びまくる。もうこの時点で国際サッカー連盟に公平も中立もあったもんじゃない! なんと国際サッカー連盟は『正式名称どおり [韓国・日本] と表記するように』との裁定を下したのである」


「——しかし『ワールドカップ日本組織委員会』はこれに反発してみせた。立派なものである。だが日本語でさえも [日本・韓国] の表記は結局認められなかった。その代案のつもりだったのだろうか、国際サッカー連盟は非常におバカな仲裁案を出してきた。『日本語表記では日韓両国の国名を外した表記でどうか』と我々日本人に提示して来たのだ」


「——その結果、2002年のワールドカップは日本国内で、『2002ワールドカップ』と表記されるようになり、いったい何処の国で開催された大会なのか、遂に分からないと成り果てた」


「——そしてこの事件は後の時代に影響を与える副次的作用があった。日本と韓国、両国の組織委員会が呼称を巡り見解を発表するたびに、双方の国民感情を刺激し、サッカー関連のウェブフォーラムは日韓両国共に、相手国に対する罵詈雑言が飛び交う社交場と相成った。2001年2月5日にはオンラインが遂にオフラインとなった。韓国サポーター達がソウルの日本大使館前に集合し抗議行動を起こしたのである」


「——こうしてワールドカップ2002年大会は『左翼・左派・リベラル勢力』の虚しく、『嫌韓元年』となる。ただ、呼称問題の起きた2001年が元年なのか、実際大会が開催された2002年が元年なのか、個々人によって見解は分かれる」


「——そしてこれはに過ぎないのだが、ワールドカップ2002年大会を表記するのに『日本』の名前を使えなかったのは『最悪の中の最善手』であった。もちろん日本人自らの意志をもってその手を打ったわけではなかったが、ワールドカップ2002年大会から『日本』の名が消えたのは結果的には良かった。断言するがワールドカップ2002年大会はワールドカップそのもののである。韓国の味方などをして規約破りの日韓共催大会としたヨーロッパ人連中にこの後本大会で恐るべき呪いと災厄が降りかかる事になるのだ」


「——それを思った時、私個人としてはあの暗黒の2002年大会に公式表記として『日本』という呼称が使えなかった事を不幸中ながら最大の幸いとして考えるしかなくなっている。ハッキリと言ってやる。 ラグビーの方のワールドカップなら2019年に日本大会が開催されているがな!」


(んな無茶な、)とかたな(刀)。


「——『JAPAN』などと表記されていようとそんなものは私は知らない。日本語で『』と表記できない大会など、日本で開催されていないも同然と、そう考えているからだ!」


「——さあさ、ここからはワールドカップ2002年大会でヨーロッパ人連中の身に起こった事をざっとだが語っていこう! 自らの都合で韓国の肩を持った者どもが辿る末路についてだ!」と実ににこやかな表情で仏暁は言ってのけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る