第三百七十二話【日本版、『背後からの一撃』】

「と、その前に諸君らにはあらかじめ記憶に刻んでおいて欲しい〝年月日〟がある。それは『1996年5月30日』だ。ワールドカップ招致を目指していた日本が『』を国際サッカー連盟から打診された日がこの日だ。特に『』という年だ」仏暁は言った。


「——そして今ひとつ記憶に刻んでおいて欲しい事がある。日韓が自国にワールドカップを招致しようと戦っていた90年代のその時分、国際サッカー連盟の規約では、『ワールドカップは一国開催』と定められていた。当然日本側で招致に関わっている者達としては『規約が破られるなどあり得ない』を前提として行動するしかない」



「——さて、以上二点を記憶に刻んでもらったところで話しは『背後からの一撃』だ。とは言ってもそれは『ドイツ国籍を持ったユダヤ民族』のような存在を意味しない。我々は正真正銘の国籍も民族も日本人な日本民族からの『背後からの一撃』を食らっている。ソイツはいったい何者なのか?」 


「——答えを言おう。それはだ」

 場内ざわめく。

「——それも役職付きの政権入りしている政治家だ」と仏曉はさらに付け加えた。


 『韓国に的を絞って論じるべき』と仏暁に求めた雨土は難しい顔をして腕組みをしている。しかし仏暁は続けていく。


「——私は当時の国際サッカー連盟の規約が『ワールドカップは一国開催』と定められていたと述べた。これを無視する発言が、日本の有力政治家の口から飛び出していたのだ」


「——日韓がワールドカップ自国招致を争っていた、当時の日本の外務大臣が韓国の外務大臣との会談でこんな事を発言している。『どちらかにしこりが残るような事態は避けたい』だ。繰り返すがこれを1994年当時の日本の外務大臣が言ったのだ」(https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/483f04d6d36b9ba3cbd0ff88d1d57f56260b2755参照)


「——どう思ったかね、諸君。この発言に違和感すらも感じないようでは日本人は相当『日韓友好』に毒されている。『日韓友好』を日本人が果たさねばならない義務かなんかだと、知らず信じ込まされているのだ」


「——そこで私が当時の外務大臣だったとして、むろん暴言を封じ、どのように言うべきだったかの模範解答を示してみせよう。私なら『日韓いずれが開催地に選ばれようとアジア初のワールドカップになる。互いにアジアサッカーのレベルアップを世界に示す大会としましょう』だ」


「——これを言ったところで改めて1994年当時の日本の外務大臣の発言に戻る事とする。『』、なにかね、これは? 普通に考えて開催地が韓国と決まれば日本側に、日本と決まれば韓国側にしこりが残るんじゃないかね。普通は〝どちらか〟にしこりが残るものなのだ」


「——〝〟を避けようなどと思ったら、考えられる選択肢は二つしかない。一つは『日韓両国が同時にワールドカップ招致レースから降りる』だ。しかし、この発言が日本と韓国の外務大臣同士、所詮は表面上に過ぎないが一応は〝友好国同士〟の会談で飛び出している以上、『日韓両国が同時にワールドカップ招致レースから降りる』という意味は100%あり得ない。それは『お前の国はワールドカップ招致をするな』などという意味も含まれるからだ」


「——すると『どちらかにしこりが残る』事を回避する選択肢は一つしか残らない。それは『』だ」


「——日本のサッカー関係者と大半の国民が『ワールドカップ日本単独開催を!』と望んでいた1994年のその時代に、我々日本民族に背後からの一撃を加えてきたのは日本政府だ。日本の政治家だ! 〝残念ながら〟と言うほかないが、『ワールドカップ日韓共催案』は他ならぬこの日本から出てきているのだ」


「——日本政府に『ワールドカップ日韓共催案』もアリだと韓国政府は自らもこれに呼応する動きを見せた。、当時の韓国の首相が韓国国会の答弁に於いて『韓日関係にひびが入らない方向で解決されるのが望ましい』と発言しているのだ。そしてこの1995年も未だ〝日韓ワールドカップ招致合戦〟の最中なのである」


「——〝招致運動もたけなわ〟という時期にも関わらず、だんだんと『ワールドカップ日本単独開催!』に水を差すような悪い空気が醸し出されつつあった。じきに日本政府に呼応するかのように日本の経済界からも同様の声が上がるようになってきたのだ。『背後からの一撃』とはこういう意味だ! 〝韓国人という民族が政略に長けている〟と言ったのはこういう事だ!」


「——気の毒な事に、このおかしな日本の空気の払拭に追われたのは日本のサッカー関係者であった。この手の発言が出る度に日本の招致委員会は『共同開催はあり得ない』というコメントを発表し明確に否定するハメになった。これについて日本の招致委員会の関係者の苦い証言がある。それを紹介しよう。『政界にとっての国益は日韓友好でしょうし、財界もこれを機に何か日韓の間で経済活動が広がればいいと考えるわけですから、そういう案が出てくるのは当然です。でもFIFA(国際サッカー連盟)の規約に『一国開催』とあるんだから、我々としては『ありえない』と言うしかないでしょう』と、」(https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/483f04d6d36b9ba3cbd0ff88d1d57f56260b2755参照)


「——こんな事を言っていると『日韓友好のどこが悪いのか!』と、『左翼・左派・リベラル勢力』は必ずやいきり立つ事だろう。しかし残念ながらソイツらには道理が無い。当時国際サッカー連盟の規約に『一国開催』とある以上、『共催』などはルール破りなのだ。『日韓友好のためにはルールや規則も問答無用で破っても構わない』、などと言う奴らはほとんど韓国発祥のカルト宗教に洗脳された日本人信者同様である」


「——ワールドカップ招致合戦に於いて我々日本民族に背後からの一撃を加えたのは日本政府だ。日本の政治家だ。日本の経済界だ。コイツら上級国民どもが韓国人から精神的買収を受けていたのだ!」


「——ひとつ重要な情報を紹介しよう。『どちらかにしこりが残るような事態は避けたい』などとほざいたこの1994年の外務大臣についてのエピソードだ。この男は日本民族にとっては曰く付きの人物で、あの1993年の『慰安婦官房長官談話』を出した張本人なのだ。この男が官房長官時代に出した『慰安婦に関する官房長官談話』、この韓国をおもんぱかった談話はその後、アメリカ人や韓国人どもが〝今後日本人を国際レイプ民族として扱ってももいい〟という格好の根拠となった。日本人にどんな攻撃を加えても『人種差別や民族差別ではない』という絶対的免罪符となった。過去利敵行為をした実績のある男が外務大臣をやっていたのであれば、日韓ワールドカップ招致争いを巡って『どちらかにしこりが残るような事態は避けたい』などと曰う発言に、或る意味人格的整合性があるというものじゃないかね」


「——ワールドカップ招致合戦に於ける韓国の政略は国際サッカー連盟のヨーロッパ人役員どもだけではなく日本政府にも及んでいたと考える他ない」


「——こうして1994年、1995年の段階で『ワールドカップは共催でもいいよ』、と日韓両政府から政治メッセージが出てしまったのだ」


「——かくして日本政府が国家として『ワールドカップ日本単独開催』に冷淡である事が徐々に影響を及ぼし始めていった。そして運命の開催地決定日が迫る1996年4月末、或る日本の招致委員会の関係者は関係するヨーロッパ人達からこんな話しを聞かされていた。『ドイツとイングランドを回ったんだけど、みんな何だかはっきりしない顔をしていてね。ドイツではクラマーに会って話したんだけど、『大丈夫』というような積極的な日本支持を口にしないんだ。ドイツの会長も『日本も韓国も素晴らしい国だ』とは言うけど、『日本に1票入れる』とは言わなかった。その後、イングランドの会長に会ったら『日本が単独でやるのがいいとは思わない』なんて言い出した。『あれっ』と思ったね。ヨーロッパで共同開催という話が出ているという情報は知っていたけど、それほど気にしてなかった。でも、このときもしかしたら、と思った』と、」

 仏曉は眉間にしわを寄せながらそう言った。

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