第三百七十一話【買収できない相手は〝精神的に買収〟する】

「繰り返すがこの当時のワールドカップの開催国は理事会の投票という少数の人間によって決定されてしまう不透明で歪んだ選考法であった。巨額の資金が動く世界的イベントの割に買収工作が容易だ、と私は言った。しかしだ、人間とは面白いもので、中に〝買収が難しい人間〟というものがある」未だ仏曉に疲れの様子は見えない。


「——『その人間がクリーンだから』というご立派な理由もある事だろう。しかし、『こんなはした金で俺を動かそうと言うのか』と考えるから買収が難しい、という理由もまた成り立つ。真性の富裕層ならでは動くまい」


「——あらかじめ少し触れておいたが、国際サッカー連盟の中で、ヨーロッパ人の理事枠が一番多いのは昔も今も変わらない。なにせイギリス枠のおかげでヨーロッパは国際サッカー連盟に於ける副会長枠が〝2人〟もある。日韓が招致を争った当時だとヨーロッパ人の持つ票数は〝8票〟だったという。ワールドカップ招致のためにはこれは絶対に無視できない一大勢力だ」


「——ところで、これは欧米人に顕著な傾向だが、連中はに微塵の疑いも持たない。そしてその正義に反する者には徹底的な攻撃を加える。ヨーロッパ人の場合の具体例だと『温室効果ガスの排出権取引』だ。私に言わせればこの仕組みはイカサマだ。この制度では温室効果ガスは減らない。上手いことを言って他者からカネを巻き上げる〝新たな手段〟でしかない」


「——しかし、全体としてその頭数割合以上に政治力があるのがヨーロッパ人連中でもある。『温室効果ガスの排出権取引などはイカサマだ!』などと口に出せるのは私のようなアウトローだけだ。残念な事に、現状ヨーロッパ人連中の頭がひねり出したイカサマの方が世界的には正義になってしまっている」


「——そしてやっかいな事にヨーロッパ人連中にはこれがイカサマだという自覚が無い。頭から心底正義だと信じ込んでいる。逆にこうした人間は怖いのだ。腹立たしくあるが連中の正義に火を付け逆鱗に触れる行為は、招致運動という一種の接待活動をするに当たっては決定的致命傷になりかねない」


「——つまり理屈の上では『ヨーロッパ人以外を全員買収すれば済むことだ』が成り立つのだが、買収工作は声をかける人間が多ければ多いほど事が露見する危険度も増す。先ほど触れたが、中には『本当にクリーンな人間』がいたりするのもまた人間界だ。たった1人でも義憤に駆られた者が現れれば買収工作が白日の下にさらされる。そうなったらヨーロッパ勢は敵側、即ち韓国から見た場合に日本側についてしまう」

 ここで僅かの間をとる仏曉。


「——だが現実はそうならなかった。ヨーロッパ人連中は日本側につかなかった。諸君らは私が最初になんと言ったか覚えているだろうか? 『いかに韓国人が政略に長けた民族であるか』と私は語った。〝カネを使う買収工作〟しかできない連中なら、私はこうは言わない。使から『政略に長けた』と言ったのだ」


「——今や『ヘイトは悪だ』と、美しき建て前しか耳や目に入れてはならないという時代だが、『憎しみ』という感情は人間そのものなのである。人間が人間である以上、そこに存在しない事にはできない。これもまた人間界なのだ。韓国人という民族は己がそうであるが故に他者が持つ『憎しみ』を自己の利益に変換するすべに実に長けている」


「——国際サッカー連盟に於いてブラジル人会長があまりに長くその地位に居続けている事に対し、ヨーロッパ人連中はそれを快く思ってはいなかった。これを察知した韓国財閥のボンボン副会長は『欧州サッカー連盟』の会長のスウェーデン人に近づいた。そしてこのスウェーデン人は国際サッカー連盟副会長でもあった。即ち韓国財閥のボンボンと同じ地位である。副会長選挙で日本に勝った事がこんなところで生きてくる。つまり、韓国人がヨーロッパ人に政略を仕掛けたという事だ」


「—— 一方日本側のワールドカップ招致運動はブラジル人会長頼みであった。そしてこの会長の〝日本びいき〟は傍目からも明らかであった」


「——過去を知っているからこその浅知恵で、『組織内で評判のよろしくない人間を当てにするとは』などと、これについても今さらどうこう言うのは簡単だ。しかし、国際サッカー連盟副会長選挙で韓国に敗れたのがこの日本だ。そんな状態では〝連盟の中で一番偉い人〟に働きかけるのはごくごく自然な運動法ではないかね。最もオーソドックスな方法、言わば〝形勢不利の中での最善手〟というものだ」


「——しかしヨーロッパ人役員は憎悪によって動いた。私は韓国人、韓国財閥のボンボンがこの情緒を言葉巧みに刺激したのだと、そう考えている。韓国人にとってはこの手の工作などお手の物だろう」


「——例えば韓国人による対米工作を例に取ると、『連合国善玉史観』『原爆投下は戦争終結を早めた史観』といったアメリカ人の価値観は〔実は日本民族に対する憎悪感情である〕と、韓国人どもには先刻見抜かれていた。韓国人はこのアメリカ人の憎悪感情を刺激し、そのためにありもしない被害をでっち上げた。『韓国人少女が20万人、慰安婦として日本軍に強制連行されそのほとんどは強制収容所で死亡した』というのがそれだ。むろん〝ありもしない〟というのは向こうも先刻ご承知で、故に政府レベルでは決してやらない。あくまで民間レベルで仕掛ける。そこが政略なのだ。アメリカメディアやアメリカの大学教授といった自称知識人どもは韓国人に政略を仕掛けられているとも気づかず、このでっち上げをいとも簡単に信じ込み、我々日本民族に信じ難い理不尽な攻撃を加えてきたのである。このように韓国人は大韓民国と日本が対立した場合に常にアメリカ合衆国が韓国の側につくように演じてきた。そもそも日本国が大韓民国と国交を結ぶ時になぜ我々の血税を韓国人に支払ったのかね? その理屈が無いじゃないか。ここには大韓民国による対米工作という政略の臭いがある。奴らは1960年代にはもう政略を駆使し自国に有利な外交状況を造り上げてきたのである」


「——『人間という存在が人間である以上必ず持っている憎悪感情を、韓国人が自己の利益に変換している』という主張は、『左翼・左派・リベラル勢力』にはなかなかに刺激的な主張だろう。むろん逆鱗に触れるという意味での〝刺激的〟だが。しかしこの場合、『ヘイトを許すな!』即ち『憎悪を許すな!』という言い分では韓国も許してはならないのである。『人間の憎悪を自己の利益に変換する者』の存在を、見て見ぬふりする行為は結局憎悪を許しているのだ」


「——話しを日韓ワールドカップ招致合戦に戻すと、ワールドカップ招致に関わった日本人がヨーロッパ人役員になんと言われたかという証言があるのだ。それはこのようなものだ。——『ヨーロッパは『日本がいい、悪い』っていう議論じゃまったくないんだよ。要するに『アベランジェ(ブラジル人会長)憎し』の話になってる。『ワールドカップを日本でやりたい』とアベランジェ(ブラジル人会長)が言っているから、日本開催になってしまうと彼に屈することになる。だから日本を支持しないっていうんだから……』と、」(https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/483f04d6d36b9ba3cbd0ff88d1d57f56260b2755参照)


「——韓国財閥のボンボンによって、こうしたヨーロッパ人の情緒は、したたかに利用された。日本と韓国どちらでワールドカップを開催するのかという招致合戦はおよそ真っ当な自己アピール合戦とはかけ離れた醜悪な戦いとなっていったのである」


「——しかし、ここでひとつの疑問が湧く。そこまで韓国に有利な状況を造っておきながら『なぜ韓国単独開催ではなかったのか?』という疑問だ。実は我々日本人はを食らっていたのだ」仏暁は〝あの言葉〟を平然と言い放った。


 かたな(刀)は唖然としている。

(自分でヒトラーの言葉を語っておいて、その自分も言うのか)、と。

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