第三百六十九話【遅れてきた男は手段を選ばない?】
仏暁は自身の口が言った通りに話しの脱線を始めている。
「——『副会長』などと聞くとあたかも1人しかいないような気がしてしまう。が、国際サッカー連盟の副会長は8人もいるという」
(え、そうなんだ、)とかたな(刀)。
「——これがどういう事かと言うと、副会長は各大陸連盟からそれぞれ1人ずつ、必ず選ばれる。日本は『アジアサッカー連盟』に所属している。つまり、この『アジアサッカー連盟』の中で多数派の支持を得られれば、日本人でも韓国人でも他のアジア地域の国の人間でも国際サッカー連盟の副会長になれる」
「——余談となるが『副会長』の一階級下の役職がただの『理事』で、こちらは各大陸連盟に振られた割当数というものがある。つまり頭数が違う。例えば2015年時だと『アジアサッカー連盟』からの枠は3人、最多の『欧州サッカー連盟』が5人となっている。ここだけ聞くと代表チームの強弱が関係あるのか?、と勘ぐってしまうが、『南米サッカー連盟』の枠は2人しかない。なんとあのブラジルとアルゼンチンを擁する南米の方がアジアよりも理事の割当数が少ない。つまり、代表チームの強弱は関係無く純粋に国の数に拠る比率で理事枠が決まっているのだろう」(https://www.nishinippon.co.jp/wordbox/8170/参照)
「——ただし、国際サッカー連盟副会長については『欧州サッカー連盟』のほか、『イギリス枠』とも言うべき枠がある。イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドのいずれかの地域から必ず1人、副会長は選ばれる。〝サッカー発祥国に対する敬意〟、とやらでこうなっているとの事だが、このためヨーロッパ系の副会長は2人になる。この点を鑑みると国際サッカー連盟に於けるヨーロッパの発言権は、他の地域よりも上であると言っていいいのかもしれない」
「——ともかくも日本人が国際サッカー連盟の副会長になるのにヨーロッパ人とも南米人とも競争する必要は無い、という点を頭に入れておいて欲しい」
「——既に選挙で『日本は敗れた』旨結果を口にしてしまった後だが、時は1994年5月、クアラルンプールで国際サッカー連盟副会長選挙は行われた。候補者を立てた国は3カ国。日本・韓国・クウェートであった。この中の1名が当選だ」
「——選挙前の下馬評では最有力がクウェート人であったという。むろんただのクウェート人ではない。王族であった。それ故最有力だったのだろう」
「——ところが、いざ選挙運動が始まると〝韓国財閥のボンボン〟が急激に追い上げてくる選挙情勢となってきた。これはあやふやな話しではあるが、これに焦りを感じたクウェート人王族の立候補者は日本に、『貴国の立候補を取り下げて欲しい』と取引を持ちかけてきたという。露骨に言うなら『その分の票を私にくれ』、という意味だ。そしてその彼は『私が国際サッカー連盟副会長になった暁には2002年大会を日本で開催する事を全面的に支持する』と利益誘導してきた、との事だ。しかし日本側はその〝誘い〟には乗らなかった。なにせ日本は結局のところ立候補は取り下げてはいない」
「——そして選挙結果はこうなった。クウェート人王族10票、韓国財閥のボンボン11票、日本人たったの2票。この結果、僅差で韓国財閥のボンボンが国際サッカー連盟副会長職をゲットした」
「——このような結果を知ってしまうと、日本人候補者に入った2票がクウェート人候補者の方へ行ったなら、クウェート人王族12票、韓国財閥のボンボン11票となり、韓国人が国際サッカー連盟副会長職に就く事など無かった。その場合、ワールドカップ日本単独開催の目があったかのように思える。しかし、後知恵で他人のことをアホだのバカだの言う事は実に簡単である。『日本人が立候補する事により〝韓国財閥のボンボン〟に入る票を削り、下馬評通り〝クウェート人王族〟を勝たせるつもりだった』、という考え方もまた成り立つ」
「——だが『獲得した票がたった2票とは』、と今さらながらに事実を知ってもこの結果には愕然とする。相手がクウェートの王族と来れば連想するはオイルマネー。そして今一人の相手が韓国財閥のボンボン。日本人候補者には明らかにカネの力が無かった」
「——さて、私はいかにも『買収があった』かのように喋っているが、これは厳密には憶測に過ぎない。確実に言えるのは『アジアサッカー連盟』という任意団体の中での選挙では、国連選挙監視団の如き第三者の目によるチェックも無いという事である」
「——なぜ私が疑うか? それはこの時の日本の候補者はそれほどの泡沫候補ではないと考えられるからだ。当時の日本サッカー協会では国際委員として活動していたと。即ちサッカーを通じて顔が広く知己多く、それはヨーロッパにまで及んでいたという」
「——これに比べ韓国財閥のボンボンが『大韓サッカー協会』というあちらさんのサッカー協会の会長職に就いたのは1993年だ。『ワールドカップを韓国で開催する!』と発表したこの年に始めて世界のサッカー界と関わりを持ち始めたに過ぎない。こんなポッと手を挙げたばかりの韓国財閥のボンボンよりも日本の候補者の方が明らかに〝世界のサッカー界に於ける人脈〟は広かったのは間違いない。『それでこの圧倒的票差で負けるか?』、と私は言っている。するとこの選挙の敗因は何になるか? 〝カネ〟以外あるかね?」
「——重要な事は繰り返そう。韓国財閥のボンボンが『大韓サッカー協会』というあちらさんのサッカー協会の会長職に就いたのは1993年だ。それでもう翌年の1994年には国際サッカー連盟の副会長だ。不自然すぎるとは思わないかね?」
場内、うめき声のような声が漏れる。
「——ここで私は『左翼・左派・リベラル勢力』が日常的に使う伝家の宝刀を抜こう。『疑惑は益々深まった』。これで疑惑を持たれた側に説明責任が生じるという理屈を、私は韓国に対しても容赦なく使うのみだ。『左翼・左派・リベラル勢力』は相手によって疑惑が深まったり疑惑そのものが消えてしまったりといった便利な脳を持っているようだが、私は連中の脳味噌などに従わない。使うべきところで『疑惑は益々深まった』と使うのみ!」
一瞬、拍手が鳴りかけたがさっと素早く仏暁が制した。
「——今、私の話しは〝相当横に逸れているように見える〟という自覚がある。中にこう思っている者はいないだろうか? 『なぜ日本と韓国のワールドカップ招致合戦の話しが、国際サッカー連盟副会長選挙の話しになっているのか?』と、」
(しまった、)言われて初めて気がついたかたな(刀)。場内もざわめく。
「——国際サッカー連盟の副会長に日本人が就くか韓国人が就くかは、ワールドカップ招致合戦の前哨戦なのだ。私は『国際サッカー連盟の選挙は真っ当ではない』と言った。真っ当でない選挙に勝つには、日本人を国際サッカー連盟副会長職に就ける必要があったのだ。これについてはまた少々説明を要する。韓国を攻撃する際には特段の慎重さが求められるため、こうした背景についての理解がどうしても必要となり必然話しが長くなってしまう」と言って仏暁はやれやれポーズをとる。
「——今から私がするのは『サッカー・ワールドカップの開催国はどうやって決まるのか?』というその仕組みについての説明だ」
もはや仏暁の話しは韓国の話しと言うよりはサッカー・ワールドカップの話しとなっていたが未だ聴衆に飽きは見られない。
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