第三百六十五話【偏った『仲裁者』 偏った『審判員』】
「諸君らは奇異に感じている事と思われる。『審判員』なることばが唐突に出てきた事を、」仏曉がその〝奇妙な意図〟を語り出した。
(そこまで考えてみんな聞いてるのかな?)と率直に思うかたな(刀)。
「——要はこういう事だ。日本と韓国が対立した場合に我々が頼みもしないのに『仲裁者』のような顔をしながらノコノコ出てくる者がいる。両国の間に割って入って来るのだ。それが実質『審判員』になっている、と、私が言いたいのはこれについてなのだ」
「——これまた初っぱなから〝答え〟を断言しておく必要がある。私が『審判員』と言ったのはアメリカ合衆国政府であり、アメリカメディアである。これが〝主審〟で、主審を補助する〝副審〟が日本国内の『左翼・左派・リベラル勢力』である」
「——これが〝本物の審判員〟の役割を果たしているのなら、こっちから頼んだわけではなくともまだ納得できる。本物だったなら日本と韓国が対立した場合だと、『日本の勝ち』『韓国の勝ち』『日本と韓国のドロー』の三種のジャッジメントが存在しなければおかしい。それならば『公正・公平・中立』と言える余地があるのだが、日韓が対立した際、『日本の勝ち』というジャッジメントを決して出さないのがアメリカ合衆国政府とアメリカメディアなのである」
「——こんな事を言っていると『レッテル貼りだ!』と言って攻撃してくる輩が必ず出てくる。あるいはマウントをとりたい者は『対立している当事国の間に入ってくる者は審判員ではなく仲裁者というのだ』と、〝間違い〟を指摘し、我々を小馬鹿にしてくるのかもしれない」
「——それを予測し、まずは『仲裁者』と『審判員』について、どう同じように見えて、どう違うのかを整理しておこうかと思う」
「——確かに『仲裁者』と『審判員』は似ている。両者ともに『公正・公平・中立』を建前とする。建前としているものの、良心を欠く公正でも公平でも中立でもない『仲裁者』と『審判員』がいるというところも両者はよく似ている」
「——では違う点はどこか? 一つある。仲裁者の仲裁案に服従義務は無く当事者が不満なら蹴る事が可能だ。つまりは〝交渉決裂〟というのは起こり得る。その一方で『審判員』のジャッジメントには服従義務があり当事者に不満があっても蹴る事は許されない」
「——本来はアメリカ合衆国などが日韓の間に入ってきても『仲裁者』に過ぎないのだから理不尽な〝仲介案〟など蹴っても構わないのだが、日本がアメリカに安全保障を依存し過ぎているためアメリカは日本に対してはあたかも『審判員』のように振る舞えるのだ。この『審判員』は日韓が対立した時に頼みもしないのに必ず現れ、しかも公正でも公平でも中立でもないジャッジを日本に下す」
「——さてさて、我々の敵はつまらないところで揚げ足取りをする性癖がある。『公正でも公平でも中立でもない仲裁者と審判員がいる』、と言い切った上に、ましてそれを『アメリカだ』と名指しした以上は噛みついてくる輩が必ずや出る事であろう。そうした輩はたいていの場合『左翼・左派・リベラル勢力』だから、あまり『アメリカだ』の方には噛みついては来ない。むしろ日本が自前で安全保障をどうにかしようとする事の方に反対する。日米安保条約の条文を持ち出し『アメリカは日本の矛だ!』と言い出し、〝アメリカの安全保障に依存すべきだ〟という立場を却って強固に明確にするのである。だから私は『副審だ』と言っている。よって日本国内の『左翼・左派・リベラル勢力』は彼らの正義を気取れる方、『公正・公平・中立だから仲裁者であり審判員なのだ』と、〝善意論〟をぶつけて来る方の手段を選択する事だろう」
「——しかしそれについては具体例を挙げれば誰であろうと簡単に本質は理解できる。ウクライナ戦争、ロシアによるウクライナ侵略戦争に於いて戦争が膠着状態となってくると、それこそ〝善意〟の顔をした『仲裁者』ポジションに立とうとする者が涌いて出てきたものだった。即ち連中は〝停戦案〟を唱える。中にはウクライナのNATO加盟を絡める者さえいた」
「——そういう者どもは決まって〝大義〟らしき事を言う。『これ以上の犠牲者を出さないために』と。一見、部外者視点では人道的に見える。だがその犠牲者の中にはロシア兵が含まれる。一方でウクライナ側にはウクライナ兵のみならず民間人も含まれている。これでロシア軍が占領したウクライナ領はそのままに、停戦状態が成ったならこれは確実に日本の北方領土と同じになる。その土地はロシアの既得権益となり〝ロシア領〟という事にされてしまう。これにどれほどの美辞麗句を尽くしてみても、これは『ロシアに領土を割譲する事を条件に停戦した』以外の何ものでもない。一方的に侵略を受け多くの犠牲者を出し、国土が侵略国に奪われた状態で停戦するよう求めてくる者は典型的な公正でも公平でも中立でもない『仲裁者』なのであり、こうした手合いは間違いなく実在している。この点『審判員』の方も同じようなものなのだ」
「——むろん実際のところ国際社会に『審判員』など、そんな者はいない。なにせICC、即ち国際刑事裁判所でさえもまともに機能していないのがこの世界である。それでもなお私がアメリカ政府やアメリカメディアの事を『審判員』などと呼んでみせたのは別に〝連中に服従すべき〟と考えてのことではない。奴らに服従し続ける日本政府を揶揄しての事だ」
「——今から私は事実のみを言う」と、仏暁改まる。
「——米軍のための韓国人慰安婦はいた。彼女達は悲惨な証言をしている」
「——しかし大韓民国政府は米軍慰安婦問題の追及はしない。これまで追求してきたのは日本軍慰安婦問題だけだ。また、韓国国民の世論もこれに同じである」
「——そのためアメリカ合衆国は日本のように『性奴隷国家』『国際レイプ国家』という汚名を着せられる事も無く、国際的イメージダウンを逃れている」
「——そしてアメリカ合衆国とアメリカメディアは『慰安婦問題』について大韓民国政府とまったく同じ主張、『日本軍慰安婦問題だけに問題がある』という主張をして〝韓国勝利〟のジャッジメントを下した。その集大成が2007年6月26日、アメリカ合衆国下院外交委員会で採択されたいわゆる『慰安婦対日非難決議』である」
「——さて、これらの事実から論理的考察を始めようか。アメリカ合衆国は韓国政府の政策方針の結果、利益を受けている。米軍慰安婦問題を国際問題化されていない。このように韓国政府から利益を受けている者が『審判員』の立場にいる。そういう者どもが公正だろうか? 公平だろうか? 中立だろうか? 答えは明らかだ! 一方の当事者から利益を受けている審判員が公正公平中立であるわけがない!」
「——今のは『慰安婦問題バージョン』だが『徴用工問題バージョン』もある。こちらの方はアメリカという名の『審判員』によって〝ドロー〟にされてしまった。しかも限りなく韓国の勝ちに近いドローにだ!」
仏暁が手元のファイルを繰り始める。
(これにもなにか資料があるの⁈)と舌を巻くかたな(刀)。
「——アメリカに『勇気賞』という今ひとつ権威があるのか無いのかよく解らない〝賞〟がある。2023年9月、『日本の首相』と『韓国の大統領』両名にこの『勇気賞』という賞の中の〝国際特別賞〟が授与される事が発表された。実際の授賞式は同年10月である」
「——私が〝今ひとつ権威があるのか無いのかよく解らない〟と言ったのはこの〝賞〟が創設されたのが1989年で、できてから時間的には半世紀にも満たず、創設したのが『JFK』で名が通っているケネディ元大統領の家族だというから、どうも私人が勝手連的に造った『賞』に見えてしまうという、こういった点からだ。現に授与を発表したのはケネディ元大統領の娘であった。これではケネディ家のケネディ賞である。しかしそうは言っても授与するのは個人ではなく『ケネディ大統領図書館支援財団』という形になっているから、アメリカ国内に於ける『ケネディ・ブランド』と相まって、見ようによっては権威があるようにも見える」
「——さてこの賞、いったいどういう実績を上げると受賞に至るのか、そこが関心事だが、具体的な受賞者を見るとだいたいのところは解る。『黒人初と言われるアメリカ大統領』、そして『〝アメーリカ・ファースト!〟を連呼していた大統領の弾劾裁判に於いて、当該大統領と同じ党の所属であったにも関わらず敢えて有罪票を投じた上院議員』が受賞している、と言われれば察しはつくだろう。アメリカン・リベラルが賞賛する価値観の実践者に受賞資格があるというわけだ」
「——日本人ならこの時点で〝嫌な予感〟を感じて欲しいところである。と言うのも受賞を発表したケネディ元大統領の娘の発言にはまともな日本民族なら到底容認できない部分があった。今からそれを読み上げる。『複雑な歴史問題をひとまず横に置き、関係修復に取り組んだ。信じられないほど勇敢だった』、これが受賞の理由なのだ! 『歴史問題をひとまず横に置き』というのは何だ! 『ひとまず』とは!」
「——これが『歴史問題を乗り越えて関係修復に取り組んだ。信じられないほど勇敢だった』という発言だったなら私もこれほどの怒りは持たない。この発言で私は改めて日韓間に於けるアメリカ人は『公正公平中立ではない審判員』なのだという価値観を正しいと確信した」
「——なぜならば大韓民国とは『日韓基本条約』及び『日韓請求権協定』を結んでいて〝徴用工〟の件もその条約に含まれていた筈だからだ! 日本は韓国との歴史問題をひとまず横になど置いていない。国民徴用令の動員者、即ち徴用工について個人補償を申し出た日本政府に対し当時の韓国政府が『個人への補償は我々が代行してやっておくからひとまず我々にそのカネを渡してくれ』と申し出て、その求めに応じたためその線で条約妥結となったのだ!」
「——そしてこの条約にもむろんアメリカ合衆国が絡んでいる歴史的事実を忘れてはならない。当時のソ連との『東西冷戦』を理由に条約締結のための日韓交渉はアメリカ合衆国が仲介を行っているのだ! その結果がまた実にふざけたものだった!」
「——これらの条約を締結するに当たり日本は韓国にいくら支払ったと思っているのだ! 無償で3億ドル、有償で2億ドル、合わせて5億ドルもの資金提供を韓国などに
「——こうしたいきさつの条約であるにも関わらず現代に生きるアメリカ人には『複雑な歴史問題をひとまず横に置いた』事にされる。『歴史』が1945年8月16日より後も続いているという厳然たる事実すら把握する能力を欠くのがアメリカ人、中でも特にアメリカン・リベラルである事が解る。こうしたアメリカ人のジャッジメントは一見『ドロー』に見えようと紛うこと無く〝韓国寄り〟なのだ」
「——しかしこういう事を言っていると今度は意外な伏兵が我々を襲ってくる可能性がある。いわゆる『与党派』『親米派』からの攻撃すらも我々は予測しておかなければ我々の身は護れない。それはおそらくこうした理屈で来る筈だ。——曰く、『大韓民国は〝対日戦勝国〟、即ち連合国の一員であるとの立場を主張し戦勝国としてサンフランシスコ講和条約に署名参加する事を米国務省に要求した。日本に戦争賠償金を要求できる立場である事をアメリカやイギリスに認めさせようとした。しかしこれはアメリカ・イギリス両国から「それは違う」と拒否されている』とか言い出し、『アメリカは日韓間に於いて公正公平であった』と強引に結論づけてくる可能性がある」
「——しかし〝連合国にどの国を加えるか〟は連合国内部の問題で、我々日本は枢軸側だ。〝誰を連合国と認めるか〟については完全に部外者だ。つまり〝大韓民国が連合国か否か〟という問題は『米英VS韓』の問題でしかない問題なのだ」
「——この点当時のアメリカ人の答えは明快であった。ダレス国務長官顧問は大韓民国政府のこうした要求に対し駐米韓国大使に〝連合国の条件〟を明示して突き返した。『日本と戦争状態にあり且つ1942年1月の連合国共同宣言の署名国である国のみがサンフランシスコ講和条約に署名するので大韓民国は当該条約の署名国にはならない』と通達したのだ」
「——『朝鮮は第二次大戦中は実質的に日本の一部として日本の軍事力に寄与した』、これがアメリカ人やイギリス人の基本的な考えで、そうした存在が連合国の立場を要求するなど〝利権の分け前に預かろうとする賤しい行為〟としかアメリカ人やイギリス人の目には映らなかったという事だろう」
「——ちなみに補足と説明を一応しておこう。どうして第二次大戦中に存在していない国が『連合国になれる』と思ったか、韓国人達のその『理屈』、その頭の中についてである。韓国政府曰く、『韓国を連合国から除外する今次の草案の態度自体からして不当だ。第二次世界大戦中に韓国人(朝鮮人)で構成された組織的兵力(抗日パルチザン)が中国領域で日本軍と交戦した事実は、韓国を連合国の中に置かねばならないという我々の主張の正当性を証明している』、のだそうだ。これに個人的感想を述べるなら、武装ゲリラ活動をしているだけでそれを国家にできるのなら『イスラム国』も立派な国家になるなぁ、だ」
場内に苦笑が漏れる。
「——これに対し、アメリカやイギリスの大韓民国に対する〝最終的回答〟は以下の如くとなった。1951年9月8日の日本とのサンフランシスコ講和条約の調印式に韓国の参加は許可されなかったのである」
「——そしてこれは別の意味に於いて我々日本民族もしっかりと頭にたたき込んで刻んでおかなければならない事実だ。私は大韓民国とその国民を敵だと言った。『左翼・左派・リベラル勢力』なら必ずや激高する事を言った。しかしだ、連合国というのは我々の敵ではないか。何せ我々は枢軸国で常にナチスとくっつけられているのだからな。韓国人達が最初に『韓国は連合国だ』と言い出した。これは『我々韓国人は日本人の敵です』と、向こう側から名乗りを上げたという事だ。〝敵認定〟は向こうが最初に我々に対しやってきた。そして現在、互いが互いを敵と認識し合う。これをして一種の相思相愛という。良い事じゃないか!」
これに拍手涌く場内。柔よく剛を制すが如し、相手の動作を逆手にとり自身に優位な状況をあっという間に作り上げてしまうその手腕に皆感嘆しているようであった。かたな(刀)もその一人、
(これが本当にアドリブなのか、)と思うしかない。
と、ここで仏暁、話しに間をとる。その表情に特段の変化は見られない。
「——私はこうした韓国人達のやり口に非常に覚えがある。韓国政府とその国民の戦術は〝イジメ側のやり口〟と同じである。同じグループ内で多数派を造ろうとする。〝同じグループ内〟というのがミソだ。サンフランシスコ講和条約の際にはアメリカやイギリスの仲間になろうとして失敗したが、現在アメリカ政府は『日米韓の連携を』と主張しており、アメリカ的には韓国は同じグループとして取り扱われている。韓国は最大限この状態を利用し、後は常に『2対1』の比率になるよう、常に日本が少数側になるよう政略を巡らせれば韓国は常に日本に勝つことができる。そして事実これを実行し成功しているのである。これと対照的な比較対象が北朝鮮だ。そもそも北朝鮮と日本は同じグループではないため、北朝鮮には韓国と同じ戦術を駆使し日本を国際的に追い込む事は不可能だ」
「——さて諸君、明らかに攻撃対象がアメリカになってしまったが、もうこれで私の戦術が理解できた筈である。日本と韓国が対立したる時、ほとんど韓国のゴネ得で決着する。その原因は日本と韓国が対立した場合にしゃしゃり出てくる『アメリカという名の審判員』にあるという事だ。だから韓国に政略的に勝利するためにはこうした『審判員』を、いの一番に潰しておく必要がある。常に韓国有利の判定を下す信用のならない者としてその権威を徹底的に削り取り、世上の評判を悪化させ、日本の世論にこれを広く定着させ、『アメリカという名の審判員』がこれまで通りに振る舞えないようにしてやればこちらの勝利条件は整ったと言える!」
「——これにより、韓国の
ここでまたも場内苦笑い。
「——さてさて、我々の敵はつまらないところで揚げ足取りをする性癖がある、と私は言った。『審判員を侮辱している! 買収される審判員がいる前提で話しをするとは何事か!』、と言い出す者がいるのかもしれない。だが『韓国と審判』と言えば、限りなく黒に近いグレー事案があるのだからそういう発想にもなる。いや、むしろこうした発想はそこから出てきたと言っても過言ではない」
「——では諸君、お待ちかね。今より韓国単独、韓国以外の外国を絡めて韓国の悪印象を薄めているように見えない韓国の話しをしよう。あの悪夢の2002日韓共催ワールドカップについてだ」仏暁は宣言した。
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