第三百六十四話【『戦犯旗』『戦犯企業』『戦犯国家』】
仏暁が演台に両肘を伸ばし手をついた。
(ある程度の資料は手元にあっても、『韓国』についての演説用原稿の用意など無いはず。アドリブで演説なんてできるもの?)そう思ったかたな(刀)。
語り出す仏曉。
「まず初っぱなから〝答え〟を断言しておく必要がある——」
「——『大韓民国とその国民は日本民族にとって敵か味方か?』、この問いの答えである。答えは敵だ」
(ひえっ、いきなり言い切った!)とかたな(刀)。場内もまたざわめく。皆〝説明〟の方を先にすると頭から思い込んでいたようだった。
「——ここで絶対前提としてくれぐれも間違えてはならぬ事がある。私が問うているのは『大韓民国とその国民は日本にとって敵か味方か』ではないという事だ」
(?)とかたな(刀)、いまなんてった? という感覚。
「——諸君からしたら『まぎらわしい事を言ったものだ』と思う事だろう。中には『同じではないか』と思う者もいるのかもしれない。だが違いは〝表現〟だ。『日本民族にとって』と『日本にとって』では、細かいようだがその意味合いが百八十度引っくり返ってしまう事が起こり得る」
「——『日本にとって』という表現では言外に『日本政府にとって』という意味も含まれてしまうのだ。日本の与党政治家どもはアメリカ合衆国の外圧に極めて弱いため『日韓関係をなんとかしろ』と陰に陽に圧力を受けると、途端に道理を引っ込め無理を押し通す。『対北朝鮮だ』『対中国だ』と持ち出してきて結果強引に日韓友好を成し遂げてしまう」
「——『対北朝鮮・対中国』が名分なら韓国軍は我々にとって〝友軍〟という事になるが、韓国海軍が自衛隊機に射撃管制レーダーを浴びせた件について、日本は韓国側から一切の公式謝罪も受けていない。受けていないのに日本政府はこれからは韓国軍を友軍として扱うのだという。必ずや現場の自衛隊員の中に憤る者がいる。そしてそれは当然の事だ」
「——このように『韓国は敵か味方か』といった問いに日本政府、即ち日本の与党政治家どもを含めてしまえるような曖昧な問いかけ方をした場合、その〝答え〟が変わってしまうのだ。答えが『味方だ』に変わってしまうのだ。『日本政府にとっては味方』だとな。世襲政治家という上級国民が要職を占める政府や与党の意志が我々大衆の意志と同じであるわけがない!」
「——したがって問いは『大韓民国とその国民は日本民族にとって敵か味方か?』になるしかないのである」
「——〝答え〟を最初に言った割に前置きが長くなってしまった。さて、『大韓民国とその国民は日本民族にとって敵である』と断定した事について、『左翼・左派・リベラル勢力』がこれを聞いたなら直ちに発言者の悪魔化を図る事だろう」
「——韓国について語る以上僅かな時間的隙すら見せられない。よって直ちに敵と断定した根拠を示す。それは『戦犯旗』『戦犯企業』『戦犯国家』だ!」
あまりに短い〝その根拠〟。これに場内は困惑。拍手も湧かない。しかし仏暁、落ち着き払ったもので場内をぐるりと見渡す。
「『戦犯旗』『戦犯企業』『戦犯国家』というのは韓国人が造りだした合成名詞であり、これらの語彙は基本的には韓国内でしか通じていないものの、まごうこと無く〝日本民族攻撃のための新たな価値観〟なのである。韓国人達はそうした価値観を創出する奴らだと我々は認識しておく必要がある。『どうせ韓国国内だけ』などと諦観するなど論外。我が身を護りたかったら奴らの行為行動に常に警戒を怠ってはならないのだ」
「——と言うのも韓国人達はこの合成名詞を欧米に輸出しそれらの社会に定着させ世界的に通じる価値観にしてやろうと、たった今この現在も政治運動を続けているからなのだ。そうした政治運動は欧米社会で実際大戦果をあげている。故に私は敵と断言しているのだ。我々日本民族がこうした排日主義の異民族を敵と定義しても特段の不思議は無いのである」
「——非常に我々の精神に負担がかかる事であるが、過去一年分、韓国で発行された新聞の、日本に絡んだ記事を片っ端から追っていけば、『戦犯旗』『戦犯企業』『戦犯国家』といった合成名詞に必ず遭遇する。わざわざ日本語訳にしてくれている韓国の新聞社のサイトもあるから割と簡単に確認はとれる筈だ。それはこれらの合成名詞が韓国社会に定着しているというまぎれもない証拠なのである。なにせ新聞が使っている語彙なのだからな」
「——ではそれら合成名詞の具体的中身に入ろう。そうした合成名詞が〝日本の何を指しているか〟について明らかにしておかねばならない」
「——『戦犯旗』とは何を指しているか? それは日本を表す旗のひとつ、『旭日旗』を指している。所属を明らかにする識別旗として自衛艦に今現在も掲げられている旗だ。韓国人という異民族はこの旗について『ナチス党の党旗と同じである』と欧米人達に吹聴した。ナチス党の党旗とはあの『ハーケン・クロイツ』であり日本語に訳せば『
「——そうした行為の結果は、というと、韓国人達は大戦果をあげたのである。その最も解りやすい例をひとつあげておこう。サッカーの国際大会の場で『旭日旗』を振って日本代表を応援するという、かつてできた事が現在できなくなってしまった。そのように取り決められてしまったのである」
「——こうした国際排日運動の成功体験に気をよくした韓国人達は『旭日旗解釈』という新たな謎ステップ領域に踏み出した。その解釈〟ときたら『円形の図形から放射状に線が延びている様を描くあらゆるデザインすらナチスを容認する意味になる』という極大の拡大解釈というべきものだった。便宜上これを『旭日文様』と呼称するが、今やこの『旭日文様』はSNSに載せる事すらタブーとされてしまった。載せたら最後、韓国人達からナチス認定された上で猛然と抗議をされ画像の削除でもまだ治まらず謝罪すらをも求められるのである。そうした要求のままに『旭日文様』が撤回された例など枚挙にいとまがないほどで欧米人達は韓国人達の要求に簡単に屈服し続けたのである」
「——『ナチス』を持ち出されると簡単に思考停止し、韓国人達の描いた戦術にまんまと嵌まり騙されるのが欧米人であるという事がハッキリと判り、私の中で欧米人の扱いが極めて軽くなった。『日本とナチスは同じ事をした』で思考停止した欧米人達は結局のところナチスが何をしたのかをまともに解っていなかった。その事が欧米人自身の愚行によって露呈されたのだ。誰しも偉そうにしているバカの言う事など聞く気にはならないだろう?」
場内から苦笑めいた笑いが漏れる。
「——このように既に韓国人という異民族は『戦犯旗』という比較的最近造りだした合成名詞によって国際排日運動で大戦果をあげている。こうした行為は明らかに敵のやることじゃないかね!」
「——次は『戦犯企業』とは何を指しているかだが、これはいわゆる『徴用工問題』で韓国内で訴えられている日本企業を指している」
仏曉は一拍の間を取る。
「——さて、ここいらで立ち止まって考えてみよう。そもそも『戦犯』とは人間を指す語彙ではなかったか。それは『戦争犯罪』の略ではなく『戦争犯罪者』という意味なのだ。具体的且つ典型的使用例は『靖國神社には戦犯が祀られている』だ。国会議員が靖國神社に行った際には当たり前のようによく聞くフレーズだ。『左翼・左派・リベラル勢力』には自覚があるだろう。また、誉められない事ではあるが、勝負事、それは団体スポーツや国政選挙という事になるが、こうした集団同士の戦い、個人勝負ではない勝負に敗北した場合、『戦犯は誰だ⁉』といった使い方をされる。週刊誌の
「——すると極めて不思議な事になる。『戦犯旗』とは何だ? 旗が人間になったのか? これは旗の擬人化か?」仏曉がおどけたポーズでそう言うと場内から失笑が漏れた。
「——『戦犯企業』の方も純粋にヘンだ。確かに〝旗〟とは違って企業については〝人間が一人もいない企業〟というのは成り立たないから、人間を指すという意味に於いてはまだ『戦犯旗』という合成名詞ほどの矛盾は無いのかもしれない。しかし企業というのは法人だ。当該法人に所属する人間全てを犯罪者の如き存在として扱う価値観はあまりに異常すぎる。そして『戦犯企業』と韓国人達が名指しし、的にする企業は日本企業オンリーなのだ。『我々が指定した日本企業の社員は戦争犯罪者!』、こんな価値観が大手を振って存在できる国家と国民は間違いなく日本民族の敵である!」
「そうだ!よく言った!」と複数の声が飛ぶ。
「——だが昨今の日本社会は全体的に頭がおかしくなっている。私の立場では同じ日本民族に足を引っ張られているという思いだ。ために『戦犯企業』という韓国人の発明したこちらの方の合成名詞は『戦犯旗』ほど小馬鹿にできない」
一転した調子に場内ざわめく。
「——ここで話しが少しだけ逸れるのを諸君らにはご容赦頂きたい。有名な大手芸能事務所の話し、『JNY事務所』の件に触れなければならない。男性アイドルを育成し送り出す分野に於いての業界一番手の芸能事務所として名が通っている。この同族経営の芸能事務所のトップ、その彼が、当該事務所と契約した少年達と性的関係を結んでいた事がその彼が死んだ後になって問題となった。相手が未成年ではいくら伝家の宝刀『LGBT』があるこの現代でもカバーし切れなかったという事だろう」
「——だが私に言わせれば真の問題はここからだ。この『JNY事務所』に所属するあまたのタレント達が、日本の大手企業からCM契約を一方的に破棄され続けたのである。その理由ときたら『人権を軽んずるイメージを持たれたらマズイ』といった程度のものでしかなく、我々の敵からしたら〝言うことを聞かせやすい日本人〟そのままの振る舞いであった。これは『〝人権〟を持ち出して圧力をかければ日本人は簡単に俺達の思い通りに動かせる』という意味だ」
「——日本の『左翼・左派・リベラル勢力』はこうした大企業経営者どもの一連の理不尽を当然の振る舞いとして取り扱い、かくして大企業の腐臭漂うこと極まりない『JNY事務所所属タレントのCM切り』を攻撃するような真似は一切やらなかったのである」
「——これについては大衆レベルの認識についても不穏なものを感じざるを得なかった。これについて〝ネット世論〟なるものは『やれやれ!もっとやれ!』と煽りを入れるばかりでまったく視野の広さを欠いていた。近い将来の禍根を自ら育ててしまったのである。確かに個人レベルで大企業経営者どもの行為を『人権侵害であり差別だ!』と断じた勇気ある有名人はごく一部ではあるが間違いなくいた。が、そうした少数の人間は〝ネット世論〟によって却って悪党にされる始末であった」
「——タレント達本人が何ひとつ悪いことをしていなくても、『悪い組織に所属しているヤツも悪い奴』という狂ったおよそ論理とも言えぬ論理をこの日本社会はまかり通してしまったのだ。或る組織に問題のある人物がいた事をもって当該組織が悪い組織とひとたび認定されればその組織に所属するあらゆる人間達も全て悪い者として取り扱える。どんな処罰的取り扱いも合理化されるという狂気の価値観に日本社会は市民権を与えてしまったのである」
「——それは論理的には韓国人という異民族が発明した『戦犯企業』という価値観に上級・庶民問わず他ならぬ日本人達が市民権を与えてしまった事を意味する。諸君らは既に察している筈である。こうした愚行により『韓国人が戦犯企業とした悪い組織』に所属し勤めている人間達も容易に全て邪悪な人間に仕立てどのような仕打ちをしようと許されるという道が開けてしまったのである」
「——『戦犯企業』の方は当該企業に勤めていない者には関係が無いと言えば無い。無責任に『やれやれ!もっとやれ!』を続けられる者はいるだろう。しかし『戦犯国』となるとそうはいかない。なにせそれはこの日本国そのものを指しているからだ」
「——国家という存在も概念としては企業と同じく法人のようなものである一方で、一人の人間もいない国家などというものも存在しない。我々日本民族は韓国人どもの視点では『JNY事務所に所属するタレント』と同じなのである。即ち『日本という悪い組織に所属している日本民族も邪悪である』という理屈なのである。我々がその境遇から逃れたかったら『事務所を辞めろ。辞めれば許す』と同様、『日本国籍を捨て日本人を辞めろ。辞めれば許す』になるしかない。もしそんな事をしてみろ、日本国から国民がいなくなり日本国は滅亡だ」
「——私は同じ日本民族としてなるべく日本民族を悪し様には言いたくないのだが、日本民族諸君に告ぐ! 『戦犯は東條英機で私達は関係無い』は韓国人には通じないぞ! その証拠が『戦犯国』という合成名詞の存在だ。我々日本国の国民が全て戦犯だと韓国人達は言っているのだ! この状態で『俺達が悪の組織と断定した組織に所属している人間達にはどんな仕打ちをしてもよい』などと曰う奴らは次にその価値観によって自身が襲われるという予測すらできない究極無能である。大企業経営者という典型的上級国民どもがこの先何が起こるかにまで思考が回らないというのは、それだけで我々の民族を窮地に陥れる犯罪行為なのだ!」
ここで仏曉の演説がほんのしばらく止まる。
「——どうせ我々も戦犯なら東條サンは我々の仲間じゃないか。これからは仲間を弔うために何月何日だろうと靖國神社に行こうじゃないか!」
『戦犯国』を逆手にとった仏曉の発言に場内大拍手。喝采も。しかし仏曉の表情は変わらない。それに気づいたかたな(刀)。
「——この後も続けて大韓民国とその国民をボロクソに叩く事はできる。しかし、ここでいったん話しの趣を変える。韓国叩きの続きはその話しの後だ。諸君らには十二分に私の戦術を理解してもらいたいからだ」
「——韓国と対決する際に、他の海外勢力、例えば『アメリカ合衆国』等も合わせて叩くこの戦術が、国内の『左翼・左派・リベラル勢力』を恐れ、腰が引けていると受け取られるのは心外である」
「——端的に言うと我々がやっているのは『言論戦』、略さずに言えば『言論戦争』である。ところがこれをスポーツの試合か何かだと思っている者がいる」
「——スポーツするにあたって居なければスポーツにならない者がいる。それは『審判員』だ。しかし戦争をやっている最中に勝手に審判員がジャッジメントを下してきたら〝ハァ?〟という感想しか出てこないだろう? 何せ審判員のジャッジメントに逆らったら退場になるんだからな」
韓国叩きを求められた仏曉は、しかし〝韓国一国に的を絞って叩かない〟事を正当化し始めた。しかし韓国に対して集中的に論じることを求め出した雨土でさえ今は腕組みをしたまま温和しくしている———
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