第三百六十三話【『北朝鮮・中国』は既に死んでいる。『韓国』だけが生きている】

 しかし雨土あめつちは仏暁の指摘で即座に〝言っておかなければならないこと〟を口にしていないと気がついた。なにせ演説用原稿無しでぶっつけ本番でやっているから〝漏れ〟も起こる。〝続き〟が始まった。


「北朝鮮と中国は侵略された側、ウクライナ側につかなかったのであります。侵略した側、ロシア側についたのが北朝鮮と中国なのであります。普段から日本人に向かっては『侵略を許さない』と抜かしているその同じ口がウクライナを侵略した侵略国ロシアについてはなんらの非難も喋らず、逆に侵略側であるロシアの味方などやっている!」


「——まさしく北朝鮮と中国は侵略を受けたウクライナ人の悲しみや苦しみなどどうでもいいと言っているのであります。しかしその一方で侵略を受けた者が朝鮮人や中国人になると、これが途端にどうでもいい事ではなくなり、『侵略国日本は我々を侵略した事について永久に糾弾されなければならない』、などという価値観を厚かましくも未だ有しているのであります」


「——『朝鮮人と中国人には人権があるがウクライナ人には人権は無い』と、そういう価値観を有しているのが北朝鮮と中国の連中なのであります。我々日本人が北朝鮮や中国に謝るという行為は今や『朝鮮人と中国人には人権があるがウクライナ人には人権は無い』という邪悪な価値観を連中と共有するという意味なのであります」


「——このようなバカな話しなどあってたまるか! ウクライナ人に申し訳ないではないか!」

 拍手が自然発生的に湧く。

「——むろん私は、いや、我々はもはや、猛り狂うほどの怒りを北朝鮮と中国に対し持つべきで、今後この連中が過去についてこれまで通りの事を喋ろうとも一切の謝罪の必要も無し。良心の呵責すら感じる必要も無いのであります」


「——だがおそらくは確実に残念な事が起こるでありましょう。『北朝鮮や中国が侵略国ロシアの陣営に立ち侵略されたウクライナ人の事をまったく気の毒と思わなくても、日本が朝鮮や中国を侵略したのは事実だから日本人だけは謝り続けるべし』と言うくだらない人間は確実にいる事でありましょう。だからあらかじめ私はこう言っておくのであります。実名を名乗らずに匿名で曰う主張など、そんなものはこの世に存在しない主張なのであります。誰が喋ったか分からぬ主張など幽霊が喋っているのと同じという事です。真に己の意見に自信があるのなら実名を名乗り言える筈。聞けば海外ではエスエヌエスとかいうインターネットサービスを、実名でなければ利用できないようにする動きもあるとか。私の言うことは決して常識外れではありません」


「——もし万が一にもそういった蛮勇溢れる者が現れたら、それはそれでいよいよ白黒決着がつくというものであります。それこそ仏暁さんの言うとおり後は大衆の人気をどちらがより多く獲得できるかの勝負となります。一般論として『他人には厳しいが自己には甘い人間』とは誰しも友達にはなりたくないもの、むしろ縁を切りたいものです」


「——侵略国側についていながら『自国に対する侵略だけは許さない』などとは、これほど醜悪な人間達は存在を許されるべきではない。およそ人間という存在に対する絶対的絶望すら感じさせるものであります。こうした連中に利益を与える言動自体が天に背く行為というもの!」

 「そうだ!」と場内から声が飛ぶ。

「——『ウクライナ侵略をしているロシア側に立った北朝鮮と中国に対し、過去の歴史について謝罪の必要などもはや無用!』というこちらの主張に大衆の支持が集まるのは確定事項とさえ言えるのであります。『北朝鮮・中国』はロシアなどの味方をし、〝侵略をなじれる立場〟を自ら放棄し、日本に対する道徳的優位を自ら捨てたとはこういう事なのであります」


 これには場内大拍手となった。雨土の身はその鳴り響き続ける音に包まれた。その音量たるやもはや仏暁に負けず劣らずと言えた。しかし——

「ちょっと、ちょっと待って下さい。ここで終わりじゃないんです、」と雨土。


 その言にだんだんと拍手の音も鳴り止み始める。頃合いで雨土が語り出す。


「『特定アジア』と呼ばれる反日を国策とする3カ国の中で唯一、『韓国』だけがしくじっていない。韓国は侵略を受けたウクライナ側についた。つまり韓国だけが〝侵略をなじれる立場〟を未だ保持し続けている」雨土は聴衆に向かい言った。今度はシンとした。ヤジも飛ばない。雨土の言わんとしている事がようやく聴衆に、完全に理解されたようだった。


「——その・韓国に、〝どう相対するか〟は日本にとって正真正銘最後の課題です。先頭を走る国があると同じ目的を持った他国は韓国を風よけにしてそこへ便乗するだけでいいわけですから、気安く反日排日ができる。韓国人連中の国際反日排日キャンペーンをこのまま放置するのは日本人にとって危険です」


「——そしてなにも韓国人による国際反日排日キャンペーンはいつもいつも国連が舞台とは限らないものです。例えば『慰安婦像』はアメリカだけに建っているのではありません。現にドイツにもあるではないですか。そしてこの日本もそうした数ある国際工作の舞台のうちの一つだ。韓国人から見てこの日本は外国ですから、彼ら韓国人が日本で行う活動もまた国際反日排日キャンペーンの一環であり、そんなものが日本の国内問題であるわけがないのです」


「——現に韓国発祥の宗教が日本人を入信させた上で『過去の植民地支配』とやらを日本人信者に対し持ち出し、罪悪感・贖罪感を植え付けている。『韓国に対する罪の意識』とやらを持たされてしまった日本人は壺などのガラクタと引き替えに金品を根こそぎ韓国に吸い上げられるというわけです。こうした『韓国人の価値観』を問題視するのは当然ではありませんか? 韓国の反日排日キャンペーンとは、その社会的地位問わずあらゆる立場の者が参加する世界に類例の無い唯一無二の行為なわけですから。ここで韓国以外の外国を持ち出し、あたかも相対化してしまっているように見えてしまうというのは方向性として間違っている。日本人が韓国を叩くのにはワンパターンに『ヘイト』だなんだで片付けられない理由というものがあるんです。そうでしょう? 仏暁さん」

 最後の方、今度は雨土、仏暁に語りかけるように同意を求めた。


「なるほど、そう持ってこられると『韓国』にこだわる理由にも水準以上の意味を感じます。それに確かにあなたの話しは面白かった。侵略を受けたウクライナ側に立たなかった北朝鮮と中国が、今後も『侵略』を盾に我々に歴史攻撃してきても、もはや謝罪する道理無く、一切良心の呵責も感じる必要無し、とは。よくぞ言いも言ったりです。率直に快哉を叫びたい」

 仏曉は席から立ち上がる。

「——分かりました雨土さん。ここにいる皆さんには実行を勧めませんが、お約束通り、特に『韓国』をターゲットに一席ぶってみるとしますか、」そう言って仏暁は再び演台前の人となった。

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