第三百四十九話【恐るべきは『少年マンガ』】

「『極右』などと名乗っていれば、日常的に国家や民族の事しか考えていないヘンな人と、余人にそういう先入観を持たれている事であろう。そもそも『右』という思想的立ち位置がこの日本では旧態依然とした化石の如きアナクロニズムのように取り扱われる。しかしこう見えて私はサブカルチャーにも一定程度の理解はある。特に『少年マンガ』と呼ばれるジャンルはその時代時代の世相を現しているのではないかと、そう考えている」


(いったいこれはどういう方向性?)と戸惑うかたな(刀)。場内も同じような空気、立て続けに変化球を投げ込んでくる仏暁。


「——何年か前、いわゆる『魔法少女モノ』と呼ばれるジャンルに分類されるアニメに、〝画期的なコト〟が起こった。魔法が魔法少女のグループに加わったのだ。『左翼・左派・リベラル勢力』はこれを好意的に報じていたと記憶している。ジェンダーフリーの価値観に合致するからだろう」


「——だがしかし、これとは対照的に、別の意味でジェンダーフリーな価値観を持つアニメを私は見てしまった」


(そんなのあるの?)アニメなどには、極端な流行り物を除いてはいまいちピンとは来ないかたな(刀)である。


「——それは極めてメジャーな少年マンガ雑誌に連載されているマンガを原作としたアニメで、主人公グループがいて、それに敵対する敵対グループがいる。当然マンガの構成上、読者には主人公グループに感情移入してもらわねば話しにならないから、敵対グループは必然悪党にしなければならない。良く言えば王道、ありがちと言えばありがちな構成のマンガなのだろう」


「——この敵対グループに女の子がいた。見かけは美少女に描いてある。しかしその内心は悪党で、自ら〝可哀想な女の子〟を演じ主人公側の登場人物、まあ脇役であるが、この人物を瀕死の重傷に追い込む。そして『男はホントバカ』的なセリフをあくどそうな笑みを浮かべて喋る」


「——『少年マンガ』であるから主人公の方が悪党グループ構成員をぶっとばし勝つのはお約束と言えるが、勝敗が決した後、主人公が悪党グループに所属するこの美少女にどう接したかが私の感心するところである。その女の子は媚びを売るように『わたしは被害者なんです』と主人公に訴える」


「——のだが主人公は表情一つ変えず無言のままに美少女の背後につき、美少女の腰回りに腕を回す。美少女が(男なんてチョロい)と思ったその刹那、主人公は美少女にバックドロップをかましたのだ。女だから甘くしてもらえるとタカをくくっていた美少女の頭は地面に激突。そして主人公が言ったことばが『男女平等だから』だ。これを終始表情も変えずにやり遂げる」


(ひえええっ、最近のアニメってそういうことになってるの⁈)とかたな(刀)。


「——なおくだらない抗議は当然却下だ。これは半分くらいギャグの入ったマンガの話しで、別に私は『女性にバックドロップをかませ』と言っているわけではない。当該マンガ内で主人公が男の悪党をボコボコにしてしまった以上、男の悪党とツルんでいた女の悪党がでは読者のカタルシスが晴れないという意味でのバックドロップなのだ。もちろん現実世界ではプロレスラーがリングの上でできるのが唯一の例外で、路上でソレをやった場合男が相手でも『傷害罪』か、悪くすると『殺人未遂罪』となる。相手の性別はこの際関係が無い」


「——私は少子化問題解決のために『左翼・左派・リベラル勢力』に役割分担として『男女平等だから』を主張し続ける事を求めたい。『私より年収が上の男性でなければ結婚しない』という価値観の女性には言論のバックドロップをかますべし。真実のジェンダーフリー勢力とはそういう者だ」


「——『左翼・左派・リベラル勢力』に与えられた役割は『未婚率の低減』である。『では〝右〟の勢力はそれをやらないのか?』と詰問したくなる向きが必ず出てくるだろう。答えは『』だ。というのも『右』側陣営は『ジェンダーフリー』などとは言わない連中で構成されている。普段から『ジェンダーフリー』と声高に叫んでいる者こそが『私より年収が上の男性でなければ結婚しない』と曰う差別主義者の女性を斬れる〝言論の刃〟を持っているのだ。私はそれが『左翼・左派・リベラル勢力』だと言っている。仮に我々が同じ事を言ってもそれは言論のなまくら刀にしかならない。ミソジニー扱いされるのが関の山というものだ」


(ミソジニーって確か女の人が嫌いな男の人だったよね……)とかたな(刀)。

(『極右』だと、確かにそういう事にされそう)と妙な説得力を感じるほかなかった。


「——では『右』陣営はどんな役割を果たすべきなのか? それは『異次元の少子化対策』で受益者世代から外れた世代、あるいは同世代でも受益者になれそうもない者達のである。それが我々『極右』の役割である! ではどんな手段を用い低減するのか? 実はもうその答えは私はとっくに示してある」

 ここで仏暁、場内を見回す。


「『民族感情』が希薄な人間集団がこの難題を克服できるものだろうか、とな!」

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