第三百三十七話【ヘイトスピーチ】
仏暁はおもむろに両手を伸ばし演台の端をつかむ。
「もちろん私は外交官ではない。外務省職員に話しを聞いてくれる知り合いもいないし、有力政治家のツテも無い無名の一国民に過ぎない」
「——そんな何の力も持たない〝ただの人〟がどうやったら外交に影響を及ぼせるのか? そこで私は『外交』とは何であるか? まずそれを文章化して考える事とした」
(『外交』を文章にすると、文字通り〝外と交わる?〟 え? 意味が、)と思うしかないかたな(刀)。
「——これについては既に述べている。外交とは基本〝口で何事か喋っている行為〟であり、喋る事で外国絡みの問題を解決できるとしたならば、無名の一国民でも『外交』は可能なのだ」
「——予めこう定義しておく事の利点は『左翼・左派・リベラル勢力』を無能な連中と定義できる点にある。奴らのスタンスは『外交で解決すべきだ。外交は外務省と政治家がやるべきだ」でしかない。要するにポジショントークに過ぎないものだ。奴らの本心など『我々は〝外交で解決すべきだ〟と言っているだけでいい』でしかない事をあぶり出せるというものだ」
「——しかし諸君はこう思った事だろう。無名の一国民が何か立派な事を言ったりあるいは外国の一般人と民間交流したとしても、国家対国家の問題が解決に向かうなど、そんな事が起こり得るのか? と」
「——それは全くその通りである」
(あらら、)とかたな(刀)。
「——効果を生まない理由は簡単だ。〝善的行為〟しか行おうとしないからである。実際ロシア連邦によるウクライナ侵略に見られるように、権力そのものである国家が悪辣な事をしているというのに、そんなものを相手にただでさえ力無き一般人が〝善的行為〟のみに拠って問題解決を試みても、解決などできるわけがないのだ」
(なんだろ? サイト攻撃でもするの? あんまり意味無さそうだけど)と内心ツッコミだけは入れ続けるかたな(刀)。
「——ならば、必ずしも〝善的行為〟のみに捕らわれる必要は無いのではないか? 何しろ『外交で解決すべきだ』のその真の意味は『戦争は何としても避けるべきだ』だからだ。戦争を避けられるのなら〝無邪気に平和を訴える〟であるとか、そうした〝善的行為〟にのみ拠っても目的は達成されない」
(サイトなど攻撃しても絶対に戦争など避けられそうもない)と思ったかたな(刀)は仏曉がこの後何を発するか、唾を飲み込む。ただ〝次の言葉〟に聞き耳を立て待っている。
「——戦争を避ける手段、それは『ヘイトスピーチ』だ」驚くほど力を込めずに仏暁が言った。
誰も彼もが頭の中が真っ白になったような気がしていた。たった今の仏暁の言葉は〝ヘイトスピーチを肯定している〟ようにしか聞こえなかったからである。ポリコレなど最初からまるで眼中に無い言い様であった。
「——我々無名の個人は無力で、できることはせいぜいネット上に何事か主張を書き込む程度である。これを『誰でもネット上で発信ができる時代だ』とポジティブに言ってみても、ただ理想的な主張なだけでは何を発信しようと誰も相手にはしない」
「——しかし、ネット上の発言が『ヘイトスピーチ』となると話しは別だ。発信者がいかに無名だろうと〝自称正義の者〟がワラワラと湧いて出てきて、『ヘイトスピーチ』発言者に〝正義の制裁〟を加えようと反応せずにはいられない。我々はこの習性的反応を利用する」
「——ネットの素晴らしい点は対立と憎悪を煽れる事にあるのだ。それにSNSに特に顕著だが、ある程度の数が揃うだけで実際のところ少数派でしかない存在を多数派であるかのように見せかける事ができる。現実問題としてネット中傷で自殺者が出る原因がこれだ。社会全体を基準とすると攻撃者は極限られた少数なのに、攻撃を受けている当人からするとあたかも全体から非難されていると勘違いしてしまうのだ。『〝フォロワー〟とやらが数百万あろうと、いったい地球の人口は何人かね?』と、こうした思考ができなくなる。つまりこうしたネットの特性を使うなら我々のような少数者集団でも実際社会に影響を及ぼせるのだ」
「——そこで具体的に何を言うか? それは『中国人は
「ちょっと待って下さい!」とここで突然別の声が上がった。声の主はなんとかたな(刀)。柄にも無い飛び出しだった。
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