第三百三十五話【『論理的主張』と『情緒的主張』が対決した場合、どちらが勝つか?】

 仏暁はいきなり来た。

「結論から述べる。『論理的主張』と『情緒的主張』が対決した場合、勝つのは『情緒的主張』の方である」と。


「——それを証明するのが『慰安婦問題』であった。これと同じ事が今度は『左翼・左派・リベラル勢力』の身に起こったのである」


「——私は『ジェンダーフリー』という価値観は『LGBT』という価値観と非常に親和性が高い、と言ったばかりだが、これはあくまで〝〟といった条件付きの話しだ」

 そして仏暁は短く区切るように次のことばを放つ。

「だが〝〟この両者はむしろ相性が悪い」


「——が既に始まっている。奴ら『左翼・左派・リベラル勢力』の価値観が日本社会に貼り付き始めた結果、遂に『ジェンダーフリーなトイレ』が誕生する運びとなった。『LGBT』に配慮した〝成果〟がこれなのだ!」


(あぁっアレ!)とすぐピンと来たかたな(刀)。一人の20代女子として『ジェンダーフリーなトイレに入りたいか?』と問われたらもちろんそこは避けておきたい。


「——さて、大衆目線での評判はどうだろうか? 『ジェンダーフリーなトイレ』は歓迎されているだろうか?」



 仏曉は顔に笑みさえ浮かべ外連味たっぷりに間を取る。

「——メディアが『ジェンダーフリーなトイレ』につき世論調査を一切しないため〝SNS上では〟という条件付きにはなるが、この『ジェンダーフリーなトイレ』には案の定というべきか、女性と思われるアカウントから非難囂々たる反応が押し寄せた」


(だろうなぁ……)とかたな(刀)。


「——やはり女性目線では不安なのだ。今のところは『ジェンダーフリーなトイレある』程度だが、この『LGBT』の勢いだとじき存在する半数の公共トイレがジェンダーフリーになりかねない。そうしたトイレを造るために或る日突然建物の床面積は増えない。〝どうしても間に合いそうにない〟という状態になった場合、『普通の女子トイレに行列が』という事は起こりうるのだ。その時空いているのは『ジェンダーフリーなトイレ』だけ。これは大いにあり得るぞ!」


「——何しろ社会などというものはあっという間に変わるからな。例えば『自転車は車輌だ。だから道路の隅を走れ』という〝原則〟がある。以前までは自転車に乗る人間の安全が考慮され、自転車の歩道走行は黙認されてきた。だが自転車が人をはね死に至らしめたというレアな事件がクローズアップされた結果、この原則は徹頭徹尾に社会に徹底された。行政がやった対応と言えば路肩を青ペンキで塗りたくっただけ。自転車道も整備されていない道路であろうと自転車は危険な車道の隅を走らねばならないという強い圧を伴う雰囲気が、現にこの社会に形成されているではないか! それがたとえママチャリであろうとも、だ!」


「——このように〝価値観があっという間に変わる社会〟であれば、女性が『ジェンダーフリーなトイレ』に早くもそこはかとない不安を感じるのも無理は無い。何しろ外見上の見かけはどう見ても『男』にしか見えなくても、当人が『女だ』と主張すればそれで済んでしまうわけだからな!」


「——『左翼・左派・リベラル勢力』は〝女性の味方面みかたづら〟をしながら、いつの間にかという天然にコミカルな連中だ」


「——さて、この『ジェンダーフリー』だの『LGBT』という話しは、実は〝或る主張〟をするためのである。『左翼・左派・リベラル勢力』は少数の勢力の代弁者とはなっても、大衆の代弁者には決してならない。というのも奴らは必ず正義面をする。大衆に寄り添うというよりはむしろ大衆に対し偉そうに振る舞う。『我々が大衆を教化してやる』といった尊大な態度を臆面も無く示してくるのである」


「——そうした連中であるから我々『極右』など当然の如く『悪』にする。だが決して臆してはならない。『左翼・左派・リベラル勢力』は〝彼ら自身の正義〟を大衆に押しつけているだけで、のだ」

 ここで仏暁は右手人差し指を一本立て〝続き〟の始まりを示す。

「これを踏まえた上でいよいよ〝本題〟へと移ろうと思う」

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