第三百三十二話【その後の玄洋社と大衆のシンクロ率】

「ここからはその後の『玄洋社』の話しをして、一連の『玄洋社』の話題の締めとしようと思う。1889年の『外務大臣・大隈重信暗殺未遂事件』で熱狂的な支持を受け、『頭山満』は全国区の大物化したが、私は『玄洋社』が大衆の支持を得た最初で最後の出来事だったと考えている」


「——その後について半ば伝説めいた〝話し〟はあるにはある。日露戦争開戦前夜ともいうべき頃、満州におけるロシアの兵力が日々増強されていく中、『このまま手をこまねいていたら時間が経てば経つほど日本の軍事的劣勢が確定的となり、いよいよ朝鮮半島の安全がおぼつかなくなる。もはやロシアの準備が整う前に戦端を開くしかない』という意見が輿論の大勢になりつつあった。しかしながら『元老・伊藤博文』がロシアとの協調に望みを繋ぎなお結論を先延ばしにしている。その『伊藤博文』を『頭山満』が脅迫して開戦を決意させたであるとか、そうした話しだ」


「——『早く戦争を始めろ』と言ってる者が人気者というのはこの現代、なかなか想像しにくいが、まあ当時はそういうものだったのだろう」


「——しかしこの後、『玄洋社の頭山満』が大衆からヤンヤの喝采を浴びたという〝伝説〟すら聞かなくなった。例えば『頭山満』は現代でいうところのいわゆる『日中戦争』について『武の汚れ』と断じていたが、当時の政治に影響を与えていたようには見えない。中華民国の首都南京陥落の日には日本では提灯行列だったというから、昭和の頃になると明治の頃ほど『玄洋社』が大衆の人気を得ていたようには思えない」


「——もちろん昭和時代になって『玄洋社』が活動をめてしまったわけではない。むしろ活動を続けた結果お上に逆らうように見えたため憲兵隊の監視対象にされてしまったくらいだ。何しろ元々『玄洋社』は現代で言うところのいわゆる〝意識高い系〟であって、大衆からすると着いていけない部分があったのだ」


「——例えば大隈重信暗殺を企てた『来島恒喜』は『金玉均を助け朝鮮改革運動にこの身を捧げたかった』というような事も言っていて、つまり『玄洋社』の名前が全国区になる前からこんな調子だったのだ。しかしどうかね、大衆的には『どうして朝鮮なんて外国を日本人が改革しなくちゃいかんのだ』になるんじゃないか?」


「——ちなみに『金玉均』というのは朝鮮国の近代化を目指した改革派官僚だった人物であり、他にも玄洋社はかの『孫文』の中国革命を支援したり、インドの独立運動家『ラス・ビハリ・ボース』の亡命を手助けしたりアジアの外国人達と連帯しいろいろやっている。これをいわゆる『大アジア主義』と言い、欧米が世界を牛耳る植民地時代の中〝脱欧米支配〟という使命感に燃えているのは伝わってくるが、大衆からしたら『日本人がやらなきゃいけない事かそれ?』だったろう。私も大衆であるという自覚があるから、そういう考えにもなる」


「——ただ『玄洋社』にとってとばっちりだったのは、大日本帝国が昭和16年に日米戦争を始めると時の政府は『大東亜共栄圏』という標語を作りこれを戦争の大義としたため、『玄洋社』が明治の頃から主張している価値観と丸かぶりしてしまったのだ。とは言え『頭山満』自身は日米戦争については支持してはいたが」


「——そして大日本帝国が戦争に敗けると同じ価値観を有していた『玄洋社』も、憲兵隊に監視されるような組織だったにも関わらずGHQによって戦争協力者扱いとなり『中国侵略の尖兵』『右翼の源流』にされ、かくして悪魔化されて現在に至るというわけだ」


「——しかし『極右』というのは『右翼』と違い民族主義者であるから、いかに顔色が似ていようと他民族に異様な肩入れなどしない。肩入れした結果が悪魔のレッテルなら、肩入れしない方が利益というものじゃないか。しかしご都合主義な『左翼・左派・リベラル勢力』は『玄洋社』を罵りながら今さらながらに他民族に肩入れなどしている。だがこういう奴らと我々とを比べた場合に我々の主張を支持する方が大衆の利益になる事を、今から諸君に説明してみせる」


(そういう事すると今度はもれなく『排外主義者』というレッテルが……)とつい思ってしまうかたな(刀)であった。

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