第三百二十四話【死者に人権はあるか?】

「つまりそれはこういう事だ。金品強奪の目的で大衆の中に富裕層を殺害する者が出た場合、我々はその犯罪者を切り捨てるという事だ」


「——極めて具体的に言うならば、20歳の若者が90歳の富裕層を殺害したような場合、90歳の富裕層の命の方が重いのである。むろん富裕しているとかしないとかで〝その答え〟が変わるような事もあり得ない。大衆の中の90歳が20歳の若者に殺されたような場合であっても90歳の命の方が重い」


「——そもそも〝若さ〟とは単なる状態に過ぎず、90歳の人間も若い状態の時分があったのだ。〝若くてやり直しがきく〟だとか、〝状態優先〟で量刑が決められるなどナンセンス極まりない。どうせ20代の若者も10年もすれば若くなくなるのだ」


「——我々の敵、『左翼・左派・リベラル勢力』はたいていの場合『死刑制度反対派』である。我々が死刑制度を肯定しておけば、富裕層に対する憎悪を煽ったとて事件の責任を我々に押しつけることはできないのである。たいていの犯罪目的は犯罪者個人の私益を満たすために行われるわけで、そうした人殺しに対し、『人殺しには死を』と、そう言えない輩が我々にレッテルを貼る事は不可能なのだ」


「——それどころか逆にこの『死刑制度』の肯定/否定で『左翼・左派・リベラル勢力』を壊滅に追い込むことも可能だ。いわゆる『人権派』を言論に追い込む方法がある」


「——そのためにはこう訊いてやるといい、『』と」


「——もし我々の敵が『死者には人権は無い』と言ったなら、次に我々はこう訊いてやるといい。『〝人権〟という価値観は人殺しの利益のために存在するのか?』と」


「——もし我々の敵が『死者にも人権はある』と言ったなら、次に我々はこう訊いてやるといい。『では死者の人権の回復法は?』と。すると奴らは補償だのなんだのと金銭的話しを始めるに違いない。その場合今度はこう訊いてやればいい。『〝人権〟は金と交換できるのか?』と」


「——どちらの道を回答しても敵は無傷では済まない。奴らは自身の口が喋ったことばによって社会からの信用を失う事になるのだ」


「——ちなみに私の考えだが、当然『死者にも人権はある』だ。殺された人間の人権回復法も一つしかない。それは〝人権の交換〟である。〝私益ばかりの人殺し〟でも一応人権はある。しかし人殺しをした結果その持っている人権を社会に返納しなければならなくなったのだ。つまりこの時点で生物的には生きている人間であっても『人権』は無くなるのだ。したがって人権が無いのだから死刑にしようと人権侵害など起こり得ない」


(なんて理屈!)ある意味舌を巻くかたな(刀)。


「——後は実際に言ってやるか遠慮してしまうかの違いだ。大衆に受けたらこちらの勝ち、敵の方が大衆に受けたらこちらの負けという極々シンプルな話しなのである。そしてその結果も既に見えている。我々大衆は私益を目的とした人殺しに対しては『許せない!』と思うものなのだ」


(んっ?)かたな(刀)は少しだけ引っかかった。

(まるで〝〟なんてものがあるかのよう……)

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