第三百十七話【世界は『ディープ・ステート』が支配している!】
仏暁は極めて真面目な顔で、しかし叫ぶようにこう言い放った。
「世界は『ディープ・ステート』が支配している!」と。
そしてこうも付け加えた。
「——むろんこれを『陰の世界政府』とも言う」
(DS……)と思ったぎり、あとは内心でさえ絶句しているかたな(刀)。
『DS』とは、もちろん
しかし仏曉、〝そうした反応は織り込み済み〟とばかりに続きを喋りだす。
「——きっと諸君の中にこう思った者がいるのではないか。『最初からマトモには見えなかったが、遂に馬脚を現したか』、あるいは少しばかり心根のお優しい方なら『言うことがだんだんおかしくなってきた』といったところか。『世界を裏で支配するディープ・ステートは実在する』、この手の言い様は典型的な〝陰謀論〟である。これを肯定する者はたいてい〝頭のおかしい人間〟にされるのが関の山といったところだ」
「——しかしそれが易々と予測できながら、なぜここまで堂々断言できるのか、それを聞いてみたいとは思わないかね? 思ったなら拍手で応えて欲しい」
なぜだか場内に拍手が湧いた。かたな(刀)も拍手していたが(〝同意〟の意味の拍手じゃないからね)と思いつつやっていた。
「——ありがとう、諸君。これで話しは極々短く済む。私は『陰謀論』の沼に人を引きずり込む意図は無い」仏暁は少し奇妙な感謝の辞を述べると、また再び喋り出した。
「——諸君はどこかで『1億円の壁』なる〝問題〟を聞いた事がないか? これは総所得がおおよそ1億円の水準、このラインを境に逆に税の負担率が下がっていってしまうという問題だ」
「——普通なら所得が多ければ多いほど、それに準じて〝納税しなければならない額〟も増えていかなければおかしい。ではいったいなぜこのような奇怪な現象が起こっているのか?」
「——それはこういう事だ。国税に限らず地方税をも含む給与所得の所得税率は額に応じて最大55%まで引き上がる。一方で株式の売却益や配当といった金融所得の税率は一律20%に設定されていて低いのだ。そして富裕層ほど金融所得の割合が多い。ほとんど全ての富裕層に当てはまってしまう〝案件〟がこれなのだ」
「——金融所得の税率を一律20%のままにしておくという事は、〝明らかな制度上の欠陥〟をそのまま放置するという意味だ。税負担の公平性が崩れた状態を放置するという事だ!」
「——ただ、こうした〝明らかな制度上の欠陥〟を改善しようと、〝是正の意志〟を示した首相がこの日本にいなかったわけではない。だがその首相が是正の意志を示すやいなや、『国内外の投資家』から攻撃を受けたのである。結果その首相はそうした議論を封印してしまった。〝明らかな制度上の欠陥〟は現状も、そして今後も温存される見込みが極めて濃厚だ。その一方で『消費税』は税率を上げた途端に『次の税率をいくらにするか』などという上げる話しが簡単に出てくる。政治家どもは大衆の味方などしていない!」
「——さて諸君、『国内外の投資家』とは何者かね? 有権者かね? 多数派かね? 国外、即ち外国人はそもそも有権者ではない。そして金融所得で暮らしていけるような人間は社会の多数派ではない!」
「——ごく少数の人間達の圧力で日本の税制という政策が決定された。これこそまさしく『ディープ・ステート』の仕業ではないかね? 『陰の世界政府』の仕業ではないかね? 『ディープ・ステート』『陰の世界政府』の正体は『国内外の投資家』である。もはや『陰』でもなんでもなく、なりふり構わず正体を露わにしてきた」
「——各国政府がこの連中の意向を受けて国家の専権事項である税率を決定している! 『
「——それでもまだ『ディープ・ステートなど存在しない、そんなものは陰謀論だ!』と主張する者がいたとしよう。ならばどうして金融所得の方も最大55%の税負担にならないのだ? したっていいだろう。それをやらせない少数者どもが実在するという事実が、『ディープ・ステート』『陰の世界政府』の実在の証明なのである!」
皆があっけにとられ、かたな(刀)もまたその一人。ただその〝あっけにとられ方〟は茫然自失といった体で、怒り・反発・反駁といった空気が存在していない。
「——これは明らかに少数者による多数派の支配であり、民主主義を無視し踏みにじっている。『国内外の投資家』どもは民主制を脅かす脅威であり自由と民主主義の敵なのだ!」
(すっごい。『自由と民主主義』で自分は正義になって、『国内外の投資家』を悪党にした)と感心してしまったかたな(刀)。
(確かにこれなら『ディープ・ステートはある』ことになる——)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます