第三百十四話【高級外車と富裕層2・富裕層は経済に貢献しない】

「結論から言うならば富裕層は〝消費〟という観点から見てさえも、社会経済に貢献しない」仏暁は簡単に断言してみせた。

「——それを証明できるのが実は『高級外車』なのである。それ故私はこれを持ち出した」


「——日本自動車輸入組合の発表に拠ると、1千万円以上する外国メーカーの超高級乗用車の2021年の発売台数は2万7928台であった。取り敢えず一台あたりの平均価格を3千万円としよう。と言うのも一口に『高級外車』と言っても値段は様々で下の方を1千万円としている以上、これが平均値になるわけがない。5千万円の車もあれば7千万円の車もある。そうした値段の幅を加味し、平均価格を3千万円と設定した」


「——そこでかけ算だ。一台3千万円×2万7928台を計算すると、8378億4千万円。富裕層はトータルでこれだけを『高級外車』のために使った」


「——でしかないじゃないか」


 仏暁の〝この程度〟発言で場内に静かなざわめき。


「——諸君、この地域では『軽トラ』が主力車種ではあるが、世間一般的な意味での普通乗用車の値段は300万円といったところではないだろうか」


「——そこで次の計算式だ。先ほど富裕層が『高級外車』に消費したであろう総額、8378億4千万円を普通乗用車の値段・300万円で割る。『8378億4千万円÷300万円』だ。その答えは27万9280となる。つまり普通車27万9280台分となる」


「——あまりに当たり前の結論である。値段が十倍違うんだから台数が十倍になるのは当然と言える。私が考えたのは値段・300万円の車を誰が買えるかだ。それはズバリ中間層だ。年収が400万円もあれば300万の車は買えると言える」


「——即ち富裕層の消費額など中間層27万9280人の消費額と同程度に過ぎないのだ。日本の人口はそれでもまだ1億人以上、それと対比させたら微々たる数字と言うしかない。経済を発展させ回そうと思ったなら、富裕層にカネを集めるよりも、新たに27万9280人の中間層を造った方がよほど国家は経済成長するのである。富裕層などと言ってみても奴らは景気回復に貢献できる能力すら持ち合わせていない。しかもこの例は〝日本で造られていない外国製の車〟だからな!」


「——しかもだ、この日本政府は富裕層の味方をしているのだ。1990年代半ば以降、政府主導で種々の改革が実行された。それらの政策のことごとくが中間層を破滅させるためのものであった。その『改革』の結果、一部の人間に富が集まるようになり、かくして富裕層はその結果として生まれたのである」


「——種々の改革の結果27万9280人の中間層が下流に落ちたとすれば富裕層がどれだけ車に浪費しようと経済的にはプラスマイナスゼロ。中間層が27万9280人以上没落していれば一部の人間達を富裕させるために日本の経済力は却って悪くなったと断定できる」


「——とは言えこちらが攻撃する以上、富裕層陣営側からの反撃はあると見なければならない。しかしどうせ連中の思いつきそうな事だ、今度は『不動産』辺りになるのだろう。『富裕層は不動産に消費している』と、」


 仏暁の話しが『高級外車』から『不動産』へと移っていく。

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