第三百一話【極右は左翼・左派・リベラルを敵にしない?】

「どうであろうか? 『コロナワクチンを打つとガンになる』『日本は植民地支配をしていない』、これだけ聞けば〝狂人の妄言〟のような主張を、私はしてみせた。だが一概に『説得力がまるで無い』と言い切れるだろうか?」


「——むろん反発者が出るのは織り込み済みだ。だがその反発は〝感情〟に過ぎない。こうして議論が始まり、互いに主張し合う事で社会の分断が成るのである」


 ここで仏暁は人差し指・中指・薬指・小指の四本の指を立てた。

「だが4割が必要だ」


(4割?)とかたな(刀)。


「『社会を分断した』と言えるためには日本国民のうち4割をこちら側の陣営の主張に快哉を叫ぶ者達にしなければならない」


「——つまり、私が今し方した〝私の勇気を証明するためにした2つの主張〟でもって、社会の分断が成るかどうかは別問題という事だ」


 仏暁は眉間に皺を寄せる。


「——mRNAワクチン型の新型コロナワクチンについては回数は別として日本国民のうち8割もの者達が接種をしてしまっている。そうした当事者達にとっては『あのワクチンを接種してしまったためにガンになりやすい体質になったかもしれない』などという主張は〝不快〟以外のなにものでもないだろう。人間とはそうした不快な主張は否定し排除したくなるもので、4割もの支持が得られるかどうか、ひいき目に言っても微妙なところである」


「——またもうひとつの『日本は植民地支配をしていなかった』については、賛意を示してくれる者は一定数いるだろうが、たいていの国民は関心を示さない。反応してくるのはほとんど『左翼・左派・リベラル』といった『左』側連中のみであろう」


「——こうした『左』側連中が大衆の支持を得ているのなら戦ってそこから4割の支持を獲ってやろうと意気込みも涌くというものだがそんな〝支持〟は無いのだ。それを証明する根拠が選挙毎に『左』側連中が方の政党、即ち与党が勝ち続けているという動かしようもない結果なのである。いかなる〝スキャンダル報道〟を仕掛けてもこうした結果になるため、逆に応援してくれた方が却って与党が負けるのではないかと思える程である」


「——この程度なのが日本の『左』側連中なのだが、こうした連中が我々『右』の者を非難するそのやり口ときたら『極右』『右翼』『ナチス』『ネトウヨ』『歴史修正主義』等々単語やら名詞やらを連呼するだけ。たまに文章のようなものを喋ったと思ったら『国際社会が日本に怒っている!』『日本が孤立する!』『日米同盟がどうなってもいいのか!』といったこの程度」


「——特に『日米同盟がどうなってもいいのか』は失笑もので、たいてい『歴史修正主義』という名詞と組み合わされて語られるが、その同じ口が在日米軍基地に反対したり、『〝アメリカが矛・日本が盾〟という役割分担』などと言い出し、アメリカの望む方向性にことごとく反意を示しているのである」


「——さらに付け加えるなら『左』側連中は極右や極右主義に対し『ファシスト』やら『ファシズム』といったレッテルを貼り付けるのも定番だが、この言葉の語源、元々の意味は〝〟なのだ。『まとめようとする者が社会の分断を招く』とは実にイカれた主張だとは思わないかね? 極右とはまとめる者なのか分断させる者なのか? とどのつまり『まとめようとしない者は社会の分断を防ぎ結局まとめる』となってしまうのだ。こういう所からも連中が論理的思考もできず教養も持ち合わせていない事が透けて見えてしまうのである」


「——日本の『左』側連中が我々『右』を罵倒する際には『』と言って罵るのもすっかりパターンである。そう言った以上自身は『高学歴』が前提となるしかないが、その連中に言ってやる事はこうなるしかない。『その卒業証書という上質紙はいったい君の何を証明しているのかね?』と」


 ここで場内爆笑。しかしこの中でただひとり、

(うげ、)と、ぐさりと来るかたな(刀)。


「——我々が『極右』を名乗る以上、こうした大衆の支持も得ていない、しかも〝自称頭のいい人間〟が絡んでくるのは目に見えているが、『左翼・左派・リベラル』といった『左』側連中に構ってあげていると、こうした〝低い泥仕合〟に終始するのは火を見るよりも明らかなのである。典型的『右VS左』の構図である。こうした場合、元来が中庸を好みがちな日本人は妙なバランス感覚を発動させ『』という価値相対主義に陥るのである。欧米人ならどちらかの価値を自らの意志で選択するのだが我々日本人はそうはしない。ここが我々と彼らの決定的な違いなのだ。日本人の性質がこのようなものである以上、『右VS左』など律儀にやっていると〝大衆のうち4割をこちら側につける〟という目標は頓挫するしかない」


「——つまり『左』側連中視点としては、我々をまともに相手にさせる事が我々を潰すための〝戦術〟であり、それに我々がいの一番に反応してしまえば奴らの術中に落ちる事になる。したがって我々は『左』側連中がどう動こうとこれを


(『極右』を名乗っているのに『左』を敵にしない? じゃあ誰を?)とかたな(刀)。


「——もはや〝常識的でありがちなアプローチ〟を変えなければならない。誰を『敵』に設定するか、その選択が全てを決める」


「——主張をすれば必然『敵』が出来上がる事は既に述べた。あらかじめ我々が『敵』を設定すれば、我々に設定されてしまった『敵』は議論に乗らされるしかない。議論などは感想の言い合いなのだから負けるなどという事はあり得ない。互いに延々感想を言い続ければいいのだ。後は大衆がどちらの主張に快哉を叫ぶか、ポピュリズム勝負である。こうした議論がいったん始まってしまえばまとまっていた社会も分断するしかない。ソイツらを『敵』と設定すれば、国民の〝4割〟を獲る自信が私にはある!」


「——同時にその結果日本の『左』側連中も分断していく事になるだろう。そういう、一石二鳥な、設定するにうってつけの『敵』というものがいるのだ」

 仏曉は顔に爽やかな笑みを浮かべてみせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る