第二百九十八話【仏曉信治、啖呵を切る】

とはむろん『同調圧力』の事である。他人の顔色をうかがう、社会の顔色をうかがう、同調圧力に支配されたこの日本。この日本を変える方法が『もっと議論を』である事が次第にハッキリとしてきた。分断された社会には『同調圧力』など存在し得ない。分断しているが故に圧力まで分かれてしまい他者を無条件に従わせるほどの圧を持った圧力にならないのだ。必然人々は選択のため思考する事になる。しかしそうした『同調圧力に弱い』という弱点が消滅する代わりに失われるものもある」


「——それは『社会のまとまり』である」


「——他人の顔色をうかがう、社会の顔色をうかがう、同調圧力に支配されたこの日本。なぜこうなってしまうかと言えば〝社会にまとまりがあるせい〟である」


「——『俺がこう思っているんだ! 俺の感想に文句があるか!』と言えるだけのメンタリティーを各々日本人が持てれば社会の分断が成るのは解りきっているが、言うは易く行うは難しという他ない」


「——日本の場合、本格的に社会が割れそうな場合、議論する事自体を先送りしてしまう。故に潜在的な決定的対立があるにも関わらず、それらは顕在化する事も無く、事態だけが静かに進行していくのである。既に私はそれについて指摘している。日本国内の定住外国人が飛躍的なペースで伸びているのに『移民受け入れの是非』について誰も議論などしようともしない。理由は簡単だ。社会が割れる事を無意識レベルで日本人達が恐れているからだ」


「——こうして社会を割りそうな問題についてシロクロ決着をつける事を回避してなんとなくまとまっていられる日本人達に『主張などは感想に過ぎない。思った感想を口にして議論してみよう』などと呼びかけても応える者の方が希である。しかしそれは日本の支配層にとって都合の良い日本人のままで良いと、そう言っているのと同じである」


「——あまりに唐突な話しで、本当に『議論』などで社会を分断できるのか? という疑問の表情ばかりがここからは見て取れる。しかし、『誰も主張らしい主張をしない社会であるが故になんとなしにまとまっていられる』という考えの否定だけは困難だろう。社会の分断のためには〝主張する事〟がその第一歩なのだ」


「——主張するために必要なもの、それは〝〟である。社会を分断するために必要なのものはである!、だが勇気勇気言っても『そもそもお前にはそんな主張をする勇気があるのか?』そう言われてしまう可能性が極めて大である。ただ他者を煽っているだけでは信用度は半信半疑以下であろう。しかしそれも無理は無い。『勇気が要る』などとは〝抽象論〟を語っているに過ぎないからだ。まずは言い出しっぺがやってみせるしかない」


「——そこでまずこの仏暁信晴が〝主張〟の中でも特に、〝極めて勇気を必要としそうな主張〟をしてみせようと思う」仏曉は改めて場内をくまなく見渡した。

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