第二百九十一話【皆さん、『極右』を名乗ったらどうなると思いますか?】
「ときに皆さん、この仏暁信晴から皆さんにひとつお願いがあります。ぜひとも皆さんには許可をして頂きたい」
仏暁の摩訶不思議な切り出しに場内ざわめく。
「皆さん私よりも年長者で、私はこの中では若輩者だ。しかし敢えて皆さんに呼びかける呼称、それを『諸君』、とさせて頂きたい。演説にはノリというものがあり、こうした〝呼びかけ語〟の方がピタリと嵌まるのです。賛同頂けたのなら拍手でお応え頂きたい」
ぱちぱちぱちぱちぱちと奇妙な拍手が鳴り響く。なんだかよく分からなかったが一応かたな(刀)もぱちぱちと。
仏暁は軽く手を上げ応える。
「ありがとうございます。一応申し添えておきますと、『諸君』の〝クン〟は君主の『君』であって、元々尊称の意味があり『僕』ということばと対語になっています。〝ボク〟というのは実は下僕の『僕』で、『自らはへりくだり相手のことは尊称で呼ぶ』という組み合わせなのです。これは幕末の長州藩で流行ったとか」
「——しかし今現在、いい歳をして一人称を『僕』のまま使い続けると、とんだスカした奴と思われるのがオチなので、ここは『私』で通させて頂くことをお許し願いたい」
場内笑いが漏れる。妙な事を言いながらもすっかり仏暁ペースとなっている演説に(いったいどれだけ場数をこなしたのだろう)と、ただ感心するかたな(刀)。
「さて諸君、『我々は極右である』と公然と名乗った場合、何が起こると思いますか?」
誰も何も答えない。答えようが無かった。
「もれなく〝敵〟が攻撃してきます」断言する仏暁。
「——ここで先ほど私が言った事を思い出して頂きたい。『強力な味方は、敵を作る事で初めて得られるもの』なのだ」
「——とは言え日本人は長らく〝争いを好まない〟よう、性質改変を受け続けてきた。『敵が攻撃してくる』と聞いて平常心を保っていられる者の方が少数派だろう。『みんなで仲良く』『話し合いで何でも解決できる』、得てしてこうした価値観を信じたがる。敵を作るような人間こそ逆に円滑な人間関係を築けない社会不適合者とされてしまうのだ」
「——されど、こっちが積極的に〝敵〟を造ろうとしなくても、敵は向こうから勝手に現れるものではないのかね?」
「——ネット上で日本国に対する愛国的な発言をしたらどうなるか? 例えばかの『慰安婦問題』について、ASH新聞によるねつ造だのでっち上げだの言ったなら、もれなく『ネトウヨ』というレスが戻ってきて『ネトウヨ』認定される。『右派』だろうと『右翼』だろうと『極右』だろうと全て『ネトウヨ』認定するのだ。ならばこちら側が何の肩書きを名乗ろうと最初から関係など無いではないか」
「——そこでこの『ネトウヨ』なる造語である。〝諸君〟の『君』には尊称の意味がこもっているが、『ネトウヨ』という造語のどこに尊称の意味があるのかね? これは間違いなく蔑称であり罵倒語なのだ。ほうれ見給え、敵がわざわざ『ここに敵がいるぞ』と名乗りを上げている。敵が自ら手を上げて『お前らの敵はここだ!』と、自らその存在を誇示しているのだ」
「——敵は日本国に対する愛国的価値観を表明するだけで攻撃を加えてくる。即ちそれは我々の否定である。ならば我々がすべきは同害同復だ。我々の側も敵を否定して良いのだ」
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