第二百七十八話【エネルギー危機が実際起こっとる以上、人間の方のエネルギー危機(食料危機)もまたあると考えねばならぬ】

 昼過ぎ、かたな(刀)は昨日帰った時と同じメンバー・同じ軽トラでプレハブ小屋へと向かっている。途中野々原を拾い、またも彼は荷台の上の人。

(こんなことが許されるのは田舎だからだ)とかたな(刀)は思うしかない。


 現地に着いてかたな(刀)は驚いた。プレハブ小屋前の空き地が駐車場に、満車状態となっていた。小型車が何台も何台も連なる中に仏暁言うところの『ドゥ・シュヴォ』というフランス製・一応外車の姿もそこに見つけることができた。


 プレハブ小屋の中に入ると一斉に大きな拍手。「ヨッ、遠山翁」などと声が掛かる。間違いなくそれは遠山公羽に対してのものである。

(なんで伯父さんが人気者なの?)と目を白黒させるかたな(刀)。


 プレハブ小屋にはかなり無茶な人数が詰め込まれているように、かたな(刀)には見えた。しかし所詮はプレハブ小屋。なので詰め込んでもやはりその数、せいぜい三十人ほどが精一杯なのだけれども。


(年寄りが多いのは仕方がないところか。田舎だし)かたな(刀)は思う。


 この中で一番若そうに見える人間はかたな(刀)の遠い親戚であるらしい『野々原』だが、それを除くと一番若くても五十代くらいにしか見えなかった。つまり一見それ以上歳が行っているように見えながらも遠山公羽もまた若い方の部類に入る。


(近頃は外国人実習生さえも都市部に逃げる——って話しも聞くし……)とかたな(刀)は嘆息気味。


(取り敢えずどうしたら……)と思っていると、同時にここに着いた野々原が、既に仏暁の隣のパイプ椅子に腰掛けている。その仏暁は最前列ド真ん中に陣取っていたため、必然二人並んで最前列。

(フランス製の車なんかを乗り回す男とは相性最悪そうだけど、喧嘩でも売ってるつもり?)

 ここでその片方の人間の手が高く上がる。

「マドモアゼル遠山! ここが空いています」と仏暁に声を掛けられるかたな(刀)。


(いちばん前?)

 しかし後ろに座ろうにも、もう席は無さそうに見えた上、仮に席があったとして周囲は知らない人ばかり。

(べつにヒョロ長を知ってるってわけじゃないし、)と思いながらも座る席は仏暁が指し示したそこ以外に無いように思われた。

 仕方なく、誘導されるままにその席に座るかたな(刀)。仏暁の両隣はかくして野々原とかたな(刀)となった。そしてそのすぐ前方には古びた教卓。


(それはたぶん演台のつもりなんだろうな、)と、かたな(刀)は思う。


 全員が腰掛けるのを辛抱強く待ち続けていたかのように遠山公羽が外連味たっぷりに、これまたどれぐらい昔からあるのか分からないくらい薄汚れた、しかし丈夫そうな木製の台の上へ登壇する。

 演台に立った遠山公羽ははぐるりと集まった人々を見渡し、と言っても僅か三十人ほどではあるけれど、それでも満足そうな笑みを浮かべた。再び大きな拍手が鳴り響く。


 就職活動に失敗したが故に訳の分からない活動に巻き込まれている、という自覚のあるかたな(刀)だったが、少なくとも今は退屈はしていなかった。

 選挙活動で動員された訳でもないのに無名の演者に三十人もの人間が集まることなど普通はあり得ない。だがそれがこうして現実に起こってしまっている。三十人でも多いくらいだった。しかも都会の三十人ではなく田舎の三十人である。住民数における参加率を考えた場合驚異的と言っていい。


 しかもかたな(刀)は前日に遠山公羽から『右翼団体を造る』などと聞いていたから(右翼になりたい希望者なんているわけない)と頭から思い込んでいたところ、こうして蓋を開けてみればこれほどの大盛況。かたな(刀)にしてみれば、

(みんな右翼に誘われるって知ってるのかな?)と思う以外ない。故にかたな(刀)はこれから何が始まるのか、興味を持って待つことができている。



 遠山公羽はまず厳かに宣言した。


「儂らは農民じゃ」と。


 次に、恐るべき事を切り出し始めた。


「近未来の日本で食料危機が起こる可能性が高まっておる。日本人は餓えるぞ」


 しかし〝聴衆〟はまったく驚かない。


「これまで食料危機と言えば〝気候変動〟だとばかり思われていたが、今や戦争でも同じ事が起こるのは既にロシアによるウクライナ侵略戦争で証明されとる」


「——次は台湾を巡り中華人民共和国が戦争を始めるやもしれぬと公然と語られるような時代よ。日本近海が戦場となれば食料を積んだ船はこれまで通り日本へ来るじゃろうか? 全て来なくなるというのは極論にしても『それくらいのリスクを背負って来た』のだと、代金水増しでふっかけられるくらいはよくよくありる話しよ。むしろ〝〟といった悲観論さえ成り立つ」


(あれ? これって、)かたな(刀)は気づいた。何しろ昨日聞いたばかりの話しだから。

 しかしこの後遠山公羽の言説はまったく別の方向へと展開していく。


「そうなると誰が食え、誰が食えなくなるのかのう」


 遠山公羽はぐるりと場内を見回し、意味ありげなたっぷりの間をとった。



「人間には〝〟もある。むろん儂が言わんとするである以上、それは肯定的なものではないがな」

 苦笑い的笑いが僅かに上がる。

「——『』と、そう信じたがる習性よ。『食料危機など絶対に起きない』、とな」


「——じゃが有事の際には国民を食わす事が最優先。外国人が飢えようと『知ったことではない』となるのは確実よ。現実によ、ロシアによるウクライナ侵略戦争が起こり、世界の食料生産国の中に、輸出規制をかける国々が現れおった。例えばインドが小麦の輸出を止めるだとか、また例えばインドネシアがパーム油の輸出を止めるだとかいった具合よ」


「——例えばこれは2022年10月末の数字となるが、食料の輸出停止や輸出制限に踏み切った国は都合26ヶ国出た。この中には食料生産国とも思われない国も含まれるが、いざとなったらどの国も自国ファースト、食料の自由な輸出入など制限される実例よ。しかもこの先、『こうした国々がこれ以上増えない』などと誰が保証できる?」


「——しかもじゃ、そうした『食料自国ファースト』を非難する理屈など無いときている。そりゃ少しでも考えれば当然よな。自国民を飢えさせ食料を外国人に売る政治家など、その国の国民にとっては暗殺の対象にしかならぬからよ。食い物の恨みほど怖い恨みはないわい」


「——自由貿易体制などいざとなったら脆いもの。その時が来たなら各国政府は自国民を飢えさせぬため食料の輸出を厳格に管理するのは明白。現状食料の6割を輸入に頼ると言われるのがこの日本。そんな世界になったら日本人の中に餓死が原因で命を落とす者が多数出るじゃろう」


「——さらにはその4割の中身も問題となる。例えば牛肉の場合、消費量に対して国内で生産している割合は43%となる。数字だけ見れば堂々の4割超えよ。が、牛の餌、即ち飼料までさかのぼり食料自給率を計算すると、自給率僅か11%までに下がってしまう。飼料も輸入に頼るのが日本という国よ。同じ計算法を鶏卵に当てはめると、卵の自給率すらも9%となり、もはや1割切りよ。これではオムレツやゆで卵も高級料理になってしまう」


「——外国が本格的に食料を輸出規制し出したら、純粋に外国に頼らない国内産の僅かな食料を日本人同士で取り合う事になる。むろん『平等な分配』など起こる筈もないわな。まずはカネを持った者が食え、カネを持たぬ者が食えなくなる時代が来る。敢えて『残念ながら』とはが、儂ら農家の中に高値で買ってくれる者に優先的に売ろうとする者達が確実に出るじゃろうて」


「——必然そうした商行為はのは確実。その後恐るべき新たな時代がやって来る。儂ら農家全体が食えぬ者達全ての恨みを買う。恨みを買うという事は、儂らが恨みを晴らす対象となるという事じゃ」


 場内シンと静まり返ったまま。

「そういう意味で『食料自給率』ほど怖く、そして重要な数値は無い」


「さあて、そこで皆の衆よ、」庄屋様か、はたまた名主様か、そういった調子で遠山公羽が聴衆に呼びかける。「——儂ら農家という稼業は世の中が平和で安定していなければ成り立たぬ。そうであろう? 戦国時代の農家を見よ! 戦の度に農作物に火がつけられ丹精込めて育て上げてきた作物も無に帰す!」


「——食料が充分でない時代になってしまったら最後、『盗むな』『荒らすな』などといった〝道徳教育〟など無意味よ。人は食べられぬとなったら死ぬのじゃからな、人間の生存本能の前では道徳など無力なものよ。そして一歩進んで『儂が食べられない苦しみを金持ちどもにも味わわせてやろう』と破滅的な思考に陥っていくのよ。具体的には儂らが丹精込めて育て上げてきた田畑の作物がメチャクチャに踏みつぶされるじゃろうて。自分が破滅するのなら他人を、それも幸福な他人を巻き添えにして破滅してやろうと。それが人間の恐るべき本性じゃ」


「——そうなることによってカネを持っている筈の富裕層もじきに貧しくなっていく。なにせ少ない食料がさらに少なくなるのじゃからな。値段の暴騰が止まらなくなり食料調達のため〝持ちガネ〟がどんどん懐から消えていき、カネの価値はガタ減りに。そうしてカネすらも役に立たぬ世紀末的世界になるのよ、日本中のそこかしこ餓死者の山じゃな」


 ほとんど漫画の中の世界を大真面目な顔で語る遠山公羽。しかし聴いている方も大真面目。


「——儂がこうして皆の衆に呼びかけておるのは、儂らの将来の安全な生活のために、、そこなのじゃ」


 しかし遠山公羽、ここで頭を振る。


「——しかしのう、日本の上の方にはアホウが多い。ウクライナ侵略戦争で意識を変えてくれたと信じたいところじゃが、儂は信用するとバカを見る、と思っておる」


「——というのも近年、極めて憂慮すべき主張が大手を振って歩き始めておる。『食料自給率』の計算方法よ。『日本も〝カロリーベースの計算方法〟を改め、〝生産額ベースの計算方法〟で食料自給率を計算すべし』と、そういう動きじゃ。その正当性の根拠はいわゆる『グローバルスタンダード』よ。儂には『今どきまだ言うか』、という感覚しかないが、奴ら曰く『国際的に主流となっているのは生産額をベースにした食料自給率計算法である』、とな」


「——さっき儂は牛肉の話しをした。消費量に対して国内で生産している割合は43%となっておるが飼料までさかのぼると自給率は11%までに下がるとな。日本で育った牛や豚でも、そのエサが外国産の場合は『日本産』にはならない。儂に言わせれば〝至極最も〟としか言い様が無いが、これが〝カロリーベースの計算方法〟よ。じゃがこれが気に食わん者が日本の中におるのじゃ」


「——現在カロリーベースの計算方法を採っている国は日本の他は台湾や韓国など一部に過ぎぬと言うが〝多数派が常に正しい〟と誰が決めた?」


「——正しいか、間違っているかは全ては論理に拠らねばならん。儂は正しい食料自給率の計算法を採っている方こそが日本や台湾、韓国であると考えておる」


「——そもそも『カロリーベース』やら『生産額ベース』やらとは何か? ここにはトリックじみた数字の工作が仕掛けられておる。『生産額ベース』で日本の食料自給率を計算するとな、なんと日本はという高い数値を叩き出してしまうのじゃ」


(そうなの⁈)とかたな(刀)は内心で驚く。しかしここに集う聴衆からは特段驚きの声も上がらない。


「——これが真実の数字日本人は飢えとはほぼ縁が無いことになるのう。この数字のカラクリは『野菜や果物で生産力を高められる』という、正に〝カネ基準〟というべきものよ。これが『生産額ベース』の計算法じゃ」


「——しかし皆の衆よ、高付加価値で販売できる野菜や果物で我々人間の生命を維持できるものかのう? 同業者の悪口は言いたくはないが、高級なメロンだけでは人間は命を繋げん」


「——食料自給率についてのトリックじみた数字の工作法はまだある。その方法を使えば今度は日本は自給率60%になるという」


(そうなの⁈)と、またかたな(刀)


「——それはこういう事よ。一口に『食料自給率』とよく聞くが、それはどうやって計算するのか? それは日本中で出回っている食料のうち、実際に食べられた日本産食料の割合で算出される、との事じゃ。式にすれば『実際に食べられた日本産食料÷日本中で出回っている食料』となる。要は割り算、分数の話しじゃな」


「——ここで鍵となるのが割る方の数、分数の分母よ。分母の『国内で消費される食料』には食べられずに棄てられてしまった食材の量も含まれるという。その数字は年間約2000万トンにも上る。この〝2000万トン〟という数字を分母から差っ引いた上で再計算して出した数字が60%という数字よ。何やら狐につままれたような言い分じゃが、これが『廃棄食料』を無くす事で食料自給率の数字のかさ上げができるという理屈よ」


「——ここまでなら数値上そういう計算も成り立つという話し程度で済むが、『食料自給率を上げるためには食品ロスを減らした方が効率的』などと言い始めるに至っては、もはや目的と手段を取り違えているとしか言い様が無い。挙げ句の果てには『賞味期限の見直しを』と来たもんじゃからな。『食べ物を粗末にしない』という道徳論としては立派じゃが別に道徳を説こうとしているわけではあるまい。その〝2000万トン分の食料が入って来なくなるのでは〟という発想がゼロでは話しにならん。こうなると真の自給率を分からなくするための撹乱工作にさえ見える」


「——じゃがな、この『実際に食べられた日本産食料÷日本中で出回っている食料』という計算式は、ピタゴラスの定理の如き絶対的公式とは言えない。〝或る条件下〟でのみ成立する計算式よ」


「——刀、解るか?」

 演説の途中で唐突にかたな(刀)に話しが振られた。当然答えられない。

「えーと、えー」しか声が出てこない。



 遠山公羽は自ら〝その答え〟を口にし始める。

「これは単純に食料の消費率という〝食料の量〟だけを計算していて〝人間の量〟、即ち頭数を計算に入れておらんのじゃ。廃棄食料ゼロというのは、『食べ物を粗末にしない』という道徳的パターン以外にも達成できてしまうケースがある。餓死者が出ている状態では廃棄する食料などあろう筈も無し。国内に餓死者がいない状態でのみ成立する計算式という事よ」


 かたな(刀)には声も無い。


「——今やこの地球上の人口は80億人になってしまったとか。儂らが子どもの頃は40数億人と教わらなかったかの? つまり、この計算式自体が無効化される事も起こりうる。じゃというに、この計算式の数字をいじって食料自給率を上げてもしょうがあるまいて。そりゃ見せかけの粉飾決算の数字というものじゃ」


「——条件が年毎に変わってきておる以上、今後も従前のペースで食料を外国から輸入できるのかどうかも保証の限りではない。この手の主張の問題点は『食料の流通量は未来永劫たいして変わらない』という前提に立っている事よ。本物の食料危機が起こり食料の値段が暴騰すれば年間廃棄量が2000万トンなど出る筈も無く、賞味期限など自動的にそれこそ腐る直前までギリギリに伸びていくじゃろうて。エネルギー危機が実際起こっとる以上、人間の方のエネルギー危機、即ち食料危機もまたあると考えねばならぬ」


「——さあてずいぶんと前置きが長くなってしまったが、ここからが本題よ」と遠山公羽が切り出すと、

「前置きが長すぎるぞっ遠山翁っ」と聴衆から声が掛かりドッと笑いが湧く。


「初めてこの話しを聞く者もおるのじゃ。まあよくぞここまで我慢して聞いていたと、儂から礼を言っておこう」

 遠山公羽のその物言いにまたもドッと笑いが湧く。しかし遠山公羽、にわかに深刻そうな顔をして、

「最初から儂は言っておった。食料が足りなくなってくれば高値で買ってくれる金持ちに優先的に売る農家が必ず出る。そうした目立つ者のために儂ら全ての農家が食えぬ者から恨みを買うじゃろう。確かに同じ物を安い値段で欲しがる者と、高い値段で買おうとする者がいたならば、売り手の側にわざわざ安値で売ろうとする者はおらぬ。じゃがそれが通じるのは平時の話しよ。ここはいくら強調してもし足りない所じゃが、食料危機の時代が来れば儂ら農家全体が食えぬ者達全ての恨みを買う。恨みを買うという事は、儂らが恨みを晴らす対象となるという事じゃ。よってここからは笑ってはおれぬ話しとなる。食い物の恨みは生存に直結するだけに相当な恨みとなろう」


 遠山公羽は三十人ほどしか人がいないがそれでも満員盛況の場内をぐるりと見回した。


「その際攻撃側がのは目に見えとる。つまりは国民の生活を憂える正義派のポジションよ。そうした攻撃側の言説によって金持ちに優先的に食い物を売る者を大衆は憎悪し、もれなく彼らによっての称号が与えられる。そうした予測される被害を予め防ぐためには、最初から儂らでを占拠しておくのがいい。攻撃側にあっさりと正義の看板を与えぬためにはソレ以外方法は無い」


「——ときに『』とは耳慣れぬことばよな、それもその筈、なにせ儂が発明した造語よ」そう言って遠山公羽は自分を指さす。


 場内から笑いが漏れる。


「——すると次に考えるべき事は、どういう思想を語っておれば愛国者に見えるかという事よ。まず左翼は見えん。なにせ共産主義者よ、元々が『革命を世界に輸出する』という思想故、むしろ〝反国家〟じゃ。では左派・リベラル派は、というとこれもどうひいき目に見ても愛国者には見えん。日本を攻撃した理屈を外国相手には決して言わぬ連中よ。例えば『慰安婦問題』じゃったな、仏暁君」


 と、唐突に話しを振った遠山公羽。


「ウィ、ムッシュ」と仏暁。遠山公羽は肯くと話しを再開。


「——後、考えられるとすれば中道ちゅうどうなどという立ち位置も、理屈の上ではある事はある。じゃが無色透明などっちつかずのような立場ではそもそも思想が無い。論外じゃ」


「——かくして残ったポジションは『右』しかないというわけよ。その立場に立った上で取り敢えず今儂らが具体的にする活動としては『国民に対する家庭内備蓄米運動』じゃな。有事の際に飢えないよう個々人の家で米の備蓄を、と運動をしておくのよ。量としては各家庭における一年分の消費量じゃ。栄養のために敢えて精米せず玄米のまま出すというのもありじゃな」


「さっすが遠山翁、商売の方も抜かりない!」とヤジが入る。


 しかしヤジの主と遠山公羽とは以心伝心だったのか遠山公羽に怒る様子が無い。

「まあこの現在も既に格差社会。家に食い切れぬほど、余るほどに米を買える余裕のある者ばかりではないのも承知じゃがな。ここは、という事よ」


「——ただこれだけは言える。が無ければ誰も協力はせんじゃろうと。一件でも多くの農家が、参加を決断してくれるような名分なしに愛国運動など始めても、危機を煽っているだけの騒動屋だとレッテルを貼られるのがオチよなあ」


「そらそうだわな」とまたしても軽妙なヤジが飛ぶ。遠山公羽は軽く手を上げ応えると遂に彼の結論へと到達した。


「要は今までと違うことを始めねばならん。それを皆に覚悟して貰いたい。とは言え皆と力を合わせ造る愛国者集団である以上、ゆくゆくは有力な圧力団体としたいものよな」遠山公羽は堂々宣言してみせた。


 オオっ!と声が上がる。

(遂に右翼団体結成宣言しちゃうのか、)とかたな(刀)は最前列で唾を飲み込む。

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