第二百七十七話【人間とは希望か絶望か?】
「どうします?」仏暁は訊いた。
(伯父さんをを試しているの?)と緊張するかたな(刀)。
「むろん『君とは最後まで意見が合わなかった』、とこの場で終わらせることもできるが、儂も君に同じ事を訊くぞ。どうするのか? と」
「ですね」と仏暁が相づちを打つ。
「じゃろうとも。かの『坂本龍馬』とて独りではなにもできん」遠山公羽はそう応じた。
そう応じたものの、
「とは言えこんなボロいプレハブ小屋が本部じゃあ、気乗りはせんというのも解らんでもない。むしろこちらの方が気になる」とも付け加えた。
「そんな理由でご破算はありませんよ。なに、私は〝車もボロい〟と言われる身です。それに『
その仏暁、やおら「ではこういう提案があります」と繰り出した。
「なんじゃ?」
「演説会、討論会もいいかもしれませんが、代表選の実施です。我こそはと思う方に立候補して貰いましょう。もちろん〝乗りかかった船〟、私も名乗りを挙げさせて頂きます。余所者が無条件で代表に就任というのもどうかと思いますので後は投票によって決めて頂ければ、と」
「ウムっそれじゃ! 見事な折衷案じゃ」と遠山公羽は決断した。
(思いつきとしか言えない速度で代表選を行うことが決定したらしい……)と、一連の流れにただ唖然呆然とするだけのかたな(刀)。
「これはこれで面白いのう」
(伯父さんったらさっそく自己満足、)とかたな(刀)呆れる。
「とは言え、明日は仏暁君をみんなに紹介する予定には変更無しじゃ。刀も野々原君も集合するように」
遠山公羽のこの訓示をもって、取り敢えずここでのこの奇妙な会談はお開きとなった。
外に出ればプレハブ小屋はすっかり山の日陰の中に飲み込まれている。風がまだまだ寒い。
「人間とは希望か絶望か?」仏暁が声を発した。その視線はなぜだかかたな(刀)に向かっている。
(なに? ヒョロ長。妙なことを訊いてきて、)とかたな(刀)。しかしことばとしての反応が何も出てこない。
(この人はなにを言っているのか?)と思うだけ。
「答えにくいですか? マドモアゼル遠山」とさらに仏曉。
かたな(刀)がそれでも答えないでいると、
「人間とは絶望です」とまで仏暁は断定した。
(なにが言いたいの?)
「人間を希望の存在だと思いこむのが日本人の欠点。人間に希望を見出す悪い癖があるから失敗を繰り返す。人間は絶望的だという前提で動けばそうそう間違うことはありません」
「なんですって?」
「もっと言いましょう。日本人は独善的です」
(意味がまったく分からない)
そして最後に、
「ボンニュイ、マドモアゼル」そう言うと仏暁は自分の車の方へと歩いていく。
(ヒョロ長がボロ車に乗り込んでいく、)と、ただ見送るだけのかたな(刀)。
ほどなくエンジンがかかる。
(ぶぼろんうぶぼろん音を立て行ってしまった——)
四人が三人になった。
「あの人はどこへ?」かたな(刀)は伯父に訊いた。
「当分の間『街の方にビジネスホテルをとってある』、と聞いておるが」
(わたしの方も自分の家じゃない所に、伯父さんの家に泊まる。というか、この先いつまでか、居候することになっている————)
軽トラはかたな(刀)も含め三人を無理やり積載し、(ひとり荷台なんですけど、ガラ悪だからいいのかな)などとかたな(刀)が思いつつも発進していく。そうしてこの一日は過ぎつつ————
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