第二百五十一話【SDGsとリニア中央新幹線 第10回『連載最終日に寄せて』】
SDGsとリニア中央新幹線 第10回『連載最終日に寄せて』
SZO新聞とASH新聞のリニア中央新幹線に関する異例の共同特集記事も今日が連載最終日となった。この連載は都合10回に渡ったが全てを語り尽くすにはこれでもまだ紙幅が足りない。
そこで最終回になおひとつ。リニア南アルプストンネルは地中の様子を調べるための事前のボーリング調査が不十分と指摘されている。水を大量に含む層、破砕帯の幅が不明瞭で山梨県側での調査は行われていない。また大井川源流直下付近でのボーリング調査もなされていない。では事前の地質調査が不十分のままトンネル工事を強行した場合、いったい何が起こるのか、そうした実例を示しておきたい。
上越新幹線・高崎—上毛高原間に『中山トンネル』という、特段印象に残る名でもないトンネルがある。だがこのトンネルは知る人にとっては有名なトンネルだ。新幹線と言えばその速度は優に時速200kmを超えるという印象が強い。が、この『中山トンネル』の中には160kmまでしか速度を出せない箇所がある。車両の能力的に問題が無くとも列車の安全運行のために減速が強いられるトンネルなのである。それはトンネル内の軌道に問題があるからだ。
一般論として、トンネルとは地形に沿ってレールを敷くのではなく一直線に敷くために山を貫くもの。ショートカットのために造られているものだ。それが『中山トンネル』では減速を強いられるほどの急なS字カーブになっている。当然の事だが普通はこんな掘り方はしない。
この『中山トンネル』付近は火山噴出物が堆積した地質で、当初から難工事が予想されていた。不幸にしてその予測は的中し、度重なる湧水事故発生の結果、元々の計画ルートを諦め、湧水が発生する層を迂回する方策を採らざるを得なくなった。しかも〝新たな事態に対処する〟というその時その場の判断で、一度のみならず二度ものルート変更を強いられたのである。こうして泥縄式とも強引な力技とも言える方法でトンネルそのものは開通させたが、それは従前に定めた新幹線の軌道敷設ルールを逸脱するものになるしかなかった。
『中山トンネル』は上越新幹線のトンネルであり、その工事は当然国鉄時代の話しである。そこからずいぶんと時間が経った。『中山トンネル』以降、その反省から現在ではトンネルのルート策定には十分かつ慎重な地質調査が行われるようになった、と云われている。が、リニア南アルプストンネルはどうだろうか。私には十分かつ慎重な地質調査が行われているようには見えないのである。
最後に、本当に奇跡的な事だが、幸運は待っているだけで訪れた。ASH新聞・天狗騨記者には感謝の思いしかない。
SZO新聞政治部 静狩清司(しずかり・せいじ)
この一連の連載の最終回に相応しいのかどうかは解らない。だが雑感を二つほど。
今なお〝天才〟と称される漫画家・手塚治虫。その彼は1979年に『海底超特急マリンエクスプレス』という長編アニメーション発表している。物語の舞台となる近未来の超特急はリニアを彷彿とさせるが、物語の登場人物の一人は、自らがその超特急の設計者でありながら、それが自然破壊を招いている現実を深く嘆く。やがて物語は進みその超特急は試運転中に事故を起こし(車輌の欠陥に拠るものではないが)、いったんは完成を見たにも関わらず、遂に営業運転は行われないまま海底超特急計画は無期延期となる————
そんなアニメを思い出した。『だからなんだ』と言われそうであるが、海底深くも南アルプスも、過酷な自然の中を超特急が走り抜けるという構図は同じである。
江戸時代の国学者・本居宣長は彼の著作『古事記伝』において、『古事記』の中のとある一部をこう解釈している。
そんな話しを思い出した。『だからなんだ』と言われそうであるが、須佐之男命もリニア南アルプスルートも、山々の地下に貯えられている水を脅かすという構図は同じである。
以上とりとめもないが、書いてみたくなった次第である。
最後に、新聞記者にとっては命の次に大事とも言える〝取材メモ〟を、同業他社のASH新聞の特集記事のために使用させて下さったSZO新聞・静狩記者には何度感謝のことばを述べても足りないほどです。改めて、ありがとうございました。
ASH新聞社会部 天狗騨誠真(てんぐだ・せいま)
——そう、天狗騨記者の本名は『天狗騨 誠真』だったのである。
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