第二百四十七話【テンテンテン、テンテンテン】

 週が明けた。月曜日。ASH新聞東京本社社会部フロア。

 天狗騨の隣席、中道キャップはタイミングを見計らい小声で天狗騨に話し掛けた。

「天狗騨、今いいか?」


「いいですよ。さっきからチラチラ、何か言いたくて仕方ないオーラが出まくってます、キャップ」


 そう言われてしまい中道は実に微妙な顔をしながらも訊く事自体はやめなかった。

「例の特集記事の7回目なんだが、」


「えーと、第7回というと、日曜日の国土交通大臣のインタビュー記事ですか?」


「その記事の中のな〝テンテンテン、テンテンテン〟ってのはなんなんだ? あんな記事は見たことないが」


 中道キャップが言ったのはこういう事である。

 〝「……」〟。コレについて指摘したのだ。件の特集記事、国土交通大臣の発言の中にこう記されている箇所がある。こんなものは小説の中になら存在し得ても、普通新聞の紙面には載らない。


「もちろん編集会議では散々言われましたよ。ウチ(ASH新聞)の品格がどうとかこうとか。なにせ誰も見たことがありませんから。しかしああ書かないと臨場感が無くなるんです」


「〝臨場感〟ってのはなんなんだ?」


「五秒待っても返事が戻ってこなかった、そういう意味があります。つまり国土交通大臣は答えに窮し返事に詰まったと。録音したものを文字に起こす時にストップウオッチで計ってますから、これは間違いありません」


「……ウチの編集会議って、そんなのもアリなんだな……」


 そんなこんなで中道と雑談中、たまたまその時顔を上げていた天狗騨の視界に、彼思うところの〝好ましからざる人物が〟入ってきた。左沢政治部長である。

 本来『政治部長』なる肩書きを付けている人物は社会部フロアなどに用は無い筈である——。

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