第二百四十五話【SDGsとリニア中央新幹線 第7回『国土交通大臣にきく』】

第二百四十五話【SDGsとリニア中央新幹線 第7回『国土交通大臣にきく』】



天狗騨「大臣、今日はよろしくお願いします」


国交大臣「こちらこそよろしくお願いします」


天狗騨「さっそくですが、リニア中央新幹線は見切り発車で一部工事を始めてしまっていますが、最も工期を必要とするであろう南アルプス部分については全くの手つかずで、既に難航しているのは明らかです。『南アルプスルート』の選定には無理があったのではないでしょうか。リニア開通を何より第一の目的とするなら、この際国がリニア中央新幹線のルートを変更させるべきだと考えますが」


国交大臣「はい? あまりの唐突さに面食らいましたが、それはJRTKに訊くべき事じゃないでしょうか」


天狗騨「『国交相は答申されただけ。Cルート、いわゆる南アルプスルートを選択したのは交通政策審議会だ』と言いたいわけですか? しかし総理もリニアを国策と言っていたでしょう? 与党の政治家の皆さんも異口同音に『リニアは国策だ』と言っていましたが」


国交大臣「〝国策〟とは言いましたが、それはいわゆる〝国家的プロジェクト〟という意味で使ったことばです」


天狗騨「『国家的プロジェクト』と『国家プロジェクト』は意味が違うんじゃないですか?」


国交大臣「私はほぼ同じと認識していますが」


天狗騨「これは『問題が起こった場合、責任の所在が何処にあるか?』と問うているのです。『国家プロジェクト』なら責任は国にあるのが明確ですが、『国家的プロジェクト』とするのなら責任の主体は誰になるのでしょうか? JRTKでしょうか? だとしても一営利企業の行為を国が事後承認しているだけというのは癒着が疑われる事態です。一営利企業の行為が国民のためにならないのなら国が修正をかけるべきです」


国交大臣「ちょっと待って下さい。始める前から問題が起こる事を前提にしているのはおかしいのではないですか?」


天狗騨「大井川の水問題をご存じありませんか? 南アルプスは大井川の源流部です。南アルプストンネル掘削を始めた結果、水の流れが方向性を変えあらぬ方へ流れ出す可能性は極めて大です。最悪大井川の水涸れの可能性さえあります。一旦そうなってしまったらもう後戻りはききません。始めた後で問題があるのに気づくようでは既に手遅れです。始める前の計画段階で問題に気づくべきでしょう」


国交大臣「待ち給え。待ち給え。JRTKも大井川の水は元へ戻すと言っている。君の言うことはあまりな極論だ。政府も関与しているし、誰もが水問題の解決に取り組んでいる最中に失敗を前提とするというのはあまりに消極的じゃないか」


天狗騨「私は〝トンネル工事で出た水〟を元の川に戻すなど机上の空論ではないのか、と言っているんです。これはまるで『インパール作戦』です。インパール作戦は作戦立案段階で〝積極主義〟が賞賛され実行されてしまいました。【『消極』は劣る・『積極』は優れている】と、いつもいつも決まっているわけではありません」


国交大臣「〝机上の空論云々〟は君の意見に過ぎない。悪い事が起こる可能性を言い出したら人生なにもできないままで終わるぞ」


天狗騨「さて、〝終わり〟は意外な形でやって来るかもしれません。トンネルひとつのために大井川流域で大量の失業者を生むような事態になれば、恐るべき政治責任をあなた方は被る事になります。誰か他者に押しつけるとか、第三者のような顔をしているとか、そんな事は不可能です。政府与党の中にリニア現行ルートに対する異論すら見当たらない以上は政権のみならず政党レベルで存亡の危機に陥るでしょう。その覚悟があってリニアを現行ルートで推進しようとしているのでしょうか?」


国交大臣「君は記者だろう! 記者が蕩々と持論を述べてどうする? 私の話しを聞きに来たんじゃないのか? 大井川の水問題についてはJRTKは対策を考えている。考えているのにその対策にただダメ出ししているだけなどあまりに非生産的だ」


天狗騨「では『対策を考えていない』なら言うことは変わる筈ですね?」


国交大臣「どういう事かね?」


天狗騨「どうしても南アルプスルートに固執したいようですからをしようという事です。南アルプスは今なお造山運動が続いていて、年4ミリのペースで隆起し続けています。当然その場を貫通するトンネルも隆起に巻き込まれ、変形します。確実に破断・崩落の危険が生じます。また先ほど大臣が言われた通りJRTKが大井川に水を戻すと言ったのは、導水路という人工水路をも南アルプスに造る事を指していると思われますが、当然こうした人工施設も隆起に巻き込まれ、やはり変形し破断の危険性が生じるわけです。南アルプスに造ったあらゆる人工施設がこの先未来に渡って維持できるのかどうか。これについてJRTKは年4ミリのペースでの隆起を重大事とは認めておらず、したがって南アルプス隆起に対する対策はありません」


国交大臣「……」


天狗騨「どうでしょうか? 『南アルプスルート』、ダメ出しはして頂けませんか?」


国交大臣「……」


天狗騨「これは乗客の命に関わる問題です。交通機関で重大事故が起これば国土交通省の調査チームが調査に入りますよね。その国交省が安全が確保されているかどうか分からないルートでの鉄道工事の推進をするなどおかしくはありませんか? 政府与党の中にリニア現行ルートに対する異論すら見当たらない以上は、やはり政党レベルで存亡の危機に陥るでしょう」


国交大臣「どうしても君はリニアを潰したいようだな」


天狗騨「ルート変更を求めているだけです。ではどうしてルートを変更するだけでリニア計画が潰れるのでしょうか? JRTKのみならずどうして政府までもが現行南アルプスルートに固執しているのか分かりません。私は大きな危惧が二つあると、その旨を大臣にぶつけたわけですが、〝善処〟さえ期待できませんか?」


国交大臣「リニア中央新幹線は時間を掛け適正な手続きを踏みこのルートで決定されたのです。今さら思いつきのようなちゃぶ台返しなどできるものではない」

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