第二百七話【ダメ出し】
天狗騨記者が担当を任せられた特集記事。そのテーマについて『リニア中央新幹線で行け』と社会部長に命じられた天狗騨は、だがすぐさま異議申し立てを行ってしまう。
「なぜ『太陽光パネル』がダメなんですっ?」
「俺自身いささか問題のある対応という自覚はあるが、敢えて俺の方からも訊きたい。なぜ『太陽光パネル』を選んだ?」社会部長が問うた。
「簡単です。〝一番勝てる〟のがコレだと、そう判断したからです」
「なぜ勝てると思った?」
「日本全国、何処であろうと起こり得る問題だからです」
「確かにそう言える。だがだ、ソレを選んだ結果〝事が成功した〟と仮定しよう。その際誰が喜び、誰が歯ぎしりするか、そこまで考えてはいないだろう」ここで社会部長は最初に発せられた天狗騨の質問に答えたのだった。
しかし〝質問をはぐらかされて終わり〟となったわけでもないのに天狗騨にはまだ多少の不満がある。
「私は〝悟る〟ということばが苦手でして。その答えをぜひ部長の音声でご教示頂きたい!」と正面から回答を求めた。ヒラの記者の実に厚かましい物言いだったが、この社会部長は真面目に応じてみせた。
「大規模ソーラーパネルに対する社会の風当たりが強くなった場合、喜ぶのは『原発再稼働派』、つまり政府・与党政治家だ。一方で我が社(ASH新聞)の社論は『反原発』、その代案が『太陽光発電推進』だ。我が社を不利にして政府を有利にする。〝勝てる〟以前にそもそも企画が通らない」
「あまりにあまりな〝回答〟ですね。間違いなく社会問題と化しているのに」
「それをわざわざ言わせるお前も大概だがな」そう言った社会部長はコーヒーを一口すすった。
「ところで『空飛ぶ自動車』についてはひと言もありませんでしたが」とわざわざ天狗騨はこれを持ち出してきた。
しかし社会部長は表情も変えず、こう言った。
「『かなりキたな』と言ったろう。今存在しない物体は今社会問題を起こしようが無いからだ」
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