第百九十話【嫌韓ブームは既に終わってる】

 しかしそれでも論説主幹に『日韓民族対立』を認める意志は見えない。まだ諦め悪くウンウン何事かを考えている様子。しびれを切らした天狗騨記者は次を切り出した。


「そうそう、こういうのも説得力がありません。『韓国人達は旭日旗を非難しているだけで日本を非難しているわけではない』といったものです。旭日旗は日本軍が使っていた軍旗ですから、この旗を非難するという事は明らかに日本を非難しているわけです。しかも100パーセントの悪のナチスと結びつけて」


「……」


「——さらにこうしたものも考えらます。『全ての韓国人が日本を100パーセントの悪だと言っているわけではない』といったものです。こういうのも説得力がありません。例えばです、ロシアがウクライナを侵略した余波でJR恵比寿駅にあるロシア語表記の案内看板に『不謹慎だ』と抗議する者が出た事がありましたよね。JRはこの抗議を受けロシア文字を紙で覆い隠した。だがこの措置に抗議返しをする者が出た。御多分に洩れずSNSで、です。オチはロシア文字を覆っていた紙は外されたと。SNSは可視化されるメディアです。『日本をナチスとするのは間違いだ。旭日旗の使用に問題は無いからそのまま使って』と欧米人にメッセージを送る韓国人のカウンター勢力の存在を確認した者はいるでしょうか。現状、旭日模様は次々インターネット上から消され続けています」


 次々と攻撃の目を、それこそ完膚無きまでに摘み取っていく天狗騨記者。


 実のところ『全てのイスラム教徒がテロリストというわけではない』に代表されるこうした『全ての〜は〜というわけではない理論』を今正に論説主幹は吐こうとしていたのだった。その矢先、機先を制され天狗騨に言われてしまった。


 しかしそれでも論説主幹は言った。

「もしかして心の中で〝日本のナチス扱いはよくない〟と思っている韓国人がいるかもしれない」と。かなり苦しい言説であったが……


 しかし天狗騨は速攻でずけりと言い切った。

「いじめの傍観者もいじめに加担しているんですよ。心の中で『いじめはよくない』と思っているだけで結局何にもしなければそれは傍観者と言うんですよ」


「……」


「それからこんなものも考えられます。『日韓は協力できる分野では協力すべきだ』といったものです。言わば〝是々非々〟のように振る舞う。しかしこの内実は『用日ようにち』です。彼ら韓国人の口が言っているのですから間違いありません。『用日』は日韓友好に資するところゼロです。それどころかマイナスです。用日とは『韓国の利益のために日本を利用しよう』という意味ですからね。悲しいことですが韓国人は本当に漢字を捨ててしまったのだとそう思わざるを得ません。私なら同じ〝ようにち〟でも『要日』と表記します。必要の〝要〟です。利用の〝用〟よりはずいぶんとマシな響きに聞こえる事でしょう」


「……」

 天狗騨はなおこれでもかと続けていく。

「韓国政府が代替わりすると、決まって日韓関係の修復を働きかけてくる。ASH新聞を含む日本のメディアはこれを好意的にばかり捉えるが、背後にいる韓国国民はどんな政権になろうと同じ国民だという事を忘れている」


「——韓国人達は日本を100パーセントの悪だと断定している。この価値観は強固で日本をナチスだと欧米人に吹聴している。これが韓国人の、韓国社会の絶対世論です。民主主義国家では政府は世論には逆らえない。必然韓国政府はどの政府だろうとこの考えに引きずられる」


「——日本人の側も自分達が100パーセントの悪だと断定されてまで韓国と関係改善する〝利益〟が見いだせない。いくら『北朝鮮』を持ち出しても今日日『ロシア』や『中国』の方が日本の脅威なのですから。『北朝鮮如きでなぜあらゆる犠牲を払ってまで韓国と妥協しなければならないのか』と、そういう考えにもなります」


「——なにせ〝、これ以外に友好の方法が無いときている。しかもその要求は際限なく繰り返される。同時に国際排日キャンペーンもやる。これは日本の脅威であるロシアや中国に日本攻撃の名分を与える行為です! 現にロシアはウクライナをナチスにして侵略行為を正当化している! 韓国人達が日常的に行っている行為はロシアや中国の『正義』を改めて確認させる行為でしかない! そんな行為を『日韓友好のために』と、韓国人達は要求し、要求し続けている。もはや『日本の若者に韓国の芸能人が受けている』などという主張などまったく無意味。これは民族対立です。極右の思想どうこう以前にこれが現実です」


「——これは仏暁信晴の喋った事をそのまま喋っているわけではない。私もあの男と同じ意見だという事です。もはや韓国中心主義とは決別すべきだ。諦めましょう! 韓国は!」


 天狗騨は韓国信奉論者に引導を渡すが如く喋り切った。


(嗚呼韓国が……)としか思えない論説主幹。


「主幹は極右・仏暁信晴がどのくらい危険なのかを知りたいからわざわざこの場をセッティングしたんでしょう? なのになんで韓国なんです? 『極右=韓国叩き』といった思い込みはもう古い。嫌韓ブームなんてとっくに終わってますよ!」



 嫌韓ブーム。

 ブームの証〝嫌韓本〟は2013年から2014年頃にかけ数多く出版されている。あまりに発行点数が多いため一部本屋が〝嫌韓本コーナー〟を造ってしまい、一方それに反発した一部本屋の店員達が本屋だというのに『こういう本は売りたくない』と言いだし、そうした様はASH新聞にも取り上げられていた。


 ちなみに、発行点数が多いという事はそれだけ売れたという事でもある。が、日本の大手メディアが嫌韓本をポジティブに宣伝してくれる筈も無い。ならばこれほどのブームの〝きっかけ〟はいったいなんだったのであろうか?


 このブームの火付け役は韓国大統領李明博であるとしか考えられない。彼が大統領に在職していた2012年8月、立て続けにやらかしたのである。

 8月10日に竹島(韓国名・独島)に韓国大統領として初めての上陸。

 その四日後の8月14日には「(天皇が)韓国を訪問したいようだが、独立運動をして亡くなった方たちを訪ねて心から謝罪するなら来なさい。痛惜の念だとか、そんな単語一つで訪ねて来るなら来る必要はない」と発言した。いわゆる『天皇謝罪要求発言』である。

 この翌年2013年から嫌韓本の発行点数がうなぎ登りになっているのだ。

 ちなみに、いわゆる嫌韓本の嚆矢としては『マンガ嫌韓流』がつとに有名であるが、初版発行年は実は2005年なのである。



「そ、そうだな、ブームなんてな」と応じる論説主幹。


「今さら嫌韓演説で万雷の拍手喝采、人気沸騰爆発なんて起こりやしませんよっ!」天狗騨は断言した。


「そっ、そうなのか?」


「『』って、今どきはそんなモンです。歴代韓国政府があまりにやらかしすぎたせいですよ!」


「……」


「そういう意味では中国叩きも今や当たり前です。中国政府もやらかしすぎてますからね。『よくぞ言いたくても言えないことを言ってくれた!』とならないと人気なんて爆発しません。極右が言うに相応しい、それにピッタリな攻撃するのにちょうどいい相手は他にいますから!」

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