第百六十八話【閑話休題? 韓国や北朝鮮は『善玉国』ではないのか?】

 編集委員の男が突然立ち上がりそして吠えた。


「韓国や北朝鮮は善玉国ではないのかっ⁉」


「ハ?」露骨に怪訝そうな顔をする天狗騨記者。


「善玉国がたったの三つしかないのはおかしいだろうと言ってるんだ!」


 ASH新聞が『朝鮮』に異常なまでに肩入れするのはもはや様式美(?)とさえ化しており少なくともこの組織の中においてこの男が特段特異というわけでもない。むしろ天狗騨記者の方が異端である。


 しかし当の天狗騨からしたらこれからが肝心要なのである。戦勝国とされる国々(というのもロシア連邦や中華人民共和国という国家は1945年8月15日時点で存在していない)にして国連常任理事国、そして核保有国でもある国々を俎上に載せ叩っ切ろうとしているその矢先に『韓国・北朝鮮』などウンザリなのである。

 有り体に言って〝話しをさせないための妨害工作〟としか天狗騨の目には映らなかった。


 とは言え韓国や北朝鮮といった朝鮮半島地方を一種の聖域にする行為は必ずしもASH新聞の専売特許とは言えない。まずマスコミ界においてはASH新聞側の方が多数派である。政界・官界の中にも異常な配慮をする者が未だ少なからずいる。ただ、いわゆる徴用工訴訟の関係で財界の方は〝韓国にはカントリーリスクあり〟として近頃は怪しくなりつつはある。

 一方天狗騨記者はというと、むろん自由すぎるのであった。


 編集委員の男の物言いに天狗騨は、

(アメリカ、ロシア、中国をそこまでしてかばいたいか!)としか思っていなかった。


 天狗騨は編集委員の男に冷たいまなざしを向けるとひと言こう言った。


「では朝鮮戦争は善玉国同士の戦争だったんですね」


 一発で編集委員の男が崩れ去った。


 『北朝鮮』を犠牲にして無理矢理『韓国』の方を善玉国にしようとすると、『アメリカ』も善玉国になる。それは看過できるとしても、韓国の交戦国である『中国』が悪玉国になってしまう。またそもそも、韓国自体が朝鮮戦争の最中自国民を虐殺するという〝保導連盟事件〟を起こしている。韓国を善玉国にするのも至難の業である。

 さりとて『戦争に善玉国も悪玉国もない』などと悟ったような事を口走れば、『ではなぜ第二次大戦という戦争だけに善玉国と悪玉国があるのか?』と攻められ万事休す。


 編集委員の男にはこの程度の思考をする能力があったため、あっという間に〝投了〟というオチになった。


 ここで天狗騨記者が口を開いた。

「『日本悪玉史観』がどれほど国際社会に害悪を与えているか、今から私が実例をもって説明しましょう!」そう啖呵を切ってみせた。

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