第三十四話【日米韓の連携なんかしなくてもアメリカと北朝鮮が戦争したら100%アメリカが勝ちますよね】
(おのれ……天狗騨め)と思ったのは左沢政治部長であったが、天狗騨記者は天狗騨で、左沢の〝無限ループ戦術〟に心底腹を立てていた。
(〝無限ループ戦術〟の無限たる所以は、これくらいのことを言った程度では終わらないところにある)天狗騨は第二波が来ることを予測した。
天狗騨記者は左沢政治部長のさらなる無限攻撃が続くことを前提とし、その対抗手段を考えていた。
(対抗手段。それは『レッテル貼り』と『急激な主題の転換』以外には無い!)天狗騨記者はそう答えを弾き出していた。
『レッテル貼り』とは〝攻撃対象〟に〝ネガティブなイメージのある単語〟を貼り付け、イコールで結ぶ攻撃手法である。またの名を『ネーム・コーリング』ともいう。
具体的用法を示すならば、例えば『お前は部落だ!』だとか『お前はネトウヨだ!』だとかになる。
もちろん例示した中における〝ネガティブなイメージを持つ単語〟とは『部落』であり『ネトウヨ』なのは言うまでもない。当然の如くあまり誉められた攻撃手段とは言えず差別的手法と言っていい。
『急激な主題の転換』とは、それまでの議論がどうでもよくなるくらいの大事件が起こった場合、それまでの議論が一気に吹っ飛ぶ現象のことである。
テレビ・新聞など、メディアという存在は年がら年中政府批判をやっているものである。しかし、或る日突然驚天動地の大事件が起こるとそれまでやっていた政府批判はそこでブツ切りとなる。
具体例で示すなら、『阪神大震災』『地下鉄サリン事件』『アメリカ同時多発テロ事件』『東日本大震災』などなど。その直前にテレビや新聞はいったいどういうネタで政府批判をしていたのか、今となっては覚えている人の方が希である。
ニュース番組の放送時間、新聞の紙面枚数など、報道のためのリソースは無限ではないのでこれはある意味当たり前でもある。ただ、天狗騨記者はこれを人為的にやってのけようとしていた。
「左沢さん、あなたはアメリカ政府の代理人ですか?」
「なんだとっ!」
「アメリカ政府の利益を代弁するのが日本の新聞社の仕事ですかね?」
「俺がアメリカの代理人ならお前は一体何だっ⁉」
「私は日本人の立場でものを言う記者ですよ」
「俺だって言っている!」
「違いますね。アメリカにとって都合の良いことを言っています」
「どういう理屈でそうなるか言ってみろ!」
(まずは第一段階はこれでよし)天狗騨は思った。天狗騨記者が左沢政治部長に貼ったレッテルはもちろん『アメリカ政府の代理人』である。
「まずはファクトから行きましょう。今、日韓関係は戦後最悪です」
「それは日本がだな——」
「ストップです。今問題にしているのはアメリカなのですから」
「お前だろうが! 日韓関係の話しを持ち出してきたのは」
「この最悪の日韓関係の今、アメリカ政府が『北朝鮮に対抗するため日米韓の連携を』と言い続けた場合、それはどういう意味を持つでしょう?」
「そんな意味など解るかっ」
「明言しておきますが、アメリカ政府はイラクの独裁政権や、イランの宗教政権とは話し合わないが、北朝鮮の独裁政権相手とは話し合おうとする」
「北朝鮮とだけでも話し合おうとするとは結構なことだ」
「ただし話し合いは全て失敗、北朝鮮の核ミサイルは既にアメリカ本土に届くほどの性能を持っているのに、アメリカは未だなんの成果も得ていません」
「……」
「アメリカがアフガンやイラクなど対イスラム圏戦争にかまけている間にここ極東においてはアメリカにとっての脅威は増大の一途です。アメリカ政府としては成果を出さねばならないのに結果はゼロ。国内からは厳しい目で見られ責められる。さて、一般論としてこういう立場に置かれた人は次にどういう行動に出ますかね?」
「成果が出るまで行動する、だ」
左沢政治部長としては『アメリカは成果が出るまで北朝鮮とは話し合わなければならない』が心情なのである。
「違いますね。そんな人間はいませんよ。答えは周囲からのプレッシャーをなんとしてもかわそうとする、です。『やってる感』のアピールです」あっさりと天狗騨は左沢を否定してみせた。
「なんだっその『やってる感』ってのは⁉」
「文字通りですよ。『一生懸命やっています』というアピールです」
「そんなアピールで『はいそうですか』なんてなるわけないだろ!」
「その通りです。さすがは左沢さんです」
「ハ?」と面食らう左沢政治部長。
「『私は一生懸命やっているのに邪魔をする者がいるので上手くいかない』と第三者に責任を転嫁するのです」
「まさかそれが『日米韓の連携の意味』だと言うのか⁉」
「ええ、『日本と韓国のせいでアメリカは北朝鮮に対抗できない』と、そういう意味になるんですよ」
「……」
「私は対北朝鮮政策の行き詰まりをごまかすためにアメリカ政府は『日米韓の連携』を連呼しているのだと考えています。対北朝鮮政策が上手くいかないのを、日本と韓国のせいにするために。『日米韓の連携を』と言っているうちは『なにかをやっている感』を醸し出すことができますからね。結局左沢さん、あなたはそのアメリカ政府の代弁者をしているだけの人なんですよ」
「うるさいっ! たとえアメリカにとって都合が良くても日本にとっても都合が良いんだからいいだろうっ!」
「日本としては『日米韓の連携』で朝鮮戦争に兵站担当で参戦させられましたし、『日米韓の連携』を優先するために六カ国協議での拉致問題解決を断念させられたでしょう。さらに北朝鮮の種々の問題があるからと日本はイラク戦争に賛成し戦争協力までしましたが拉致問題はもちろん北朝鮮核問題も未解決のまま。連携した事による成果ゼロは日本も同じです」
「日米韓の足並みが乱れれば北朝鮮を利するんだ!」
「客観的に言って利しません。『日米韓の連携』がなんらかの成果をあげているのなら連携が乱れることにより北朝鮮が利益を得るというのは道理です。しかし連携してても成果ゼロということはこの連携、北朝鮮になんらの打撃も与えられていないということじゃないですか。連携があろうと無かろうと実は関係が無かった、というのが正確なところでは?」
「うぬぅ……」
「そもそもアメリカ合衆国は日本や韓国と連携しなくても北朝鮮に勝てるんですよ!」
「朝鮮戦争では勝てなかったじゃないか!」
これこそが天狗騨記者が密かに意図した第二弾。『急激な主題の転換』であった。
「中国人が頑張りましたからね」天狗騨記者は朝鮮戦争でアメリカ軍が勝てなかった理由を極めて短く説明し終えた。
「……」
「核兵器を持ったことで北朝鮮は夜郎自大状態ですが、核兵器を持っただけでアメリカに戦争で勝てますか?」
「勝てぬまでも負けないことは可能だっ!」
「しかしですね『勝てぬまでも負けない』というのは北朝鮮の立場に立った希望的観測でしょう? 私はアメリカの立場になって言っているんです。アメリカが北朝鮮に核兵器を使われた場合、アメリカは降伏するでしょうか?」
「どうして北朝鮮が先に撃つことになっているっ⁉ アメリカの方が先かもしれんだろうがっ!」
「逆の方も結局同じことになるので敢えて言わなかっただけですが」
「同じことになる? 俺にはなにが同じか解らんが」
「北朝鮮がアメリカに核兵器を使われた場合、北朝鮮は降伏するでしょうか? というのが逆ケースになります。どういう答えになりますか?」
「北朝鮮は指導者に絶対的忠誠を誓っている。泥沼の戦争になるに決まっている!」
「泥沼ですか」あっさり平坦に天狗騨は言った。その響きはまったく左沢の答えを認めていないようだった。
「なんだその『ですか』ってのは!」当然左沢は反駁した。
しかし天狗騨記者はこの左沢のもの言いを無視した。
「話しを元に戻します。アメリカが北朝鮮に核兵器を使われた場合、アメリカは降伏するでしょうか?」
「うるさいっ! 黙れっ!」
「今度は〝泥沼〟とは言わないんですか?」
「キサマッっ!」
「アメリカが北朝鮮に核兵器を使われた場合、必ず北朝鮮もアメリカに核兵器を使われる。そういう意味で結局同じ事になると言ったんです。お互いが核兵器を使い合えば泥沼にはなりようがありません。持っている核兵器の数が違うんですから」
「お前のその議論には決定的な穴がある!」
「と言いますと?」
「どちらが最初に核を使うかという前提が無いじゃないか!」
「『アメリカが北朝鮮に使う』のが先でも『北朝鮮がアメリカに使う』が先でもオチは同じだからです」
「同じになどなるか! アメリカが先に北朝鮮に使った場合、北朝鮮は被害者だ!」
「北朝鮮が核兵器を使って反撃しなければ、という条件付きでしょう、それは。しかし核兵器を持っている以上は北朝鮮も核兵器をアメリカに使用するのは確実です」
「まさかお前は『北朝鮮はアメリカに核を撃たれても核で反撃してはならない』とか言い出すつもりか⁉」
「なんのためにアメリカ人が故意に爆発力を落とした核兵器を開発しているか、そこを考えましょうよ。アメリカ合衆国が先制攻撃に使う核兵器は爆発力を故意に落としたものになる。問題はこの後。北朝鮮が通常の核兵器をアメリカに撃ってしまった場合です。きっと惨事となるでしょう」
「惨事など当たり前だ! 核使用なんだから!」
「その惨事の度合いが問題になる、とは考えませんか?」
「惨事の度合いだと?」
「端的に言って一般市民の犠牲者の数です。北朝鮮製の核兵器の犠牲者は、数万人は堅い。確実にアメリカ政府は『ピンポイント核攻撃で軍事目標を狙った』とアピールし、その一方で『北朝鮮は都市を狙い一般市民を大量虐殺した』と主張するに違いありません」
「らしくないな、天狗騨。お前なら『真珠湾という軍事施設のピンポイント爆撃の報復に広島・長崎を核攻撃したのがアメリカだ』くらいは言うんじゃないのか?」左沢としては強烈な皮肉をかましたつもりだった。
しかし天狗騨記者はにやりと笑い「しかしその後に続くことばを省略していますね」と口にした。
「省略?」と左沢政治部長がおうむ返しに問う。
「『真珠湾という軍事施設のピンポイント爆撃の報復に広島・長崎を核攻撃したのがアメリカだ。だからアメリカは許せない!』なのか、『真珠湾という軍事施設のピンポイント爆撃の報復に広島・長崎を核攻撃したのがアメリカだ。だから我々もやっていい!』なのか、ってことですよ。私には後者の意味で口にしたように聞こえたのですが」
「ふっ、ふざけるなっ!」
左沢政治部長はあくまで北朝鮮の立場でアメリカに嫌みを言っただけだった。一方、天狗騨記者は同じASH新聞社員といっても北朝鮮に特段肩入れなどしていない。
「ちなみにその言い分を使うとアメリカの方がピンポイント攻撃側となりますから、どちらかというと北朝鮮の方が悪になりますが」とさらに天狗騨は付け加えた。
「核を使っておいてピンポイント理論は通じない!」とかろうじて押し返してみせる左沢政治部長。
「まあそこはその通りです。が、アメリカ人がどういう連中かを思い出してみて下さい。新型コロナウイルスが世界的流行をした時、アメリカ国内で大量に売れた品物は何でしたか? 銃と銃弾です。こういうメンタリティーを持っている連中が核攻撃を受けたらどうなるかってことです」
「なにィ?」
「答えはこうです。アメリカは北朝鮮から核攻撃を受けても降伏などしません。かの銀行員のドラマじゃないですが、やられたらやり返す、十倍返し二十倍返しとなります。北朝鮮が一発核ミサイルをアメリカに撃ったなら、アメリカからは最低一〇発。普通に考えて二〇発の核ミサイルが北朝鮮に向けて発射されることでしょう。しかもその二〇発は爆発力を落とさない従来型であるのは疑いようもありません」
「そんな核兵器を二〇発も使ったら国際社会が許さないっ!」悲鳴のように左沢が反発した。
「それは北朝鮮がアメリカを核攻撃しなかった場合の話しでしょう? アメリカを核攻撃してしまった場合はまったく当てはまりませんね。アメリカ人の大量虐殺が起こるわけですから。確実にアメリカ国民は狂ったようになって核による報復を渇望するようになります」
「しかし核兵器を二〇発も使ったらそれは報復としてはあまりに行き過ぎた行為でそれこそ大量虐殺以上の大々大量虐殺じゃないか! 国際社会が許すはずが無い!」となおも〝コクサイシャカイ〟に希望を繋ぐ左沢政治部長。
「『我々が二〇発撃ったからこそ敵の二発目の核攻撃は無かった。躊躇と容赦はさらなる核被害をアメリカ国民の上にもたらしたことだろう』とアメリカ大統領は演説しますよ。『自衛のための二〇発だ』との大統領演説でアメリカ国民は街頭へ繰り出し群衆となってメインストリートを埋め尽くし、『USA!』『USA!』『USA!』『USA!』『USA!』ですよ。二〇発もの核兵器によって虐殺された一般の朝鮮人について心を痛めるアメリカ人などきっと皆無です。その狂気に満ちたアメリカ大衆の熱狂する光景を目の当たりにしてアメリカに何かを言ってやろうという気が起こる国がありますかね?」天狗騨記者は眉一つ動かさず言い切った。
「あっ、アメリカ人をそこまで悪く言っていいと思っているのかっ⁉」
「悪く? しかし非核武装国である日本相手に二発も核攻撃をして『戦争を早く終わらせるために核兵器を使ったのだ』と真顔で言ってのけられる国民性ですよ。そんな国が一発でも核兵器で国民が虐殺されたなら核兵器二〇発くらい撃ち返す、というのはそこまで的を外した考えじゃあないと思いますがね」
非核保有国に対してさえ二回も核攻撃を行った、これは紛れもなく事実だったため左沢にはぐうの音も出ない。左沢は論点を変えた。
「しかし北朝鮮の指導部は地中深く身を隠し無事に違いない。最後の最後ではアメリカは地上部隊を送り込むほかなくなり、泥沼となるっ!」左沢政治部長はなぜだか北朝鮮に深く深く感情移入をしていた。
「現代の核兵器を二〇発も食らったら北朝鮮の都市二十が消え失せるということになります。つまりそれらの都市の国民はどうなっています? 死体か、動けない重傷者・重病者ばかりになっています。兵士がいない国でどうして泥沼化するんです?」
「そんなものが答えになるかっ! 肝心の指導部は地中深くの核シェルターに籠もるんだ!」
「籠もったなら放射能防護服に身を包んだ特殊部隊を送り込むでしょうねアメリカは。核攻撃で廃墟となった土地なら侵入は簡単です」
「それこそ北朝鮮の術中に嵌まる!」
「と言いますと?」
「核攻撃は確かに甚大な被害をもたらすが国民全員が死ぬわけじゃない。部隊を地上に送ったら最後、泥沼の地上の戦いに巻き込まれるのだアメリカは! 朝鮮戦争の二の舞となる!」
「さっきも言いましたけど朝鮮戦争の時は中国人が頑張ったんですよ。現代の中国人、あるいはロシア人が北朝鮮のために血を流すと、そう言いたいわけですか?」
「……流すかもしれない……」と今ひとつ心許ない左沢であった。
「ロシアや中国が欧米と貿易をしていない共産主義全盛の時代ならともかく、北朝鮮のために自国民を貧しくしてまで自国民の血を捧げますかね?」
「ロシアや中国が北朝鮮を見殺しにしてもきっとベトナム化する!」
「それが作戦ですか?」
「そういう作戦を採るだろう」
「ということは指揮する者がいるということになります」
「当然北朝鮮指導部だ。彼らはそう簡単に死なない! ゲリラ戦の指揮を地下から行う!」
「地下ということは入り口があるはずですね」
「当たり前だろバカ!」
「入り口を押さえられたら出られなくなります。じき食べる物にも困ります」
「だからなんだ⁉ 入り口などどこにあるかは解らんもんだ! 簡単に押さえられるものか!」
「ゲリラが捕らえられアメリカ軍から拷問を受けたら、その入り口の場所がバレますね」
「……」
「むしろ自分の命が助かりたいばかりに勝手に降伏して積極的にゲロする人間が出る可能性も高い」
「……」
「アメリカ軍特殊部隊は中東で隠れ家に籠もる過激派指導者の殺害を何度も経験してきています。いわば熟練です。『地下に籠もる』というのはお手の物のシチュエーションですよ。そして見つけられてしまったら最後、現場で全員殺害です。『抵抗してきたので撃った』と言えばいいだけです」
「そんな全員殺害が許されるわけ無い!」
「まあペルーの日系人大統領の場合はそうした行為についてアメリカ人は許さなかったようですが、どういうわけか同じ事をアメリカ軍がしても『投降者を撃った』という非難はアメリカ人からは起こりません。それともその時はあなたの名義でこのASH新聞の紙面に『アメリカは投降者を撃った!』と載せてみますか?」
「ぐっ!」天狗騨のこの指摘に途端に抵抗力を失う左沢であった。やはり狂気のアメリカは怖いのだ。
「話しを戻しますよ。これでアメリカ合衆国は一カ国でも北朝鮮に勝ってしまうことが解ったでしょう? 日米韓の連携など『やってる感』を現すことだけが目的の連携で、そもそもアメリカと北朝鮮の間の戦争の勝敗など左右しないんですよ」天狗騨記者は言った。
「きっ、北朝鮮はアメリカを核攻撃できないかもしれないが日本の方へは核攻撃するかもしれない!」と、なおも抵抗を続ける左沢政治部長。
「私はアメリカ視点での話しをしているんです。急に日本視点に話しを逸らさないで下さい。私は『アメリカは北朝鮮が核を使ってさえも勝つことができる』、と言ったんです」
「ごまかすなよ! 核保有国相手に日本に何ができるっていうんだ⁉ アメリカが言わなくても『日米韓の連携』は日本としては必須なんだ!」
「それだと『日米の連携は重要』という意味になってもそこになぜ『韓国』が混じっているのか説明になっていません。そもそも日本が北朝鮮から核攻撃を受けたとしてもアメリカ合衆国が北朝鮮に核報復してくれるのかどうかは実は確約すら存在しません」
「キサマ、アメリカに『核を使え』と言うつもりか⁉」
「それが『核の傘』でしょう? 日本が核攻撃を受けたら日本を核攻撃した国に対し代わりにアメリカ合衆国が核報復を行う。いわゆる『相互確証破壊』というやつです」
「とんでもないことだ! そんなことは断じて求めてはならない!」
天狗騨記者の髭もじゃの口がにかりと開いた。
「そういうお考えでしたら『日米韓の連携』に固執する必要は無いでしょう。日米韓が連携してきても北朝鮮の核開発・弾道ミサイル開発は止まること無く進んできた。こうした事実を直視する勇気を持ちましょう! アメリカは今しきりに『日米韓の連携を』などと言っていますが、アメリカが爆発力を故意に落とした核兵器を使う際、事前に日韓の承認など得ると思いますか? 使った後になって『支持しろ』と、そう言ってくるのは火を見るよりも明らかです。そして日本政府も韓国政府も事後承認しかねません。正に連携です。アメリカの求める『日米韓の連携』とはアメリカにとって都合の良い連携でしかありませんよ」
「うっ、ウヌッ」
アメリカの北朝鮮に対する核攻撃を日韓がともに支持させられる、それが『日米韓の連携』だと天狗騨に言われ左沢は言葉に詰まった。左沢の『日米韓の連携』に対する自信がぐらついてきたのだ。
「それより左沢さん、『核保有国相手に何ができる?』ってのは明らかな問題発言です。『核保有国に非核保有国は譲歩をしろ』というそうした主張は『核兵器禁止条約』を真っ向から否定する価値観だ。我が社(ASH新聞)の社論にも反する。左沢政治部長、あなたはこの場で発言の撤回と社論に逆らったことについて謝罪をするべきだ」
「社論に普段から逆らっているお前が言える台詞か!」
「なるほど、あなたが逆らっても大丈夫なら私も大丈夫ですね。納得できないのならお互い社論には大いに逆らいましょう! それが個を持った人間というものです!」
(⁉ ⁈ ⁉ ⁈)左沢政治部長は混乱の渦中にいた。天狗騨記者の反射神経によって左沢政治部長に二枚目のレッテルが貼られた瞬間だった。
『社論に公然と刃向かう会社員』、左沢政治部長に新たに貼られたレッテルはこれだった。当然国内国外問わず『組織』という存在がこうした人間を歓迎することは無い。
「あの近畿財務局の自殺した官僚も我々のような個を持っていればああいう結末は無かったはずなんです」
(なんだとっ⁉)左沢政治部長の胸に激しい憤りが突き刺さった。
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