第三十一話【日ソ中立条約、日韓基本条約(日韓請求権協定)と、次々条約を破られ続ける日本。次に日本との条約を破るのはどの国だ?】

「なにっ⁉ 日米韓の連携を唱える者は非現実主義者だと言うのか⁉」左沢政治部長は声をうわずらせながらも詰問した。しかしもちろん天狗騨記者にはまるで効いてはいなさそうである。


「そうですよ。結局ソレは〝外国頼み〟という意味です。私に言わせれば〝日米韓〟どころか〝日米〟すらも怪しいものがある」


「キサマっ、どういう意味だ? まさか同盟国が信用できないと言うのかっ⁉」


「その〝同盟国〟っていう言い方はやめませんか。そもそもなぜアメリカ合衆国が日本の同盟国かと言えばその根拠は条約にあるわけです。『日米安全保障条約』というね。私はこの条約を過信しすぎるのは危険だと言っているんです」


「それを同盟国を疑うって言うんだ!」


「では訊きますが、左沢さん、あなたの言っていることは『日本人はアメリカ人を疑うな』という意味ですが、『アメリカ人は日本人を疑うな』と、一回でもあなたは主張したことがありますかね?」


「アメリカ人に疑われたのなら説明して疑念を晴らすことが大事だ!」


「そんな言い草が通じるのは『外国は結んだ約束は必ず守る』という前提があった時代の話しでしょう?」


「まるで『外国は約束を破るもの』、とでも言いたげだな!」


「『日ソ中立条約』、そして『日韓基本条約に付帯する日韓請求権協定』。ロシア人と韓国人から立て続けに条約を破られているのが日本です」


 天狗騨記者は『日ソ中立条約』の有効期限内にソビエト社会主義共和国連邦が中立義務を放棄し日本攻撃を始めたこと。

 そして〝請求権に関するあらゆる問題が解決した〟と謳った条約があるのに『徴用工』を持ち出し再び金銭的要求を日本に求め始めた大韓民国のことについて指摘をした。


「——ソビエト、つまり今のロシアも、韓国も日本の隣国です。隣国が次々条約を破っている現状で日本人に『条約を信用しろ』と言われても無理な相談です。条約があるからと、外国を無条件で信じることは正しい思考でしょうか?」天狗騨記者は言った。


「つまりそれはお前、もう一つの隣国であるアメリカ合衆国も『日米安全保障条約』を破ると言いたいのか?」


「言いますね。このままアメリカ合衆国が条約を守ると信用して『アメリカが矛、日本が盾』などとやり続けていて、ある日〝矛〟が裏切ったらどうなります? 〝盾〟だけじゃあタコ殴りに殴られ続け、格闘ゲームでただ防御してるだけという、そういう状態に陥りますね」


「防御しているだけでいいじゃないか! それが専守防衛の日本だっ!」


「部長、ゲームとは言えあれはよくできています。防御だけだとダメージが蓄積し続け体力が削られ、最終的にやられてしまうというオチになるんです」


「なんで俺がお前とゲーム談義などしなければならん! 『日米安全保障条約は破られる!』という暴言を吐いたんだ。今さら逃げられると思うなよ!」


「逃げませんよ。ただファクトだけは言わせてもらいますよ。ファクトだけは」


「何がファクトだ言ってみろ!」


「我々は韓国人じゃあありません」


「韓国人差別をするつもりかっ⁉」


「またそれですか。我々日本人と韓国人とでは物の見え方が違うという話しですよ」


「どう違うっていう⁉」


「韓国を護るために死んだアメリカ兵はいても、日本を護るために死んだアメリカ兵は一人もいないわけです」


「だからどうしたっ! 日本国を主体とする戦争は1945年以降していないんだから当たり前の話しだっ!」


「もしかしてまた『在日米軍抑止力論』ですか。しかしそれは〝今から振り返れば〟という、たまたま結果がそうなっているだけの結果論に過ぎません。結果論を根拠に導き出された説がこの後未来においても同じ結果を生むとは到底思えません。ナニカが起こらなかったことをもって〝誰かのおかげ〟ということにする考え方はカルト宗教の指導者の言うことですよ」


「なにっ⁉ 〝カルト〟だと‼」


「そうです。こういう話しに聞き覚えはありませんか? 前世紀末にいわゆる〝終末思想〟が流行ったことがありました。当時『いついつに不幸が起こる』とかいう〝予言〟が社会に氾濫していたそうです。その中に『富士山が何月何日に爆発する』という具体的日時を示した〝予言〟があった。もちろんその通りに爆発することなど起こらないわけです。その時〝自称予言者〟がどう言いつくろったか想像できるでしょう? 『私が祈ったおかげで爆発しなかった』と曰ったとのことです。何も起こらなかったことを根拠に誰かのおかげとするこの考え方は『在日米軍抑止力論』と論理構造が同じなんです」


「フン! 説得力としては今ひとつだな。それを言えばアメリカ人を激高させるだけだ」


「ならばファクトにこだわりましょうか。私に言わせれば『日米安全保障条約』は幸運にもこれまでまったく修羅場をくぐっていませんね、となります」


「なんだっ、その〝修羅場〟って⁉」


「中華人民共和国と北朝鮮の関係を思い描いてくれれば簡単に解ります。中国と北朝鮮の同盟を語るとき〝血〟という語彙を使って語られています。一方で日米間には同盟的意味での〝血〟はありませんね。ただ紙の上に文字が書いてあるだけです。そして日本はロシア人、韓国人に次々紙の上に書いた文字を破られている」


「ロシア人や韓国人が条約を破る連中でもアメリカ人まで破るとどうして言える⁉ 『アメリカも日本の隣国だから』なんて言い草は通じないからな!」


「アメリカ人にまったく謙虚さが欠けているところがその根拠になります。本当の意味で『日米安全保障条約』体制は修羅場をくぐっていないのに、アメリカ人ときたら『アメリカはこれほど多大な犠牲を払って日本を護ってきた』と平然と日本人に言い放つところです。中国と北朝鮮間のように〝血〟という〝実績〟があるわけでもなく、条約という〝文字〟があるだけでこの態度です。個人的感想を言わせてもらえば、何もしていないのに『困ったら助けるという約束』をしただけで恩を着せるような言動をする人間は、私は信用できませんね」


 うっ、とここまで比較的調子を取り戻していた左沢政治部長は詰まる。


「——しかもです。アメリカ合衆国はソビエトと同じ連合国。つまり同盟国同士です。この同盟国による『日ソ中立条約破り』をアメリカ人は一切非難していません。同盟国なんだから責任があるはずです。我々日本人はナチスドイツと同盟国だったことを理由に『ドイツは反省しているが日本は反省していない』などと言われ、ナチスドイツと同列視され非難されている状態なんですから、同盟国の責任はたとえ連合国側であろうと等しく負うべきなんです。しかしアメリカ人にその意志はまるで無い」


 左沢、沈黙。なにしろ彼もまた日本をナチスドイツと同列に扱ってきた張本人達の一人である。『アメリカとソビエトは同盟国だったのだから同列に扱って良い』とする天狗騨の主張に反論できる立場に無かった。左沢はただ(天狗騨め!)と奥歯をぎゅうっと噛みしめるのみ。


「——さらに韓国の『徴用工』に関する日本への再度の金銭的要求についても、アメリカ合衆国の国務長官は『まだ日本にはできることがある』と主張しました。『日韓請求権協定』という条約を破ることを支持するが如くです」


「それについては日本政府が抗議したらもう言わなくなったはずだ!」


「言ってしまったというところが問題です。まず最初に口走ってしまったこれがこの国務長官の本音だということです。ふいにボロリとこぼしてしまう人間の本音ほど重要な判断材料はありません」


 左沢、再び沈黙……


「何が言いたいか解りますか? 『日ソ中立条約』も『日韓請求権協定』もアメリカ人は条約を破られた日本の側に立っていないということです。それどころか日本との条約を破った側の方の肩を持っている。さて、こうした連中と結んだ『日米安全保障条約』という条約が確実に守られ続けると言える根拠はどこにあります? 『日米安全保障条約』は日本有事が起こった瞬間に破られると、私はそう考えていますよ!」


「おっ、お前、『トモダチ作戦』を忘れたのかっ!」左沢政治部長の口が叫んだ。


 『トモダチ作戦』、それは2011年の東日本大震災の際のアメリカ軍による大規模な被災者救援作戦である。


 しかし天狗騨記者の顔色はまったく変わることが無い。天狗騨は遠い目をした。


「『トモダチ作戦』、ですか。あれこそが『日米安全保障条約体制』の限界を指し示した実例でしたね。むしろその作戦ネーミング、ああいうのを『トモダチ』と言うのかと、まったくブラックジョークのようでした……」


「お前感謝の気持ちが無いだろ! それが人間かっ!」


「ありますよ。確かにあの時アメリカ軍は日本人を助けてくれました。ただし、〝アメリカ兵の健康に被害が及ばない範囲で〟です。解りますかこの意味が? 日本が戦争状態に陥った時、アメリカ軍はものの役に立たないと、その限界を露呈してしまった一件でもあるんです」


「キサマっ! 『トモダチ作戦』を愚弄する気か⁉」


「アメリカをそれほどかばいたい心情をお持ちなら、敢えてそれは持ち出さなかった方が良かったですね。そうまで言われてしまったからにはこちらも言うほかありませんが、『三陸沖原子力空母ロナルド・レーガン事件』をご存じありませんか?」


「なんだその『三陸沖原子力空母ロナルド・レーガン事件』ってのは⁉」


「僭越ながら命名はこの天狗騨です」


「そんな事件知るか! 勝手にでっち上げるなよ!」


「東日本大震災後、日本支援のため三陸沖に派遣された米原子力空母ロナルド・レーガンの乗員達が原発事故に巻き込まれ放射能を浴びてしまったと、日本人に巨額の損害賠償を求めている事件です。訴えた裁判所はアメリカの連邦地裁ですからね。この裁判、判決次第によっては『アメリカ版徴用工判決』になりますよ。そうなったら日米関係は日韓関係と同じになります。『日米安全保障条約体制』など崩壊するんじゃあないですかね」


「それは事故を起こした日本の電力会社が情報開示を怠ったからだ!」


「左沢さん、あなたアメリカ人ですか?」


「違うに決まってるだろ!」


「要するに彼らアメリカ兵の言っていることはこうです。『原子力発電所が爆発すると予め言っておいてくれたら原子力空母は逃げられたのに』と。こういう主張ですよね」


「……」


「ここは日本人なら別のツッコミをすべきところでしょう。私はこの第一報を聞いてはらわたが煮えくりかえりました。ま、プレスリーの物真似芸人の如き白髪頭の元首相はそうではなかったようですが」


「——まず原発事故を起こした件の電力会社には日本の税金が大量投入されているという事実を押さえておかなくてはなりません。そのカネに目を付けたんでしょう。請求額が常識外れです。まず損害賠償として1千万ドル、詐欺や怠慢などへの懲罰的賠償として3千万ドル、医療費をまかなう1億ドルのファンドの立ち上げも求めています。これらを全て『日本人が日本の税金から支払うべき!』とアメリカ兵とそれを支援するアメリカ人弁護士達は求めているんです。解りやすいように1ドル100円で日本円に換算してみましょう。損害賠償10億円+懲罰的賠償30億円+アメリカ兵の医療費の支払いのために100億円、合わせて140億円日本人は放射能被害を受けたアメリカ兵に支払えと要求しているんです」


「——さて、左沢さん、アメリカ兵が『日本人から放射能の被害を受けた!』と騒いでいるわけですが、あなたはいくつ突っ込めますか? それともあなたはプレスリーの物真似芸人な白髪頭の元首相レベルですか?」


「そそそそそっ、そういうお前は突っ込めるんだろうな! 他人に言わせるなんて汚い真似しやがって!」

 これは左沢なりの挑発である。


「なら言ってみましょう。もちろんいの一番一町目一番地の一つ目はヒロシマ・ナガサキです。アメリカ兵の皆さんは放射能を浴びてしまいましたがまだ生きていて裁判などやっています。放射能を浴びるどころか核兵器で殺された人々のためにそのアメリカ兵とそれを支援する弁護士達は誰を訴えてくれるのでしょうか? 放射能を浴びただけで140億円の支払い義務が生じるというのなら、ヒロシマ・ナガサキの被害者達はいくら支払ってもらえば釣り合うでしょうか?」


「おっ、おっ、おっ」

 左沢は〝おっ〟しか口に出せない。天狗騨記者は『日米同盟』を忖度し、何も言えなくなってしまうという〝日本人的感性〟を全く持ち合わせていなかった。なにぶんにも忖度不能の男なのである。


「——二つ目。事故を起こした原子力発電所は日本初の商用原発です。当然当時の日本企業の核関連の技術など未熟もいいところです。アメリカ企業の力無しにあの原発は作れなかった。アメリカ企業にも設計施工の責任があるはずです。非常用電源を海際に配置するというその設計はアメリカの原発企業の設計です。どうしてアメリカ兵とそれを支援する弁護士達は被告にアメリカ企業を加えないのでしょうか? 日本の電力会社だけを訴え、原発を造った肝心の企業を訴えないのではこの裁判にあるのは日本人差別だけ! アメリカ企業から被害を受けたのに攻撃対象は日本人限定とは! これは極右の行動パターンそのものだ! ここに正義は無いと断言しても構わないと、私はそう考えています!」


「——三つ目。我々ASH新聞始め各国の報道機関がイラク戦争の時なんと報道していたか覚えていますか? 放射性物質をまき散らす『劣化ウラン弾』をアメリカ軍が使用したことを問題視していたはずです。イラク人のみならず他ならぬアメリカ兵も放射能被害を受けたはずなんです。あの時、劣化ウラン弾が炸裂した大地の上をアメリカ兵が進撃していたんですから! なのにどうしてこちらの方については放射能被害を訴えるアメリカ兵の裁判の話しを耳にしないのでしょうか? イラク戦争時アメリカ軍が炸裂させたであろう劣化ウラン弾の数を思えば、少なくとも140億円規模の賠償を求める裁判があって然るべきです。日本人の電力会社が放出してしまった放射能についての被害には目をつり上げ巨額の賠償請求をするが、アメリカ軍の劣化ウラン弾がまき散らす放射能被害には無頓着。アメリカ兵のメンタリティーを疑いますね。これを容認するのがアメリカ社会なら、この社会は極右が牛耳っている社会だと言うほかない!」


 ここで天狗騨記者がジロリと左沢を睨んだ。


「最後のひとつは残しておきました。最後くらいあなたも突っ込んでみたらどうです? 左沢さん」


「いや……」左沢政治部長は口を濁す。だが天狗騨は逃げを許さない。


「さあさあさあ!」と急かされる。


「げ、原子力空母に乗っていながら『放射能が怖い』は無いだろう」左沢政治部長は誰もが突っ込むであろうツッコミ箇所を口にした。


 しかし天狗騨記者は顔をしかめた。「言うことはそれだけですか?」と左沢に訊いた。


 左沢は沈黙となった。


「もう既に私が答えを言っていますよ」


「……」


「『原子力発電所が爆発すると予め言っておいてくれたら原子力空母は逃げられたのに』。こういう主張をするのが原子力空母乗員達です。で、これが〝抑止力〟とやらになりますか?」


「……」


「なりませんよ! なぜ『ならない』と言えないのですか⁉」


 左沢政治部長ただ黙り続ける。


「——もっと言うなら、原子力空母は軍艦なのに敵の攻撃を受ける可能性のある場所では使えないという欠陥兵器であるという事が、他ならぬ原子力空母乗組員の行動で証明されてしまったんです! こう言ってはなんですがあれくらいの放射能でこれだけのパニックを起こす乗員が動かす原子力空母を、敵の攻撃を受ける可能性のある海域で運用できると思いますか? 弾が一発でも当たったら『放射能っ放射能!』と乗員が恐慌状態に陥るんじゃあないですかね。〝放射能〟を前にしたときこの軍艦はダメージコントロールが不能になる可能性極めて大です! これで『世界最強の原子力空母』とは聞いて呆れます。これは先の大戦における超弩級戦艦と同じくらい本物の戦争では使えない兵器です! アメリカ軍は抑止力にならないことが他ならぬアメリカ兵の行動で明らかになったんです!」


「アメリカ軍を抑止力にならないとはなんたる暴言だっ! 日本の外交方針を根本から否定するものだっ!」左沢政治部長が吠えた。


「ならないからならないと言っているんです。私は原子力空母の弱点を指摘しただけですよ! もし私が中華人民共和国の指導層なら、アメリカ軍の原子力空母を撃沈させることなく退却に追い込む方法が見つかったと、ほくそ笑んでるところです」


「キサマ、戦争を語るのかっ?」


「大戦争にさせずに小戦争で済ませる方法が見つかってしまった事の重要性を理解してるんですか?」


「またマウントか!」


「そんなつまらないモノはとりませんね。中華人民共和国としてはアメリカ軍の原子力空母を『空母キラー』と称されるミサイルで撃沈することは実は怖いでしょう。10万トン級空母撃沈となれば死人の数はかなりのものになりますし、その結果アメリカがどれくらいの報復をしてくるか解りませんからね。中国人ならここは孫子の兵法を使うんじゃないですかね」


「孫子だと?」


「孫子は『戦わずして勝つ』ことを上策とします。原子力空母に直接ミサイルを当てなくても原子力空母上空で放射能をまき散らしたらどうなります?」


 あっ! と左沢は思った。


「東日本大震災における原発爆発事故の際には結局原子力空母は被爆の危険がある当該海域から離脱しました。これと同じ事を人為的に起こせば原子力空母を撃沈することなしに特定海域から排除することは可能です。果たして原子力空母は抑止力たり得るでしょうか?」


「かっ、仮に原子力空母が抑止力にならないとしてもアメリカが提供する『核の傘』は抑止力になるはずだ!」左沢が叫んだ。


「我が社の社論は『核の傘肯定』だったでしょうか?」


「うるさいっ! お前が何を言うかを敢えて試しているんだっ!」


「それはどうも。『核の傘』については非常に曖昧なところがある。肝心なところがぼやかされています。有り体に言って『日本が某国から核攻撃された時、アメリカは某国に対して核攻撃を仕返してくれるのか』、そこは不確実なわけです」


「お前まさかそれを公言するのかっ⁉」


「まあもうあなたの前で言ってしまった以上は公言したも同じですが、ここでは敢えてそうした末節の部分には踏み込まないことにしましょう」


「なにが〝末節〟だ。抑止力と言ったら核抑止力だろうが!」


「私はね、『原子力空母は抑止力にならないだとか、核の傘は抑止力になるだとか』、そうした兵器の話しをしているんじゃあないんですよ。人間の話をしているんです」


「なにが〝人間の話〟だ。そんなんで煙に巻けると思うなよ!」


「戦争とは結局人間がやるものです。原子力空母の運用も核の傘の運用も結局人間がするんです。その人間がこう言ったんです。『原子力発電所が爆発すると予め言っておいてくれたら原子力空母は逃げられたのに』と。『危険なら速やかに報せろ。そうしたら直ちに逃げる』とアメリカ軍の人間が言った時点で〝抑止力〟とやらが怪しくなってきたと考えるのが普通の頭というものではないでしょうか?」


「ふっ、普通の頭じゃなくて悪かったなーっ!」


「左沢さんは普通の頭じゃなかったってことですか?」


「やかましいっ! それは一兵卒、アメリカ軍の下っ端が言ったことだ。それをアメリカ軍全体に当てはめるなっ!」左沢は怒鳴る。


「ならば上っ端が言ったこともあれば納得してもらえると、そういうことですね」天狗騨記者はやけに余裕がありそうな態度でものを言った。

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