エピローグ:キライだったよ、あんたのことなんて。

 駆ける、駆ける、駆ける――。


 町並みが後ろに過ぎていく。景色がどんどん変わっていく。あーこれ絶対足止めた瞬間に汗がぶわっと全身から吹き出てきて汗臭くなるやつだ~、なんて思う。


 だけど止まれない。止まりたくない。


 ああ、そうだ。電話しないと。


 私の強さを信じてくれたあいつに、今、すごく声を届けたい。


 スマホの着信履歴から番号を呼び出す。電波が、番号の先にいる人間と私とを繋げる。


「もしもし!?」


 走りながら私は叫んだ。


『あ、カズミー? どうかした?』


「あれ、小毬ちゃん!? あれ!? なんで!?」


 呼び出した番号を間違えたらしい。慌てて操作したせいだ。


『えー……カズミー、小毬ちゃんに間違い電話~?』


「あ、いや、うそうそ! 間違えてない! ちょうどいいし!」


『ちょうどいいって、また微妙に気になる言い方を……』


 小毬ちゃんが呆れているのが分かる。だけどそれに構わず私は続けた。


「私さ、頑張ったよ! 頑張ったんだよ!」


『カズミー?』


「頑張って、頑張ったら……よかったって思えたんだよ!」


 言ってることはむちゃくちゃだ。意味だって小毬ちゃんにきっと伝わってない。


 でも、電話の向こうで小毬ちゃんが微笑む気配があった。


『そっか。カズミー、がんばったんだねえ』


「うん、頑張った!」


『そっか。すごいね。やっぱり強いね、カズミーは』


 強いと思ってくれている人がここにもいた。そのことが今は、こんなに嬉しい。


「それから、今からも頑張ってくる。ちゃんと、今度こそ頑張ってみる」


『ん、がんばれ、カズミー! ファイトだファイトだカ・ズ・ミー!』


「ファイトる頑張る小毬ちゃんありがとう愛してる!」


 叫ぶようにそう言って電話を切る。


 名残惜しかったけど、小毬ちゃんにはまた今度じっくり話したい。そして言うんだ。背中を押してくれてありがとうって。


 でも今、話したいのは別のやつだ。


 敬遠していた、キライだった、あいつだ。


 地面をさらに強く蹴りつけながら、私は今度こそあいつの番号を呼び出す。


 着信音が鳴り響く。ワンコールでは繋がらない。


 でもそれでいいんだ。だって今私は考えてる。あいつが出たらなんて言おう。どんな言葉をまず伝えよう。


 あいつはまだ電話に出ない。でもきっとすぐに出る。


 だから、まずは、そうだな。


 言いたいことは色々あるけど。告げたい気持ちもたくさんあるけど。


 こういうのは最初っから全部話すべきなんだ。だから最初の言葉は、もう決まってる。


 ――キライだったよ、あんたのことなんて。


 ここからすべてが始まった、まごうことなき私の本音。


 その先に続ける言葉を思い浮かべたところで、通話が繋がった。


「あ、もしもし? 私だけど、その、聞こえてるか? えっとさ――」

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キライだったよ、あんたのことなんて。 月野 観空 @makkuxjack

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