第20話 銭湯での争い

 てくてくと二十分ほど歩いて、佳弥と飛鳥は昭和レトロな銭湯の前にたどり着いた。スーパー銭湯にしか行ったことのない佳弥からすると、建物の見た目は心配になるくらい古臭い。建物の背後にそびえる煙突も、黒っぽく汚れた名板も、すすけたようなすりガラスの戸も、歴史を感じさせる。それでも、時折タオルなどを持った人が出入りしているから、なかなかに繁盛しているようだ。ナビゲーターからの指示によると、ここの湯船の脇に飾られているお地蔵さん、もしくはタヌキの置物に、お風呂のお湯を頭からかぶせるということらしい。浴室内にお地蔵さんやらタヌキがあるということがまず佳弥には信じがたいのだが、指示されている以上は実在するのだろう。


「風呂に入れということですか?」


 佳弥は恐る恐る尋ねた。四十五歳の全身をくまなく見つめ直す勇気は佳弥には無い。


「このまま忍び込めばいいわよ。そのための変身なんだから。」


 あっさりと飛鳥は言ってのけた。そうか、と佳弥はほっとして同意する。さっと潜り込んで、すっとお湯を掛けて退散するだけなら、迷惑にもなるまい。


「あたしが男湯に行くわね。年頃の女の子に殿方の裸体を見せるわけにはいかないもの。」


「ええ、できれば見たくはないですが、赤面してキャーとか叫ぶほど純真でもないですよ、多分。飛鳥さんは平気なんですか?」


「当たり前でしょう。」


 何がどう当たり前なのか佳弥には分からないが、飛鳥はふふふと真っ赤な唇に謎めいた笑みを浮かべた。そこまで言われて、敢えて反対するほど佳弥は男湯に興味があるわけではない。おとなしく女湯に向かうことにした。何事につけても佳弥は淡泊である。


 佳弥と飛鳥は二手に分かれ、それぞれ番台の脇をかすめて脱衣場に上がった。番台に座る小母さんも、脱衣場を利用するお客さんも、佳弥や飛鳥に全く気付く様子は無い。佳弥は、観葉植物やマッサージ機がぎっしりの趣ある脱衣場に戸惑いながらも、ご婦人たちをそっと避けて浴場に向かった。きりきりと扉を開けると、熱気と湯気が一気にまとわりつく。周りがみんな裸なのに自分だけ着衣のまま浴場に入るのは何だか悪いことをしているような気になる。さっさと終わらせよう、と佳弥は人の流れから離れて辺りを見渡した。湯気で見づらいが、一番奥の湯船の脇に、ごてごてとディズニーの人形などが飾られている一段高いギャラリースペースがある。あの辺りに、地蔵かタヌキがあるのだろう。滑る床で転ばないように、佳弥は慎重に歩を進めた。


 近付いてみると、タヌキは無く、地蔵が浴室の最奥部、ギャラリースペースのさらに奥に設置されていた。湯船に入るか、さもなくばギャラリースペースに登って人形たちの前を通らなければ手が届かない。佳弥は少し悩んで、とりあえずポケットから黒い布を沢山引っ張り出した。もぎゅもぎゅと手で握りながら四十五リットルのゴミ袋を思い描くと、昭和世代にはおなじみの黒いゴミ袋が案外うまくできあがった。リュックとスマホをその中に入れ、ギャラリースペースの片隅に置いておく。足を滑らせて湯船に転落しないとも限らないから、これは保険だ。


 それから佳弥は、意外と段差の大きいギャラリースペースに片足をかけ、よっこらしょと登った。ギャラリースペースの天井は低いので、低く腰をかがめたまま人形たちの脇をじりじりと奥へ進む。手を伸ばせば地蔵にお湯を掛けられる位置までたどり着き、佳弥はしゃがんだまま湯船に手を伸ばした。


 その視界に、素早く動く黒い影を認め、佳弥は反射的に手を引っ込めた。まさか、浴場にゴキブリか。首を回して辺りの様子をくまなく探るが、黒いものは見当たらない。この銭湯はやたらとレトロだが、不衛生なところは見受けられないし、ゴキブリは無かろう。佳弥は再度お湯に手を伸ばした。その瞬間、水面から黒い帯がするりと伸び、佳弥の腕をつかんだ。何だこれ、と思う間もなく、佳弥は引っ張られてお湯の中に頭から転落した。突然お湯の中に引きずり込まれた佳弥は、天地も分からずにもがいた。熱くて苦しい。膝の高さの水があれば人は溺死できるらしい、と無駄知識が要らないタイミングで蘇ってくる。


「手を引け」


と、誰が誰に言っているのか分からない低い声が聞こえる。


 佳弥は何とか浴槽の床を察知し、がばっと立ち上がった。やっと呼吸ができる。ところが、佳弥が一つ大いに息を吸ったところで、今度は背中を引っ張られて、背面からお湯の中に引き込まれる。


「手を引け」


また声が聞こえて、佳弥は風呂の底から水面を見上げた。黒っぽいものが水蛇のように浮かんで、佳弥を見下ろしている。あいつが犯人か、と考えたが、それよりも息が苦しい。佳弥は勢いよく立ち上がって、激しく息をついた。それと同時に、浴槽を見渡すが、さっき見えた黒蛇は影も形も無い。


 しかし、すぐそばにタオルを頭に乗せてのんびりとジェットバスに揺られる老婦人がいることに佳弥は気付いた。佳弥が二度も溺れかけているのに、我関せずでジェットを腰に当ててくつろいでいる。この老婦人が黒蛇の正体、もしくは、飼い主だとは、とても思えない。あまりに気持ち良さそうに目を閉じているので、佳弥はほんの少し羨ましくなった。


「いやいや、そんなことより、服着たまま風呂に入っちゃだめでしょ。」


腰が温まって少し気持ち良いが、それ以上に、全身濡れて、鼻にも耳にもお湯が入って堪らない。急いで撤退しよう、と踵を返しかけて、佳弥は立ち止まった。お地蔵さんがすぐそばにいる。折角だから、お湯を掛けてから出よう。


 ジェットバスの中に立ったまま、佳弥は両手でお湯を掬った。もしかして、また引っ張られるのかしら、と佳弥が心配になったとき、その予感が的中した。風呂の中の足元を何者かに掬われ、佳弥はみたび浴槽の中に沈んだ。こう何度も立て続けに沈没していれば、少しは慣れる。佳弥は老婦人に触れないように気を付けながら、溺れて沈んだふりをしてじっと水面を見上げた。


「手を引け」


「馬鹿の一つ覚えか、このにょろ蛇めが!」


 ジェットとともにがぼごぼと叫びながら、佳弥は黒蛇に手を伸ばして猛然と立った。スライムを柔らかくしたような感触が手の中に転がり込む。ぜえぜえと肩で息をしながら、佳弥は右手の中を確認した。お手拭きタオルを絞ったようなサイズの黒いものが捕まっている。この間の猫もどきと同じく、重さというものが感じられない。逃げられてはかなわないので、佳弥は力の限りそれを握りしめつつ、空いた左手でお湯を地蔵に掛けた。


「脅されて手を引く私ではない!何の脅しだか、知らんけど。」


 老婦人に聴こえない音量できっぱりと呟いて、佳弥はざぶざぶと浴槽から出た。ゴミ袋に入れておいた荷物を回収して、雫を垂らしながら浴室の外に出る。


 びしょびしょのまま脱衣場を歩くわけにもいかないので、最低限のところをハンドタオルで拭って、佳弥はすたこらと脱衣場を後にした。外に出ると、師走の寒風が容赦なく吹き付けて、満遍なく濡れた体が大層寒い。佳弥はくしゃみをした。


「へっくし、へっくし、ふえっくしっ!」


「あら、佳弥、どうしたの?また転んだの?」


 外で待っていた飛鳥が、全身濡れねずみの佳弥を見て驚いたように声を上げた。


「こいつが、へっくち、邪魔をしてきたんです、へっくち。」


佳弥はくしゃみの合間に、飛鳥に右手に掴んだ黒蛇を差し出した。逃げ出さないように、全力で握ったままである。おかげで、くったりとしてピクリとも動かない。


 飛鳥はたちどころに表情を硬くして、黒蛇を佳弥から受け取った。どこから取り出したのか、真っ黒なアイスピックのようなもので黒蛇をずぶりと貫く。


「佳弥、一度変身し直しなさい。濡れたままだと風邪をひくわよ。」


モズのはやにえさながらに黒蛇を持ったまま、飛鳥は佳弥に言った。その間も、視線は佳弥にはなく、辺りを素早く駆け巡っている。


 佳弥は黒蛇のことは飛鳥に任せて、言われたとおりに変身し直した。すると、便利なもので、変身前に着ていた衣服も、再度表れた黒衣もすっかり乾いていた。ただ、髪の毛だけは乾いてくれないので、びしょびしょで凍える。佳弥はポケットから黒い布を引きずり出し、そのままそれで頭を拭いた。吸水性は全然良くない。


「あの、それは一体何なんですか?」


「まだはっきりとは分からないけれど、多分、マーちゃんのものね。」


マーちゃん、と佳弥は繰り返した。魔、の次はマーちゃんと来たか。


「正式名称はマーラ・ルブラ。平たく言えば、うちの商売敵よ。何でそんなものがしゃしゃり出てきたのかしら。」


 そう言って、飛鳥はふわっと一息に跳んで銭湯の屋根の上に登った。そのままヒョイ、ヒョイ、と何の抵抗もなく煙突のてっぺんまで上がる。追いかけることはできないので、佳弥は地上から遥か上を見上げた。冬の澄んだ星空を背景にして、飛鳥の黒い姿が佇んでいる。何とまあ身軽なことか、と感嘆している佳弥の耳に、細く飛鳥の声が届いた。何を言っているのかは聞き取れないが、誰かと話しているようだ。飛鳥の他に誰かいるのか、と佳弥は目を凝らしたが、暗いのでよく見えない。


 そのうちに、飛鳥が大仰に身振り手振りを交えだした。何かもめているのだろうか。商売敵とか言っていたし。


「何だか知らないけど、頑張れー。」


応援のしようも無くて、佳弥はぼそぼそと口の中で呟いた。飛鳥が対峙しているのが黒蛇の飼い主だというのなら佳弥ももっと心をこめられるが、何分全く相手が見えないので気も乗らない。こんなことなら、幸祐のバネシューズの作り方を聞いておけばよかった。いや、あれは操縦に難があるのか。いっそタケコプターを作った方が良いのか。


 ああでもないこうでもないと考えながら佳弥が上空を見守っていると、飛鳥がこちらを振り向いたように見えた。手でも振ろうかと佳弥が考えたところで、飛鳥が煙突の上から飛び降りる姿が見えた。


「ああ、危ない、んじゃないかな…」


 飛鳥のことだから大丈夫だろうが、佳弥ははらはらしながら目で追う。といって、対処のしようもないのでその場で立ちつくしていると、目の前の道路に飛鳥が降ってきた。長い竿のような棒を両手で持ち、落下の衝撃とともに路面に突き立てる。大きな衝突音がしそうなものだが、音響面ではいたって平和である。耳の奥に障るような、ぐもっとしたこごったような低い音が微かに響く。


 コツ、とヒールを軽快に鳴らして、飛鳥は地上に降り立った。煙突の上から飛び降りたとは思えないほど整然とした佇まいである。


「うちのコに手を出すなって言ったでしょう。喧嘩ならあたしが買うわよ。」


腕を組んで、竿の根元をねめつける。


 すると、竿の根元の辺りから黒い影がぬるぬると立ち上がり、人型を取った。


「その人が我々の仕事を妨害しなければ、私たちもこんな真似はしません。先に手を出されたのは、そちらです。」


さっき風呂場で聞いたのと似たような、低い声が人影から漏れる。


 そんなことを言われても、佳弥はこんな黒い人影さんにはお初にお目にかかります、である。それに、今までこなしてきた仕事だって、ナビゲーターからの指示に従っただけで、佳弥が独自の発想と機転で創作したツボ押しは無い。とんだ濡れ衣ではないか、と佳弥は眉をひそめた。


「人違いじゃないですか。私はあなたなんか知りません。」


「ええ、直接お会いすることはありませんので、そうでしょう。しかし、我々はあなたを知っている。あなたは、有体に申し上げて、仕事の邪魔です。世の中に漠然と影響を及ぼすツボを押すのは勝手になさればよろしいが、同業者の業務を妨害するのはいかがなものでしょう。」


「会ったことも無いあなたの邪魔をした覚えはありません。文句を言われても納得できません。」


「あなたに納得して頂く必要はありません。私たちは、顧客のご要望にお応えするのが仕事です。よって、あなたには速やかに引退して頂くだけです。」


 バイトを始めて三カ月足らずで、辞めろというのか。時給だってまだ上がっていないのに。そんなこと、よその会社の人に言われる筋合いは無い。大体、役に立たないからクビだと言われるならば、佳弥ではなくて幸祐だろう。


 ムッとする佳弥の脇で、飛鳥が竿を引き抜いた。よく見ると、地面に突き刺さっていた部分がとがっているので、竿というよりは大きな針に見えるが、飛鳥の身長と同じような長さがあるから槍とでも言うべきなのだろう。飛鳥はそれを人型の影に向かってブンと振り回した。空気を切る重い音が鳴る。


「この子、真面目で良い子なんだから、辞められたら困るのよ。変なこと言わないで頂戴。あなたの仕事なんて、どうせろくでもないものなんでしょう?これ以上この子に絡むなら、あたしが今すぐにでも相手になるわよ。」


飛鳥はうふふ、と低い声で笑った。


「丁度、最近ストレス溜まってたのよねえ。良い気晴らしになりそうだわ。」


「他人の仕事にケチをつけないで頂きたいものですね。ツボ押しと称して、人の自発的な善行を自分たちの功績のように思いこむあなた方の方がよほど滑稽です。」


 バイトの仕事を馬鹿にされて、佳弥はいささか不快に感じたが、しかし、この人影の言うとおりでもある。ツボなんか押しても押さなくても、実は世の中は何も変わっていなくて、アプリが勝手に結果を捏造しているだけではないか、というのは佳弥が常々感じているところである。ポイ捨てが減ったとか、交通事故が減ったとか、何の根拠もないのだから、言った者勝ちではないか。給料が振り込まれているから、文句は言わないが。


 複雑な思いで口をつぐんだ佳弥に、飛鳥が小声で囁いた。


「ここは何とかしておくから、佳弥は隙を見て逃げて頂戴。話したいことがあるから、後で幸祐クンの家に集合ね。」


何でその場所、と突っ込みたかったが、おとなしく佳弥はこくりと頷いた。


 飛鳥は槍を片手で振り回し、人影に突き付けた。


「さて、準備運動は良いかしら?あたしの相手なんかしたくないんでしょうけど、問答無用で襲い掛かるわよ。」


「さても、乱暴な人ですね。」


人影は、何をするつもりなのか、ぐにゃぐにゃと輪郭を緩ませた。


 隙を見て、逃げる。ならば、今のところは逃げる素振りなんて見せずに、応戦するような構えを見せて油断させた方が良いかな、と佳弥は思案する。ホッカイロでは応戦できないし、ステッキが無いからとりもちも使えない。何か、手ごろな武器っぽい物ってないかしら。


 佳弥は頭を拭くために手にしていた黒い布をキュッとねじって握った。武器っぽいものといったら、これだろう。佳弥は、手の中に出現した細長い黒い棒を軽く振ってみた。見た目は意外とよくできたが、本来の用途に使えるのかどうかは怪しい、まさに、バールのような物。殺人事件だって、自販機泥棒だって、これ一つで賄える便利アイテムだ。


 よし、来い。いや、来るな。佳弥はバールのような物を両手で抱えたまま、人影と飛鳥の挙動を窺った。


 すっと飛鳥が微かに身を低くしたかと思うと、人影に向かって跳躍しながら鋭く槍を突き出した。かわし切れずに、人影の端に槍が刺さる。痛そう、と佳弥は思うが、影だからか血の一滴も出ない。ああ、これならいざというときぶん殴っても平気かも、と佳弥はバールのような物を構えつつ安堵する。


 飛鳥は人影が刺さった槍を両手で持ち直すと、ぐっと人影を槍の先ごと持ち上げた。そして、勢いよく人影を上空へと放り上げる。ぷちぷち、と何かがちぎれるような音がして佳弥が地上を見渡すと、人影からちぎれ落ちたのか、小さな黒いナマコのような物がいくつか転がっている。そのうちの一つが、猛烈な勢いで佳弥に向かって転がってきたので、佳弥は思い切りバールのような物を振り下ろした。


「鉄槌!」


狙い澄ましたバールの先は、見事に黒ナマコに命中した。ナマコは音も無く霧散する。


「やるじゃん、私。」


やって良いのかどうか、よく分からないが、その問題点はとりあえず飛鳥に任せて棚上げしておく。ちらっと視線を向けると、飛鳥の姿は既にそこには無く、放り投げた人影と上空で争っているようだった。銭湯の上だけでは飽き足らず、民家やビルの上を縦横無尽に駆け巡っている。暗闇の中、黒装束が激しく動き回っているので、佳弥の視力では何が行われているのかはっきりと認識できない。飛鳥も、何故か佳弥を敵視する人影も、身軽で結構なことである。もっとも、飛鳥は佳弥が逃げやすいように敢えて戦場を地上遠くに設定したのだろう。


 佳弥は路上に視線を戻し、辺りを見渡した。黒ナマコがいくつか落ちているが、動いているものは少ない。後背の憂いを断つためにも消していった方が良いか、と佳弥は判断し、モグラ叩きさながらに順にバールのような物でぷちゅぷちゅと潰していく。


「さて、足手まといはさっさと撤退した方が、飛鳥さんも戦いやすいよね。」


 そう呟いて、佳弥は一目散に銭湯前から立ち去ろうとした。その足首を、突如地面から湧いて出た黒い紐が掴む。バランスを崩し、反対側の足を出そうとしたが反射神経があと一歩至らず、佳弥は地面に転がった。黒ナマコの残党がいたか、と頭をもたげて足元に目を向けると、ナマコどころかミズタコのように幾本も黒い触手が伸びて佳弥を足元から包み込もうとしていた。


 佳弥はバールのような物を振り下ろしたが、当たった部分が霧消するだけで、全体の膨張は抑えられない。


「物理攻撃がダメなら…」


 佳弥は急いでバールのような物を両手でつくねた。両手を開くと、真っ黒なバリカンのような物が出来上がっている。


「属性・でんきでどうだ!」


佳弥はそれを黒い影に押し当てて、適当なスイッチボタンを押した。即興のスタンガンもどきから、荒々しく電流がほとばしる。黒い影は大きく痙攣するようにのたうつと、バールで打たれた黒ナマコと同じく煙となって消えてしまった。


 佳弥はふうと大きく息を吐きだした。


「スタンガンなんて見たことないけど、頑張ればできるもんだ。」


 手の中のスタンガンもどきを眺める。多分、本物とは見た目からして違うのだろうが、まあ、作動したんだから良しとする。結果オーライ。


 佳弥は立ち上がって、路面をよく観察した。とりあえず、これ以上は黒い影は無い。スタンガンもどきを握りしめ、佳弥はそっとその場を離脱した。足元を確認しながら進んだが、それ以降佳弥に黒い影が絡んでくることはなく、佳弥は無事駅前の広い交差点まで戻ることができた。

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