やねうら書茶房、開店。
都 森
プカプカの不動産屋さん
「そんな物件どこにもありません。」
ええっ、お客さんに最初からそんなこと言っていいんですか、と思わず悦果は拗ねた顔をしてみせた。
「屋根裏部屋付き、というのが一番の優先条件なんですよね?えーっと...、それから、軽飲食での利用、出窓、バルコニー有り、ロフト、フロアは2階必要で...」
「ふぅ... 訂正します。」
「ありません、と言い切るのはよくないですね。こちらとしても、全力でご希望に沿える物件をお探ししたいところです。むしろそれが一番のやりがいですし。」
「でも、このような条件が揃った物件は、心当たりがありません。建てる方が早いかも...」
「建てる...!」
悦果は、それはそれで素敵だと思った。
むしろ、将来的には、自分の理想が全て揃った、自宅兼店舗を建てられるとしたら...! 最高に素敵!
また夢が増えたなあ、と笑みを浮かべた。
「リノベーション」
「リノベーション?」
「はい。風見さんの思い描く店舗に近づけるのに、とても合う方法だと思いますよ。」
「条件全てが揃う軽飲食可の物件は難しいので、素敵な雰囲気にDIYできそうな店舗を探して、風見さん監修で、リフォームしていく、みたいな感じです。」
悦果は、俯いて手で顔を覆い、足を少しバタバタさせた。
そして、座り直して背筋を伸ばし、目を輝かせた。
「中林さん、私、こちらでお世話になりたいです。物件探し、これからよろしくお願いしますね。まだ不動産屋さん当たり始めて一件目ですけど。」
「えっ」
「とりあえず他も当たってみなくていいんですか。私が言うのも何ですが。」
「いいんです。やっぱり素敵な不動産屋さんだった。」
「通りからこちらの建物を眺めたとき、少し古くて趣きのあるこの建物から、プカプカと煙が上がっていたんです。一瞬煙突のある家に見えて。可愛かった。立ち寄ってみてよかった〜」
「可愛い不動産屋さんは、考えることも一味違うんだと思いますよ。リノベーション?なんてホントに」
「それ俺の煙草です」
中林は呆れた顔で、悦果の声を遮るように言った。
「あ、えっと...」
「お客さんが来なくて、店畳みたいと思って吐き出した情けのない煙ですよ。」
悦果はきょとんとしている。
同情の表情を浮かべるでもなく、そんなこと言わせてごめんなさいと申し訳なさそうにするでもなく、ただきょとんとして中林を見つめている。
「私がお客さんのうちは、お店畳まないでくださいね。そして開店したら、中林さんもお客さんとして来てください。約束。」
と、穏やかな笑顔で悦果は言った。
中林は、静かに席を立つと奥のスペースへと消えていった。
3分ほど経って、マグカップを二つ持って帰ってきた。湯気はゆらゆらと天井に向かって優しく上がっていく。
「スペシャルミルクティーです。美味しいですよ。これ飲んで一息ついたら、この建物を案内したいのですが。お時間はありますか。見せたいものがあるんです。」
「はいっ」
やねうら書茶房、開店。 都 森 @miyako_19
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