第百四十八回 その時! 勇気が僕に囁いた。


 ――でも、証拠がない。根拠もない。……ただ、瑞希みずき先生が四十代後半を迎えたとしたら、その一点を想像すると、きっとね、酷似するように思えたのだ。



 つまりは感、直感が働いた、それも女の勘。


 そして何より、何よりも、しかと見ているのだ、ショーケースに飾られている僕と未来みらいさんのバンプラ。そうそう、穴が開くほどしっかりと、――何よりも、そこにある。


 言葉になる。


 今を逃しちゃ駄目だと、そう思ったから、


「それね、僕も作ったの」と、声をかける。「梨花りか?」と、よくあるパターンの、驚いた時の名前の復唱? そんな可奈かなの台詞と続くように、「えっ?」と、疑問形も聞く。


 それは、初めての声。初めて聴く声……。



「僕はね、星野ほしの梨花。――このプラモデルね、川合かわい未来さんと一緒に作ったの。とても楽しかったよ。今コンクールやっててね、このお店に飾らせてもらってるんだよ」


 と、僕は、声をかけたその先を、お話した。……それがどうしたの? 確かにそうかもしれないね、あくまでも僕だけの都合だから。……そうあってほしいとの僕の願望。それが胸いっぱいに膨らんだだけなの。迷惑だったのかな?


 硬い表情。ただ、……瑞希先生に似ている。


 年齢差のため、大人の瑞希先生。……それだけなの。でも、でもね、徐々にだけど、その硬い表情が綻ぶ。『やっぱりそうだったんだ』と、思わせるには十分なことだった。


「……あの子、元気にしてました?」


 敬語に驚く、中学生の僕に対して。でも、初対面だから。無茶ぶりもあったから仕方ないよね? そう誰に言うのでもなく、自分に言って聞かせつつも、


「とても元気でしたよ。僕たちね、これから未来さんに会いに、この近くの喫茶店に行きますが、一緒にどうですか? 未来さん、きっと喜ぶと思いますよ」



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