第百三十三回 キスの三倍? それとも三乗?


 ――そんなことしちゃ駄目だよ、風邪うつっちゃうよ。



 チュウ、キス、接吻……と、可奈の口づけはバージョンアップする。多分……だけど一回目の三倍と思われる。三乗までは、まだまだ至らずに、今日を迎えている。


 これまでよりも……長いタイム。


 可奈かなは、まるで僕の口の中を味わっているようにも思える。ホイップのクリームみたいに溶けていくような感覚を覚えた。……何だかね、胸がキュンキュンするの。


 自分のものとは思えない甘い声、

 きっと、……きっとね、僕の女の子の声が漏れた時だ。――閉じていたはずの襖、


 その襖、お部屋の襖が、物申す勢いで開かれた。



「――ずる~い! 何二人の世界を満喫してるの?」


 と、一片の曇りもなくハッキリ響く千佳ちかの声、……ポンッ! という画面の字幕と効果音が似合いそうな感じで、可奈は僕の唇から唇を離した。……で、顔を赤らながらも目を泳がせながらも、すぐさま「千佳も来てくれたのね、梨花りかのお見舞いに」と、気まずさ満載での、わざとらしい笑顔と口調。……まあ、それはそれは僕も似たようなもので、胸のキュンキュンが止まらない。もしかして物足りない……とか? そんなに、そんなにまでして、可奈のことが……と、思い始めるその途上で、


「ち、千佳、ありがと」

 と、僕も変……やだっ、吐息交じりになっている。


「梨花、顔真っ赤だよ、それに何か……色っぽいし」

 と、ストレート極まりない千佳の言葉。千佳らしいといえば千佳らしい。良き解釈をするのなら、千佳は千佳なりに、僕の体を心配してくれている。……それが証拠に、


「まだ寝てなきゃ駄目だよ、しんどかったら明日も休んでいいって瑞希みずき先生が言っていたからね。可奈は僕が連れて帰るから、……もう変なことさせないから、安心してね」



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