第九十八回 決めるよ、ハイタッチ!


 ……そうだね。よく考えたら、


 呆気なく終わっちゃったの、始業式。――と、思いながらも、生徒たちは各々の教室へと身を委ね、あとはノリで、HRホームルームと称した担任の先生のお話を、形だけでも聞く。


 僕も、その中に含まれる。


 右から左へ……と、なりそうなのに、

 クスッ、クスクス、との音声が、教室にあふれる。実に面白いのだ。



 ――教壇に立ち、またはBBブラックボードの前に立つ瑞希みずき先生。


 多分、他のクラスにはないユニークな内容……いやいやいや、内容は同じと思う。違っていたら大変なことだ。それが証拠に、ちゃっかりと? 夏休みの宿題を回収する。


 それは、それはクラス委員長の役目。


 二人いる。一人は男子で黒縁眼鏡の真面目っ子と、よくあるパターンだけど、もう一人は女子で、……当然のように僕ではない。けれども可奈かななのだ。で、回収の際、ニンマリとして席の横に立ち、


梨花りか、わたしと一緒に理科がんばろうね。二学期の課題だよ」と、可奈は言う。


「う、うん……」と、タジタジ。こ、怖い。その笑顔の裏側に、きっと何かある。



 まあ、そんな具合だったの。


 新学期=二学期、今日はその始業式というそんな構図。……夏休み終盤あたりで感じた重圧感というのか、時たま過る怪談にも似たあの凍えというのか、いつの間にか通過していて、この状況に溶け込んでいる。――思ったよりも、楽しい始業式だった。


 そのことを胸に秘め、僕は行く。


 学園の正門辺り、可奈も一緒に約束のため。レッドの車待つ、傍らに未来みらいさん。


「ここからは共同戦線だ、梨花ちゃん」「臨むところだよ、未来さん」


 ――響く効果音! かっこよく決めたよ、ハイタッチ!



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