第九十九回 それは必殺技の一つ、遊び心は満載!


 ――車窓から見える、また下校時の電車とは異なる、流れるプールのような景色に心躍る。独特な走りのレッドな車は、嘸かし取り巻く周囲の色とマッチしているだろう。



 だからといって、ここは海辺ではない。


 ブルーとは青色、昔の人は……もしかしたら現代でも、青のことを緑と言う人がいるかもしれない。なら、緑の中を走る真っ赤なポルシェ擬き。……フムフム、何か違う。


「ねえねえ梨花りか、もうすぐ到着だね」

 後部座席、僕の隣には可奈かながいる。「うん、そうだね」と相槌。


「何冷めてんの? クールなつもり?」と、カクカクと両肩を持って、僕を揺らす。

 そしてシカジカと「そんなの梨花に似合わな~い。千佳ちかを元気づけるんでしょ?」


「わ、わかったから、揺らすのやめて!」


「じゃあスマイルスマイル、ぶん殴るよりマシでしょ?」

 と、スマイルな可奈。「どっちもやだ」と、僕は言う。



 そーこーしているうちに、


「着いたよ」と一声、未来みらいさん。その一瞬の後、――バリ、バリバリンと響くバイオリンではなくマフラー音。下車すぐその模様、「これって二百五十?」の質問に対し「百二十五CCだよ」と答えるバイクに跨る女性。緑のヘルメットと同色の、二つの膨らむ胸の谷間に輝くタイガー。丸みを帯びた……黒いフォルム。ブラウンのブーツ。


 まあ、ぽっちゃりとした体型はともかく、


 昆虫色の輝くバイクマシーンに免じて、敢えて特撮のヒーローみたいな……あ、女性だからヒロインかな? 九十九の必殺技の一つ! と唱え、繰り出しそうな……あ、そうそう、


 ――ライダーだ。と、思いきや、ヘルメットを脱いだ。


「ミズッチ、飛ばして来たな?」と、下車する未来さん。もうここは病院の駐車場。


「あはっ、ちょっとよ、ちょっと、近道込みで……」って、どう見てもバレバレだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る