第九十回 お話するだけで、問題の半分は解決するよ。


 ――だから千佳ちかさん、


「ちょっと拙いお話だけど、つきあってくれるかな?」

 と、瑞希みずき先生は言う。


 ……さっきの左手首の傷跡、その過去をも帳消しにするような、それでいて力強く前向きな、だけれどイオン効果あふれる穏やかな表情。そしてまだ涙の雫を残している顔だけど、その表情に生き生きと表現力が浮かぶ千佳は、コクリと頷いた。



 お話は開始される。


 瑞希先生は、お話の中でも一方的な会話になっているのを気にしている様子だけど、千佳はいつもこの通りで、今のところ会話が成り立つのは可奈かなの時だけだった。



「わたしね、母子家庭だったの。ママ……もとい『お母さん』の帰りも毎日遅くて。クラスでは、いじめられっ子だった。……小学六年生の時だった。無二の親友といえるくらい仲のいいお友達に絶交されたの。わたしと一緒にいじめられるのが嫌だったのね、離れちゃって一人ぼっち。いじめもエスカレートして……」

 と、


 それでも懸命に、お話を続ける瑞希先生だったけど、


「もういい!」


 えっ? と思うくらい、千佳の初めて聞くような大きな声がこだまし、

 さらに続けて、


「……僕、先生の思ってる通り、いじめられっ子でした。小学四年生になってから毎日毎日……。中学生になって最初の二か月だけでした、学校へ行ったの。……性的な、乱暴されました。二学期からは、もう前の学校とは違うとわかっていても、日に日に怖くて仕方がなくて……でも、そんな中、梨花りかと可奈が、とても仲良くしてくれて……でも、曇天返しがあるんじゃないかと思ってしまって、もうわけがわからなくなって……」



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