第八十九回 でも、僕の気持ちなんか誰にもわからないよ。


 声低く、声小さくポツリ、千佳ちかは言う。千佳も僕と同じボクッ娘。


 少し落ち着いて、

 号泣だったのが、グスッ……と、なってきた頃だ。


 堪らなく腹が立ってきた。――千佳のその言葉に。


 ぎゅっとしていた千佳の体から離れて、また千佳のこと思いっ切り、

 引っ叩きそうになった、その時!



 ――「千佳さん、わたしも今、

 梨花りかさんと同じ気持ちになったよ!」



 との言葉に続き、「ミズッチ?」「瑞希みずき先生?」と振り向いて、その名を声にする。

 未来みらいさん、僕の順で、そう声にした。


 可奈かなは俯いたまま、……千佳を発見した時のショックが大きかったようだ。無理もないとの思いで、キムさんは無言に徹し、可奈のことを見守っているようだ。


 四人部屋とはいえ、個々にカーテンで仕切られた空間。

 ベージュのような白い風景、千佳のいるベッドを五人が囲む。もし此処に看護師や主治医……もしかして千佳のお母さんが来られたら、嘸かし驚くことだろう。



 その状況を呑み込んだ上で、なのだろうか?

 瑞希先生は続ける。お話を……。表情は穏やか。口調も穏やか。


「本当に残念だけど、こんなことになるくらい苦しいってこと、あなたが言ってくれなきゃ、わかってあげたくても、誰もわかってあげられない。……それって、とっても悲しいことだよね? わたしも同じ。あなたと同じことしていたから」


――その言葉の後、千佳の目はパッチリと、凝視する。僕も可奈もキムさんも! とっても深い傷、リストカットの傷……一生残るだろう傷跡が、瑞希先生の左の手首にあった。



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