第152話・内心だけ騒がしく出立開始です




 この世界を遥か天より御見守り下さっておられる創造神たる双子女神の方御柱であらせられる闇女神様。

 多分、一応、私に加護を与え【愛し子】として御見守り下さっている御方。

 伝えたい仕儀が御座いますが、言葉が乱れる事をお許しください。

 ――わたくし、貴女様に何かしましたかね!?


「<これは、あれかな? 私が実は多神教で神様かぁ? と斜に構えていたのが原因だったりするのかな!?>」

「<落ち着け! いや、表面はニッコリ笑ってメッチャ落ち着いてるけど、外面に合わせて内心も落ち着けろや!>」

「<貴族として猫かぶりが完璧なら問題無しだよね!>」

「<問題だらけだっての! 落ち着かねーと何時かボロでるぞ、オマエ! その方がぜってー面倒な事になんぞ!?>」


 私は今【念話】でクロイツと賑やかに喚き倒している心中を欠片も出さないように全力を投入しながら、目の前の光景……より正確に言うと、あるコンビの登場に全身全霊でテンパっていた。





 此度の外遊は王位継承権を持っている殿下二人と公爵家の次期当主お兄様と一人娘である私という早々たるメンバーである。

 本来ならパレードでも開けそうな人数の護衛とお見送りがあってもおかしくはない。

 けれど、何でか今回、少人数の王家直属の近衛と民間の高位ランクの冒険者という御忍びスタイルでの外遊だった。

 どう考えてもおかしいと思うんだけど、それで通ってしまっている以上、子供に口だしなんぞ出来ないのである。

 ますます今回の私達の帝国への外遊は裏を匂わせるけど、まぁ子供は大人しく知らないふりをしておくべきなんだろうね。


「(案外、私とお兄様は護衛を兼任しているのかな?)」


 襲撃事件を退けた事を実績と見るならば、だけど。

 ……いや、お父様は全うな親バカとしてそんな事は許さないだろうし、国王は子供をそういった事に使う事は厭いそうだ。

 ってな訳で私達はまるっと護衛対象と言う事になるはずだ。


「(と、なると我がラーズシュタイン家の護衛が居ないのは……最近までの派閥の関係かな?)」


 一応私兵ともいえる護衛の中にはかの老人の手先は混ざっていなかったようだけど、これを機会に再度選考したりするのかも。

 後は近衛の皆さまの実力を信じているってな感じかな?


「(ただねー。私の勝手なイメージで悪いんだけど、近衛って国王や国に忠誠を誓っているからこそ場合によっては私達は勿論の事、殿下達ですら守護の対象外になる、って感じなんだけど)」


 まさか帝国の国境に入った途端、お別れって訳じゃあるまいし。

 国王の命だからいいのかね?

 此処までくるときな臭いというよりも焦げ臭い気がする。

 

 兄殿下も色々裏を疑っているらしくて、合流して直ぐに苦笑を浮かべながら情報の共有を図る事に。

 結局、お互い父親には「外の世界も見てこい。気晴らしも兼ねてな」としか言われなかったという何とも言えない結果となったけど。


「(こういう時独自の情報網がまだ構築されていないのは痛いなぁ。まぁ裏社会ならルビーン達が。王宮内の噂話程度ならリアが担ってくれるけど)」


 情報も一つの武器となると知っている以上、ある程度の情報を集められるだけの情報網が欲しいと思わなくもない。

 ただ一公爵令嬢にそこまでの情報網が必要なのかな? という懸念はなくもないんだよね。

 私は平穏は望んでいるけど、別に王家に敵意があるわけでも隔意がある訳でも無いのだから、そこらへんは程度を見極めないといけない部分だと思ってる。

 兄殿下も自身の情報収集能力がイマイチな事には気づいているらしく、苦笑の裏に少々の焦燥感が見えた。


「(ただ、多分だけど、殿下達は今後独自に情報部をつくりだすか王家直属の情報部を受け継ぐ事でそこら辺を解消する事になると思うけど)」


 ま、そこら辺は一介の貴族令嬢は知らずともよく、考えなくても良い事だ。

 藪をつついて蛇を出す気は更々ない。

 ちなみに弟殿下は色々きな臭い事は分かっているらしいけど、大っぴらに兄に懐く事を許された反動か少しばかり浮かれているご様子だった。

 我が家に突撃訪問されてからお逢いするのは初めてだが、どうやらある程度は吹っ切れたらしい。

 良き事である。

 母君の事に関して言えば、血のつながりは侮れないし、今後ゆっくりとご自分の中で昇華されればよいのだから。

 私に出来る事は無い。……ただでさえ私と元王妃様は被害者と加害者って関係性だし、むしろ口出し無用だろう。





 とまぁ、其処までは普通とは言えないけど、何事もない感じだった。

 近衛の一人が襲撃事件で私達を庇ってくれた人だったのでその時お礼を言ったりとか、些細な事はあったけど、取りあえず大きな問題はなく出立出来ると安堵したその時。

 民間の護衛としてやってきた冒険者コンビを見て私とクロイツは驚愕したのである。


 私達四人の前で跪いている真紅の頭と紺碧色の頭に私達の思考は完全に停止していた。


「冒険者ランクAのタンネルブルクと申します」

「同じく冒険者ランクAを頂いておりますビルーケリッシュと申します。此度は尊き方の護衛の任を頂き大変光栄な事に御座います」

「全身全霊を持って任務を遂行致したいと思います。宜しくお願い致します」


 頭を垂れ口上を上げるタンネルブルクさんとビルーケリッシュさんに私は久々に気絶したい気分になる。


「<二人とも丁寧な口調なんて出来たんですねぇ。いや、元々ビルーケリッシュさんは敬語だったけど、まさかタンネルブルクさんからこんな丁寧語が聞ける日が来るとは>」

「<現実逃避すんな! 気持ちはすげー分かるが! オレだって思ったけど! リーノは初対面設定だろーが!!>」

「<そーだけど! 何で!? どうして!? 神様私何かしましたかぁぁ!!!>」


 と、まぁこうして冒頭のテンパりながらの【念話】に繋がるのである。





 真紅の髪にアクアマリンを身に纏う、陽気でそれでいて一筋縄でいかない雰囲気を持つ曲者であるタンネルブルクさん。

 紺碧の髪にヴァータイトを身に纏う、冷静でいて洞察力に長けた参謀タイプであろうビルーケリッシュさん。

 二人とも何処の領地でも、下手すれば他の国ですら名が知られている有名な冒険者である。

 勿論二つ名もある実力者で、正直後で調べて気絶しそうになった。

 確かにラーズシュタイン領は良い処だと思ってる。

 お父様が色々なモノと綱渡りしつつも納めているお父様の子供として胸を張って自慢できる領地だ。

 後々はお兄様が継ぎ、更に発展してくとも思っている。

 けど、王都ではなく、まさか一領地を拠点にしているとは考えてもしないでしょう!?


「(どーりで、弟子扱いされた途端に有望株とかいうとの同時に妬みとか受ける訳だよね! 気持ちはすっごい分かるよ!)」


 しかも二人とも弟子、というか懇意の人間なんてあまり作らず、親しい相手は皆実力者揃いとなれば「キース」の注目度が上がりまくるわけである。

 クロイツには「八つ当たり」だとか言われたけど、注目度が無駄に上がったのは二人のせいだという私の主張は間違ってないと思ってる。


「<ってかさ、この人達って護衛任務とか殆どしないって話じゃなかったっけ?>」

「<あー。カッタルイとか、貴族サマの依頼も断ったって言っていたよな?>」

「<だよねぇ?>」


 幾ら何でも王族の依頼は断れなかったのだろうか?

 けどなぁ、正直此処まで有名だと王族の依頼でも断る気があるなら断るきがするんだよね。

 王国に居ずらくても帝国に拠点を移せばいい話だし。

 下手すると居ずらくなるような方法じゃなくとも断れてしまいそうである。

 そう、穿ってしまうのは、私が二人を曲者として警戒しているせいだろうか?

 内心何とも言えない気分で眺めている間にも自己紹介が終わり、私に回ってきてしまう。

 ここで自己紹介しないのも印象に残るので出来ない――我が儘お嬢様の演技中なら出来るけど、今だけ我が儘の猫被ってもいいかな?

 

「(それが出来たらしてるよね? って話だよねぇ。いや、ほんとうに勘弁してよ)――ラーズシュタイン家のキースダーリエと申しますわ。短い間となりますが、宜しくお願いいたしますわね?」


 あえて、ニッコリと何時もより猫かぶりをして自己紹介をする。

 ……タンネルブルクさんの眉が一瞬訝し気に寄せられたのは多分気のせいです!

 ビルーケリッシュさんの目が観察するように細くなったのなんて見てません!

 全部気のせいです!!


 こうして私にとっては何とも安心できない帝国への外遊が始まりを告げるのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る