第143話・波乱塗れの初クエスト(2)




 【ヒカリ草】の生息地は案外簡単に見つかった。

 其処に行くまでに出て来たモンスターも別に強いという訳じゃなく、どうやらここら辺一体は初心者でも対処できるレベル帯らしい。

 

「(王都……っていうよりも学園近くのモンスター分布図は何となく記憶にあるけど、他はなぁ。後、帝国に行くルートがあったからそれくらいしか分かんないしなぁ)」


 それだって時代が違えば変わるだろうし、どこまで役に立つか分かったもんじゃないわけだけど。

 モンスターの強さとかって多分冒険者個人の財産って扱いになるだろうし。……知識って面でね。

 

「(ルビーン達に聞くっていう選択肢もあったんだけどさぁ)」


 タンネルブルクさん達が居る場所で何処まで普段と同じ対応をしていいもんだか悩む所だ。

 それにまぁここら辺は今後来る事があるだろうからある程度自身の目で見ておく事は悪い事じゃないだろうし。

 という事で私はそれなりの時間をかけて周囲を探索し【ヒカリ草】が生えそうな場所を見つける事が出来ました。

 その間にもタンネルブルクさんの説得というか、師弟関係を回避するために色々お話合いをしたんだけど、まぁ意見曲げない人って厄介だと実感させられる結果となりまして、実に無念です。

 ん? 私も意見を曲げない人じゃないかって? ――余計なお世話ってやつですよ、と言っておきますね。

 とまぁ結局、ここに至るまでにタンネルブルクさんの意見を変える事は出来ず、ビルーケリッシュさんは援護してくれなく、このままなし崩しに師弟関係に収まりそうな予感がしている今日この頃です。

 そんな私の悲しみはともかく【ヒカリ草】の群生地はその草の特性故か、結構居心地のよい場所です。


「<ピクニックとかに向いてそうな所だよね、ここ>」

「<モンスターが出なきゃな>」

「<そこが最大の問題かなぁ?>」


 此処に来るまでにそれなりの数のモンスターと遭遇した。

 強さはそれ程じゃなくとも、それは戦う術を持っている人間だからこそだし、戦う事を生業としていない人間が此処に来る事は難しいだろう。

 貴族らしく護衛を引き連れて、と言う事も出来ない事もないけど……態々危険な場所で行楽気分を楽しめる程神経図太くないんだよね。

 御昼寝をしたら嘸かし気持ちよさそうな場所だっていうのに残念である。


「さて、と」


 【ヒカリ草】は採取に特別な道具を必要としない。

 根っこを残して抜いても特性は落ちないから初心者向きと言えば初心者向きである。

 採取しても淡く光る白い花は多分鑑賞用としても人気がありそうだ。


「確か【ヒカリ草】は根っこを残しておけば再び芽吹くから、無理に根っこから引っこ抜かなくても良かったはず」

「嬢ちゃん、誰からも師事を受けてないわりに詳しいな」

「……本で読みましたから」


 いやまぁ、この発言もギリギリかもしれないけど。

 私ぐらいの年齢の子供が冒険者になる場合、ほぼ身寄りがない。

 誰かの庇護下にある場合、無理に冒険者にならずとも生きていけるからだ。

 まぁ好奇心旺盛だとか、いろんな理由で保護者がいても冒険者になる子供はいるけど、数は多くないと思う。

 そういった子供にとって参考書は結構高価でそう簡単には手に入らない。


「(平民は『図書館』のような場所にも身元証明しないと入れないしなぁ)」


 あ、ちなみにこの世界にも『図書館』のような色々な人が本を読む事が出来る、本を集めた場所は存在する。

 ただし無料で誰にも貸し出しが可能、と言った感じではなく、それなりの制約の下図書館内での読書が許される、という形式だ。

 持ち出しは平民ならほぼ無理である。

 なくした場合の弁賞金額を考えれば持ち出す気もうせるというモノだ。

 

「(学園内にもあったよなぁ図書室)」


 学園内の場合基本的に参考書と【レシピ】が置いてあり、ヒロインのレベルが上がると「読めるようになりました」的なテロップと共に新しい魔法やレシピを読める仕様だった。

 初期のお金のない頃は随分とお世話になったもんである。


「(後半になっても案外強力な魔法を習得できるようになったり、課題に必要なレシピが読めるようになったり、結局最後まで図書室に通う事になるんだよね)」


 確か攻略キャラの中にも図書室に入り浸っているキャラが居たはず……あー『アールホルン』だった気がする。

 『アールホルン』の場合出逢いが図書室だっただけかもしれないけど。


 と、話がずれた。

 身元が定かじゃない子供は図書館に入る事も出来ず、錬金術師の参考書なんぞ目を通す事は「普通」できないのだ。

 とは言え、全く出来ない訳でもないから押し通す事は出来る範囲だけど。


「(それにしても、試すって形じゃなくとも、こうやって行き成り聞いてくるなんだから油断ならないんだよなぁ)」


 こういった駆け引きめいた会話は疲れるしあまりしたくないんだけど。

 師弟関係になると、これが常になりそうなのも、彼との師弟関係が嫌な理由の一つだったりします。


「【ヒカリ草】の場合、観賞用って事でクエストが時々出てるな。プレゼントとしても人気らしい」

「まぁ淡く光る白い花ですから、見て楽しむ事も出来そうですしね」

「そんな所だろうな。だからこそかもしれないが、出来るだけ根っこは残して取る事が推奨されてる」

「あー、根っこにはそこまでスゴイ効能がある訳じゃないので、根こそぎ取る必要性があまりない、というのも要因にあると思います」

「そうなのか?」


 不思議そうなタンネルブルクさんに私は「(この人は錬金術に関してはほぼ素人なんだ)」とあたりをつける。

 まぁ錬金術ギルドにも今回が初めて行ったみたいだったから、そうじゃないかとは思ってたけど。

 見るからに戦闘職、というか前衛職っぽいし。

 相棒以外とつるむ事も殆ど無いとなれば錬金術師と関わる事事態少なさそうだ。


「(そもそも錬金術師は研究職であって前衛で戦うタイプじゃないし)」


 基本的には自衛程度の戦闘力を持っていれば残りはパーティーメンバーが補ってくれるのだ。

 錬金術師の真価は戦闘時ではなく、それ以外の時分かるモノなのだ。


「(ただ好奇心旺盛な人が多いからか、ダンジョンとかでも未知なる材料を求めてほいほい中に入っていっちゃう、パーティー泣かせな所があるからなぁ)」


 錬金術師だろうとそれなりに戦えた方が良いのかもしれない、とは思う。

 ま、一人でどこでも行けてしまう錬金術師なんて何時放浪の旅にでちゃうか分からないから、周囲の人間泣かせになりそうだけど。

 そう考えればそこまで鍛えあげるのも問題あるのかもしれない。

 『わたし』の場合『ヒロイン』の戦闘能力もそれなりに上げていたから、「材料が足りない」→「じゃあちょっと行ってくる」のコンボで一人で採取地とかによく行ってた。

 私がそんな事したら色々な人にお叱りを受けそうだけど、ね。


「勿論レシピによっては必要な事もありますけど、基本的には根っこをのこしておいても問題ないと思います」

「ふーん。まぁこの規模の群生地はあまり見かけないし、全滅するほど取る奴がいなきゃいいんだろうけどな」

「そこらへんは冒険者の方々のマナーと錬金術師の方々の好奇心に対する自制心に聞いてください」

「尤もだな」


 私は肩を竦めると【ヒカリ草】を収納し、安堵の息をつく。

 とりあえずクエストは無事完了である。

 帰るまでが遠足、とはいえ【ヒカリ草】を求めて奥まで入るのは出来れば勘弁してほしかったので一安心である。

 後はココで少し休んだ後に、錬金術ギルドに行って【ヒカリ草】を提出するだけである。――本当に、それだけで済ませたかったんだけどねぇ。


「<クロイツ、やっぱり“いる”?>」

「<いるな>」

「<だよねぇ>」


 実はこの森に入ってからしばらくした後くらいからか、私達は誰かに付けられていた。

 方向が同じとか、【ヒカリ草】目的の横取りとかじゃなく、多分目的は「私達」だという存在によって。

 はっきり言って気配の消し方がお粗末すぎてすぐに気づいたわけだけど。

 ターゲットが誰なのかも分からず、最終目的が何なのかも分からないので放置、していたという訳である。


「<まータンネルブルクさん達がターゲットだった場合、もっと強い人間が差し向けられると思うんだけどさぁ>」

「<オレ等に気配を悟らせる程度にはお粗末な輩だしなぁ>」

「<そーなんだよね>」


 ルビーン達に対しても同じ事が言える。

 二人もB級である以上腕は立つのだ。

 更に言えば、二人の本来の職業は暗殺者である。

 そんなルビーン達をどうこうするならもっと強者を連れてくるべきである。

 じゃないと簡単に返り討ちの上、依頼者が居れば依頼者まで狩られる未来しかやってこない。

 大変物騒なので、勘弁してほしい展開である。


「<と、なるとターゲットはオマエって事になるな>」

「<つまり……早すぎる報復行為って事になるんだろーね、きっと>」


 早過ぎである。

 囮になるまでもないとは一体どういう事なんだろうか?

 あまりにあんまりなせいで今まで泳がせていた、んだけど、結局わざと気配を出していた、訳でもないらしい事がわかりがっくりである。


「<えぇ。色々突っ込みたいんだけど>」

「<アレなら“フェルシュルグ”の方がよっぽど強いんじゃねーか?>」

「<いやまぁそうだけど、アンタが言う事じゃないよね、それ>」


 変則的な自画自賛ですか、クロイツ君や。

 言っている事は間違ってないけどさぁ。


「<思わずそんな戯言を言いたくなるレベルって事だ>」


 ……もう何も言うまい。

 クロイツと脱力しそうな会話をしつつ私はルビーン達に視線を送る。

 勿論ルビーン達も気配には気づいていたし、私の意図にも気が付いていたからか、特に慌てる事も無く、私から少し離れた。

 簡単に言えば隙を作る様に指示したわけだけど、タンネルブルクさん達も気づいたらしい。

 ビルーケリッシュさんが少しばかり何か言いたそうだったけど、タンネルブルクさんに肩を叩かれて、溜息を付きながら少し離れてくれた。

 ちなみに、タンネルブルクさんは思い切り笑顔でしたけど何か?

 信頼されてるのか何なのか……いや、こんな短期間で信頼も何もあったもんじゃないか。

 物凄く良く考えれば、この程度の距離なら私を助ける事は可能だと思っている、って事になるけど。

 

「(まぁ実際の所「死なない程度なら怪我しても経験」と考えている可能性の方が高いんだろうけど)」


 師匠を名乗っている割には何とも雑な事である。……スパルタと考えればいいのかもしれないけど微妙な線である。


 とまぁ取り敢えず誘い込みの陣形は完了したけど、こんなあからさまなモノに引っかかるだろうか? という疑念はちょっとある。

 力量差はともかく、おつむの方はどれだけだか分からないし――あんな場所で自分の悪事を暴露して、それに気づいていない所、頭も残念だと思わなくも無いけど、ね。

 今回、結構分かりやすく隙を作った事に警戒心を抱くかもしれない、とは思っていた。

 そうなれば少々面倒な事になる……と思ったんだけどねぇ?


「(何の躊躇いも無く気配が近づいてくるって……何処までも残念な)」


 良くこれで今まで冒険者をしていられたモンだ。

 駆けだし時代、誰の師事も受けなかったのだろうか?

 後、悪事を働く時、よく今までバレなかったモンだ、とも思う。

 駆け引きとか謀とか出来なさそうだし。


「(優秀なブレインでもいたのかな?)」


 あの程度の男に付き従う優秀な人材がいるとも思えないけど。

 なんて、散々な事を考えつつ一応風の精霊に飛び道具が跳ね返すように頼み、無防備なフリをする。

 片手は影に手を添えているし、刀を取り出し迎撃する体制は整えてある。

 後は、攻撃をしかけられるのを待つばかりである。


「(これでモンスターの如く出てきたらずっこけそうだけど)」


 そうじゃない事を願うばかりである。……そんなしまらない出だしはゴメンである。

 そんな私の細やかな願いは半分だけかなえられた、ような気がする。


「死ね!」


 怒声と共に無数の矢が私に降り注ぐ。……まぁ風の精霊によって全部蹴散らされた訳だけど。

 モンスターの如く出てこなかったけど、一応、気づかれていない事前提に矢を放つなら一言は心に秘めるべきである。

 気づかれても反応出来ないと高を括っていたんだろうけど、どうやらおつむの方も相当残念らしい、という事実に内心ため息を隠せなかった。


「(まぁ反応出来ないスピードでも無かったんだけどね)」


 刀で全部蹴散らす事も出来たと思う。

 こっちの方が確実だからやらなかっただろうけど。

 驚く気配を他所に私は悠然と立ち上がり矢が飛んできた方を見据えると乱入者と対峙した。

 気配がダダ漏れで萎えそうな気力をなんとか奮い立たせる。


「(油断大敵、油断大敵)」


 何度も自分に言い聞かせないとメンドクサイという意識だけが先立ち脱力してしまいそうである。

 それにしても相手さん方が動揺しまくりで一体どうすればいいんだろうか?


「(フェルシュルグも襲撃者達も、戦闘能力という意味では上位だったし、意識の面でも此方を殺そうとする確固たる意志を抱いていた)」


 それに比べて今回は「死ね」と掛け声をかけながらも本気で殺そうとしてきたとは決して思えないていたらく。

 はっきり言っていろんな面で三流としか言いようがない。


「(それでもまぁ私が本当に駆け出し冒険者で対人戦闘に関しての戸惑いがあるなら危険だったかもしれないけど)」


 その面での覚悟なんてとっくに決まっている以上、この程度の相手、としか思えない。

 油断に繋がろうが、緊張を持ち続ける事は難しいと判断してしまう。


「(これから起こりうるであろう戦闘に支障がでなきゃいいけど)」


 そこらへんは相手の出方次第だろうか? なんて思いつつ私は相手の出方を辛抱強く待つ事になってしまったのである。

 影から出した刀を構え撃撃を体勢を取り待っていると、ようやく動揺から抜け出したのか、男達がぞろぞろと現れる。


「(人数は四、いや五人かな? ――あれ?)」


 最後に出て来た存在に私も流石に驚きの声を上げそうになった。

 男達の後に出て来たのは、錬金術ギルドの受付……今回のクエストを受けさせられた件に関しての首謀者である女性だったのだ。

 流石の人間の登場にタンネルブルクさん達も驚いていた。

 それも仕方ないと思う。

 だって明らかに接点がなさそうだったし。

 それに彼女はどちらかと言えば山賊男達を見下しそうである。

 実際、今だって喜んで一緒に居るようには見受けられない。


「(ただし、人質って感じもしないけど)」


 共に居るけれど仲間じゃなくて協力者、とでも言えばいいんだろうか?

 女性は男達を見下し使役している気でいる。

 男達は女性を見下しながらも何かをしてやっている気でいる。

 お互いがお互いを見下し利用しているのが傍から見てバレバレである。

 よくここに来るまでに関係が破綻しなかったもんだと変に感心してしまいそうな程ちぐはぐさが目立っていた。


「(共通の敵を倒すまで、って奴かな?)」


 この場合共通の敵はイコールで私な訳だけど。

 何とも呆れた話である。

 呆れたといった空気を隠さないでいると男達はいきり立ったが、女は私を鼻で笑い優位に立とうとしていた。


「(この状態で優位に立てると思えるその能天気さにも呆れるんだけどねぇ)」

 

 私は今回の顛末を思い浮かべて思い切りため息をつく。

 男達が怒り心頭になろうが、女の笑顔が引き攣ろうが関係ない。

 どう頑張ろうとも男達と女の思い描いた未来は来ないのだからやりたいだけやらせておけ、と投げやりな気分になってしまう。

 最低限の警戒心は残してあるけれど、それだけの話だ。

 まぁこの態度が更に相手を煽ることになるとは思うんだけどね。


「一応聞いておきますけど、元々の知り合いなんですか?」


 心底、面倒と言った様子を隠さず聞くと、必死に自己を立て直した女が私を鼻で笑った。

 いやまぁそれでも口元が引き攣ってるから結構台無しだと思うけど。


「そんなはずないでしょう? こんな男達と元からの知り合いだなんてありえないわ」

「んだとぉ?」

「あら、そうでしょう? アンタ方の方からあの小娘に借りがあるとか言って話を持ち掛けて来たんじゃない。私は結果を待つつもりだったのに、こんな所にまで連れてこられるし、たまったもんじゃないわ」

「おいおい。お前さんがあのガキの傍にツラの良い男達が居るのが気に入らないと喚いていたから声をかけてやったんだろうが。男達の目を覚まさせやると言って付いてきたのもアンタだろう?」

「このままだと小娘の被害者である彼等にも暴力をふるいそうだったからよ。私がどうにかして欲しいのは小娘であって、彼等は小娘に付きまとわれて迷惑している被害者なんだから」


 三流悪役らしく全部暴露してくれるのは手っ取り早くて有難いんですが。

 男達の逆恨みもさることながら、女の方は妄想癖が凄くないですかね?

 一体彼女の中での私は幾つなんでしょうか?

 それとも私はこの年で男を手玉に取る悪女扱いですか?

 宮廷で囀っていた方々でさえあり得ない事を前提に囀る事が出来れば満足と言った感じでの話題だったってのに。

 彼女は本気でそう考えてるみたいなんですけど。


「<えぇ。何なの? この痛い女>」

「<妄想ひどすぎるだろ>」


 タンネルブルクさん達もドン引きしてるし、ルビーン達はもはや妄想女を同じ人類として見てないよ。

 けど、そう言えば『前』に言いがかりつけてきた女の子もこんな感じだったよな?


「(もう『わたし』も高校生だったし、この女よりは年齢的には問題無いけど……あん時も見当違いの事で散々責められたっけ)」


 ただ私がその後その女の子とは別に特大の痛い女に絡まれたからか、我に返った彼女には丁寧な謝罪を貰ったんだけどね。

 『アレと一緒にされるのは死んでもいやだから。ごめんなさい』とか言われたんだよなぁ。

 謝罪の理由としては酷い理由だったけど、うん、まぁ気持ちは分かったから謝罪を受け入れたんだけどね。

 理由に思わず共感したくなるぐらい酷い状態だったもんなぁ。


「(あの災害みたいな彼女と比べればマシかなぁ?)」


 『前』を思い出しつつ何とも言えない感じで見ている間に話しは纏まったらしい。

 というよりもあの集団の中では既に勝敗が決しているみたいなんですけど、一体その自信は何処から? と聞きたい。

 私、抵抗しないなんて言ってませんけど?


「ガキを捕まえて売り飛ばす。それでいいんだろ?」

「ええ。彼等に迷惑かけてばかりな小娘さえいなくなれば、あの方々も正気に戻ってくれるわ」

「へぇへぇ」


 あー山賊男も「コイツ何言ってんだ?」って顔してるわ。

 相当ぶっ飛んでる妄想してるみたいだもんなぁ。

 大方「小娘(=私)に騙されているイケメン達が解放されて。私(=妄想女)に感謝して私(=妄想女)が愛される日々がくる」とか考えてるんじゃないかなぁ?

 正直、ルビーン達に愛されるとか死亡フラグな気がするんだけどね。

 暗殺者だし、快楽主義者だし、基本的に自分以外どーでも良いし。

 執着されたら逆に危なさそう。

 ……【主】として執着されてるって? ――考えないようにしているので現実を叩きつけないでください。


 もはや呆れるしかない私を前にお話合いが終わったらしい。

 私を売り払ったお金で飲むお酒の事でも考えているのか、だらしのない顔で武器を構える男達に盛大な溜息を付くと私は体を半身引き振り返る。


「……生死、問います?」


 私の質問にタンネルブルクさん達は少しばかり驚いたようだったけど、直ぐにニッコリ笑って「ボス一人いればいいと思うぞ?」と返してきた。

 どうやら質問の意図は充分に伝わったらしい。

 山賊男とそのお仲間には通じなかったらしいけど。

 それを表すかのように、しびれを切らした仲間の一人がそれなりの勢いで私に襲い掛かって来た。


「けど――遅い」


 この程度焦るまでもない。

 私は男の攻撃を半歩引くだけで避けると刀を一閃、武器を破壊する。

 一撃で武器を破壊され何処か呆然とした男を次の動作で蹴り飛ばすと、数歩下がり臨戦態勢に入った。

 刀身を翻し構える。

 冒険者の先輩の許しは得たのだから、もはや手加減は無用だろう。

 

「私が言った言葉を忘れていたのか聞こえていなかったのか、わかりませんが……――」


 ニィとあえて煽る様に微笑む。


「――……手加減を期待しないで下さいね? 此処ならば血の後始末なんて考えなくても良いのですから」


 「<どっちが悪役だかわかんねぇよ>」という声は聞こえない振りをした。


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