第132話・そうして俺等は一生続く快楽に酔いしれるのだ【ルビーン】
俺は元々どっかの地方にあった小さい集落に産まれた狼の獣人の一人だった。
双子として生まれた相棒と共に何の問題も無く、何の驚きも無く生まれた、らしい。
産まれた地は帝国の方が近いがほぼ境界線に位置付けされた獣人の集落だったと思う。
獣人の集落としてはそれなりの規模だったんじゃねぇかと思う。
まぁ全部曖昧かつ伝聞になっちまうのは仕方ない。
俺達の生まれた集落は獣人を恐れたのか、身体能力に優れる獣人を手に入れようとしたのか、理由は分からないが突然滅ぼされたらしいからなぁ。
産まれた時から一緒だった相棒兼双子の妹だか姉だかと俺はその狩りとも言える襲撃を免れた。
とはいえ、まだ餓鬼だった俺等が逃げ切れる訳もねぇ。
だからまぁ、ただ奴隷として捕獲されたってのが正解、か。
帝国も王国も一応奴隷制度はないらしいが、まぁ裏でんな事を律儀に守る奴もいねぇわなぁ。
俺等は裏の界隈で取引され揃ってある組織に買われ、飼われた。
相棒と引き離されなかったのは単純に俺等は二人で何かをした方が相乗効果であらゆるモンの威力が上がる、ってな理由からだ。
そこに血の繋がった奴と一緒の方が、なんて情があったわけでじゃねぇ。
そんな人道的な所が人身売買をするわきゃないわなぁ。
特異な性質を保持してなけれりゃ早々に引き離されて何時か殺し合う相手として再会、なんて事になってたかもな。
それはそれで面白そうだが、まぁそうならなかったから良かったのかもな?
俺達を買ったのは暗殺を主とする後ろ暗い所しかねぇ組織だった。
ま、奴隷を買うんだから後ろ暗い所がないわけがないから予想通りと言えば予想通りだった。
村が襲撃され壊滅した時点で俺等は自分の命なんぞ無い物と思っていたし、捕獲されて奴隷とされた時も「あーそうか」程度しか思わなかった。
村の奴等を殺された事に対する怒りも無ければ奴隷として売られた事に悲しみも無かった。
そこが所謂最悪の場所なのは子供の俺等でも分かったが、それに対しても思う所も無かった。
どーも俺等はそこら辺の情緒? 良心? そーいったモンが欠如しているらしい、と分かったのもこん時だった気がする。
自分が生き延びたいという生存本能は欠如してはいないが、他から比べれば薄い、と思う。
その時その時の快楽を追った結果ギリギリの瀬戸際で死ななかった、なんて事もざらにある。
相棒もだが、俺は特にその傾向が強い。
ま、言っちまえば刹那の快楽主義ってやつなんじゃね?
得られるスリルという快楽のためなら結果として死んじまっても満足して死んでいく。
俺と相棒はそーいう生き物だった。
狼は群れを大切にする生物なんだが、別の血でも混ざってんじゃねぇかね?
群れるのもかったるいし、仲間ってのは反吐が出る。
ま、後者に関しちゃ居る所が居る所だからなぁ。
あんな所で仲良く友情ゴッコなんて出来るわけねぇっての。
例外はまぁ相棒くらいだな。
同じ気質のアイツだけは一緒にいても問題ねぇ。
能力が倍になりゃそれだけスリルのある何かを引き起こす事もそのスリルを長く楽しむ事も出来る。
血の繋がりってのは大して気にした事はねぇが、時折考えている事が分かる。
これに関しちゃ双子だからなんじゃねぇかね?
ま、本当の所は知らねぇけどな。
俺等の人生の大半を過ごした組織は裏社会ではそこそこ名の通った組織だった。
が、トップ、上層部と言われる奴等は頭の方はあんまり良いとはいえねぇもんだから「そこそこ」という評価から抜け出す事はできねぇ程度の組織だった、笑える。
そんな中途半端な組織で俺等は暗殺技術を教え込まれた。
隣でナイフを振り回していた奴が次の日には死んでたりも普通にあるような最悪の環境だったが、俺等は嘆く事も無く暗殺技術を吸収していった。
ってか教える方も教えてるっていうよりも自分よりも弱い奴を嬲るのが目的だもんだから、死なないように一日を過ごすだけで大変だったんだぜぇ?
ま、俺等は直ぐに技術をぶんどってやって返り討ちにしてたんだがな。
それで相手が死んじまっても組織内での地位は上がるだけで何の問題もなかった。
規律すら存在しないあの組織はもはや組織とも呼べない代物に成り下がっていた。
トップも上の奴等も自分達が殺されない事に腐心して自己保身ばっかりでクソ面白くねぇ奴等ばっかだし、下っ端は更に下を嬲る事に楽しみを見出している雑魚ばっかり。
俺等がそんな所に何時までもいると思うか?
まぁ楽しみも何もねぇ所に何時までも居る訳ねぇって話だわな。
結局組織ともいえねぇが一応暗殺組織に居たのは短い期間だった。
ある程度得られるモンを得ちまえばアルジサマを半殺しにして契約を解除させて自由の身になるだけだ。
簡単すぎて欠伸が出ちまった、そんくれぇあっさり俺等は自由になった。
その足で相棒と一緒に組織を出たから組織がその後どーなったかは知らねぇ。
ま、トップも上の奴等もそれなりに痛めつけたから下っ端に殺されて終わりなんじゃね?
残された下っ端で組織を維持する事なんて出来もしないし、組織は事実上壊滅ってこった。
御蔭で俺等は追手も無く優雅な旅路ってなもんだ。
面白くねえ旅路とも云うけどな。
俺は組織では「アオ」と呼ばれていた。
見たマンマ髪が青いから付けられた。
同じように相棒は「アカ」だったな。
相棒の髪は炎みたいな赤色だからな。
元々の名前は俺も相棒も覚えていない。
そんなに幼くもなかったはずなんだが、覚えていないもんは仕方ない。
別に村が壊滅したショックとかではないぞ。
村での記憶は覚えているわけだしな。
名前だけ忘れちまったんだが、別に不便もしてねぇからいっか、と思いだす気は今も無い。
相棒には聞いちゃいないがま、おんなじように考えてんだろう。
互いに名前を覚えていないと確認した後は思い出すように言われたこともねぇし、思い出したかの確認もされてねぇからな。
一応裏組織から抜け出した俺等は冒険者として登録して適当に暗殺やら他の冒険者のクエストを受けつつ適当に流れていた。
流れに流れてあんな時期に王都に行ったのは、引き寄せられたのもかもな?
まぁ結局俺等もただの獣人だったってこった。
別に悪い事でもなかったわけだけどな。
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