第61話・クソったれでオカシナ世界での、少しだけ楽しいかもしんねーセカンド(?)ライフ(3)
罵詈雑言の中俺がまずしたのは、生きるために状況を把握する事だった。
ってかこの頃にはほぼ俺を罵るためにしかやってこない血縁上の親と周囲の大人達。
家を追い出されるのも時間の問題って感じだった。
むしろ餓鬼共の方が大人のやり方に怯えて、呆れて、最後には俺の所にコッソリ来て「ごめん」って謝って来たぐれぇだぞ?
どんだけ酷かったんだよ、って話だよな。
正直この村もうダメじゃね? と思ったのもこれが切欠だった。
多分「俺」は突き落とされた事自体は恨んでねぇんじゃねぇかと思う。
「俺」は『俺』という残滓が居たせいか妙に冷めた子供だった。
持ち上げられていた時だって、孤立していた時だって「仕方ない」と思っていた。
それでも子供だからな、何処かで期待ってのもしていたんだ。
そらそうだ、子供が期待して何がわりぃんだって話だ。
その期待を最悪の形で裏切られたからこそ心が死んじまった訳だしな。
……謝りに来た餓鬼共は本来なら俺に対してじゃねぇから俺も「気にしてない」って言うしかなかった。
子供が幾らマシだからと言って大人がこれじゃあ、この村は遅からず破綻する。
いや、普通に何もなければこれからも何にもなかったのかもしれねぇ。
けど【闇の愛し子】が生まれたせいで全ては変わっちまった。
フォローする人間もいねぇし、もしかしたら俺が【愛し子】じゃない存在にならなくても、何時かこの村は破綻したんじゃねぇかと思う。
何方にしろ「俺」は火種であった事には変わりねぇけど。
この時点では一応世界に対しては思う所は無かったし俺自身、其処まで『地球』に焦がれてはいなかった。
この村には思う所はあったが血縁上の親って奴を“親”と思えない事に何の罪悪感も感じる事もねぇし、悪い事ばっかりでも無かった。
『地球』での知識がこの世界にどんだけ通用するかは分かんねぇし、無双なんて出来るとは思えねぇ。
其処まで俺も楽観視は出来なかったしな。
罵詈雑言に関しては雑音として聞き流しつつ、村の外に出る算段でもつけるつもりだった。
それすらも楽観的だったと思い知らされる事になったが。
もしかしたらこの時からだったかもしれねぇ。
まだ「芽」と言った感じだったが、この世界に対しての不信感が埋め込まれて、この世界に対して思う所が出て来たのは。
俺は血縁上の親という存在に殺されかけた。
あの日は朝から可笑しかったんだ。
何時もなら朝っぱらからご苦労と言いたくなるような時間から俺の所に来て罵詈雑言を吐きつつやっすいヒロイズムに酔う様を見せてきていた。
だってのに、朝起きた俺に対して「一緒に朝食を食べましょう?」ときたもんだ。
一体何を考えてやがるんだ? と俺が思っても仕方ないはずだ。
母親モドキの言葉に渋々従い机につけば父親モドキが笑って「おはよう」ときた。
この時点で疑いは頂点って奴だ。
何企んでやがるんだと警戒しつつ俺は机につくはめになった。
俺は相当警戒していたし、それを隠さなかった。
繕う必要性も無かったし、むしろそれでボロを出しやがれぐらいには思ってた。
少しは効果があったはずだ。
父親モドキの表情が不愉快そうに歪んだからな。
とは言え、それによって俺に対して何かしらの意識変化があった訳じゃねぇ事はコレで分かった。
この場では我慢しても達成したい俺にとっちゃ相当ヤバイ事を考えているって事も。
いっその事朝食ひっくり返してやろうか、とも思ったがこん時は俺もまだ楽観視していた……まだ猶予があると。
実はこの時には森の中に村を飛び出す色んな準備だけはしていた。
餓鬼の俺が出来る事なんてたかがしれてるし、大した事は出来なかった。
けどいつでも飛び出せるっていう心のよりどころが俺にも必要だった。
流石に周囲の大人がほぼ敵の状態は俺でもキツイ。
四面楚歌をリアルに経験するとかマジ勘弁だった。
だから精神安定剤代わりにした用意だった……この時点じゃまだ。
コレがある意味で良くなかったのかもしれねぇ。
俺は精神的安定剤を用意した事で侮り、前世の記憶があるために出た悪い面が顔を出してやがった。
血縁上の両親が俺を幾ら存在ごと葬りたくても、人一人を亡き者にする事は難しいのだと無意識に思ってたんだ。
『地球』ではそれが当たり前だった。
産まれた時から戸籍を与えられて、それ故に餓鬼だろうと存在ごと消す事は出来ねぇ。
俺の場合一度は祭り上げられたから周囲が周知している事もあって余計にそうだと……『地球の常識』で物事を考えてしまった。
「俺」が残していったのは人格が消えるまでの記憶全てだった。
けど自我が消えたが故に『俺』の自我が勝る。
常識も倫理観も『地球』に遵守していた。
……後、少しばかり油断していたんだ。
幾ら罵詈雑言を吐いている状態だろうと自分の手で子供を殺す程破綻しては居ないだろうと。
それが油断でしかないと分かった頃には俺の体内には毒素が取り込まれていたけどn。
そう、俺は両親モドキに遅効性の毒を盛られた。
それが分かったのは食った後だってのに、妙に笑顔で外に出された後、貴族の従者とやらに出逢ったからだった。
森に向かう道中、周囲の大人達は気持ち悪かった。
皆、笑顔だったんだ。
あんだけ俺を見れば顔を顰めて、悪態をつく奴等が笑顔で俺を見てくる。
その顔は両親モドキと同じで、あぁ全員グルなのか、と直ぐに分かったが。
そんな状態でご丁寧にテンプレ悪役のように説明してくれる奴が現れた。
貴族の従者らしき奴はペラペラと俺に毒を盛った事を暴露ってくれた。
両親モドキに欠片の情でもあれば傷ついたかもしれない事実――親が子に毒を盛った、という事を臆面も無く語るツラは醜悪の一言だった。
ただ俺はその事には全くもって傷つかなかった。
企みが分かってかえってすっきりしたくれぇだ。
一種の衝撃の事実を暴露されても平然としている俺を見て貴族の従者サマは不気味なモンでも見る目で見て来たが、心底どうでも良かった。
この時俺は自分が死なないって言う妙な確信があった。
後に【神の愛し子】はそこら辺の毒ぐらいなら中和しちまうって言うびっくり体質だって事を知ったが、この時は漠然とした「これくらいじゃ死なねぇよ」という確信にも似た予測だけだった。
此処で死んでもいいと思っていた気持ちがあったかどうかは今でもわかんね。
ただ頭の隅で考えていたかもしれないとは思うけどな。
恐ろしいモンを見るような貴族の従者サマをスルーして森に向かう俺は途中で会った餓鬼共に柄にもなく最後の別れをしてその場を離れた。
アイツ等がその後どんな生き方をしたかは分かんねぇけど「幸あれ」程度には思ってんぜ?
森の中で俺はすっげぇ苦痛に襲われた。
あぁこれが毒の効果なのかって思った。
とは言え、この時ですら俺は自分が死ぬとは思えなかった。
……結果として俺は死ななかった。
今度は容姿も変わらねぇし、妙な体質だと思っただけだったけどな。
一しきり苦しんだが、結局俺は死ぬ事は無かった。
結構な時間を其処で悶えていた俺はすっかり薄暗くなった森の中でお目当てのモノを取ると、森から出た……村のある位置から反対側から。
森が途切れた所で振り返った時見えた村の姿が“俺”が産声を上げた、最低で不愉快極まりない生まれた場所って奴の最後の姿だった。
同時に俺にとって貴族って奴が下らねぇ存在であると思う切欠でもあった。
別に俺は自分が「選ばれたなんたら」だとは思ってねぇし、今後思う事もねぇ。
毒が効かない体質なんてお誂え向きだよなぁと思っても、じゃあすぐに「俺は選ばれし勇者」的な事を考える奴の方がすくねぇよ、実際。
其処まで現実が見えていねぇ程馬鹿じゃねぇと思ってる。
人の醜い面も見せられたんだ。
この世界が現実以外のなにもんでもない事も思い知らされた……俺にとっての現実である事は否定しきれなくなってたんだ。
それでも完全に認めるには、あまりにもこの世界が醜悪に感じて難しかったんだけどな。
折角死ななかったとは言え、この世界に愛着を持てと言う方が無茶だっての。
俺のこの世界に対してのスタンスはこの時決まったのかもしれねぇな……今になって思い返せば、だけどな。
あと『俺』は忘れる事が出来ねぇ――【闇の愛し子】である事を嘆いた「俺」の言葉が。
人なんて弱い存在だってのに、そんな人間に試練を課すように【加護】を押し付けて来た神々って奴が俺が嫌いだ。
全部が全部そいつ等が悪い訳じゃねぇ。
欲に負け醜態をさらした大人達だってわりぃし、小さかろうが怪我をさせようと行動に出ちまった餓鬼共だってわりぃ。
全てを甘受した「俺」もわりぃし、傍観者として助言の一つ警告の一つもしなかった『俺』だって悪いんだろう。
けどそこら辺全部ひっくるめても【加護】を押し付けやがった神々とやらや【闇の愛し子】って存在に悪意が湧いて仕方無かった。
八つ当たりでも責任転嫁でも良い。
けど俺は忘れる事は出来ねぇし、未来的に昇華される事もねぇんだと思う。
――【闇の愛し子】であるがために人生を狂わされた「俺」の最期の寂しさと虚しさの宿った「もう、やだ」と言う言葉は。
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