第60話・クソったれでオカシナ世界での、少しだけ楽しいかもしんねーセカンド(?)ライフ(2)





 『俺』は地球の日本で生まれた。

 向こうで死んだ時の事は正直覚えてねぇ。

 ただ若い時に死んだんじゃねぇかとは思う。

 名前も曖昧だから、そーいうモンなんじゃねぇかな?

 

 そんな『俺』がこの世界に居ると強く感じたのは三つだか四つの事だった。

 それまではこの世界で生まれて生きている「俺」の自我が強かったし『俺』は時折思い出す程度で記憶ってか記録って感じだった。

 もしかしたら、そんな状態で「俺」が生きていく道もあったかもしんねぇ。

 その場合『俺』は記録の残滓みたいに何時か消えていくか溶け込んでいくか……まぁ消滅するか融合するかだったはずだ。

 その方が「俺」は幸せな生活って奴が送れたかもしれねぇな……いや、無理か。

 少なくともあの環境じゃあ『俺』が残滓として消え失せても幸福な人生とやらは望めなかっただろうし、早期に死んでたいた可能性もあったはずだ。


 「俺」は平民の両親の間に生まれた子供だったが、黒髪と銀色の双眸を持つ、地球でなら『不義の子』を疑われる容色で生まれた。

 とは言えこの世界では貴色を纏う【闇の愛し子】って奴になるらしく母親と言われる女が疑われる事は無かった。

 むしろ親と呼ばれる人間は【神の愛し子】を生み出した人間として周囲の人間に妙にチヤホヤされる事に成ったぐれぇだ。


 どうやらこの世界では【神の愛し子】は保護される運命にあるらしかった。

 その内教会に保護されるか、貴族の庇護を受けるか。

 どっちにしろ生涯は保証される……両親共々。

 平民生活が一変、贅沢して生きる事が出来るって思えば、そりゃおこぼれに預かりたい輩が沸いてでるわな。

 序でに言えば「俺」の両親だったであろう奴等だって普通に舞い上がるし、千載一遇のチャンスを手放すなんてしないよな。


 実は【神の愛し子】に対してや周囲の人間への対応はその領の領主である貴族や教会によって違うらしい。

 まぁだからと言って俺達に対しての扱いが良いのか悪いのかを『俺』が知る事は出来ねぇけど。

 

 それを知る機会は俺には一生訪れなかったんだからな。


 転機と言えば良いのか「俺」ではなく俺になった切欠は子供の嫉妬だった。

 あーいや、正確に言えばちげぇ。

 決定打は周囲の大人と「俺」の両親が「俺」の心を木端微塵に打ち砕いたからだった。


 妙にチヤホヤされて全てにおいて免除される同世代の子供。

 そりゃ面白くねぇは。

 『俺』でも、そんな餓鬼が居たら倦厭するし、ハブにする。

 【神の愛し子】って奴は絶対的だけど、大人程子供には遠いモンとして認識されてねぇって事でもあった。

 「俺」もそりゃ他の奴と一緒に遊びたかっただろうし、お手伝いやらをブチブチ言いながら一緒にやりたかったはずだ。

 そうやって一緒に育つからこそ連帯感? 一緒にやり切った感が出るってもんだ。

 仲間とか友達ってそうやって培われるモンじゃねぇかと思う。

 そんな機会を片っ端から潰して回って、孤立させたのは周囲の大人と血縁上の両親だった。

 ……そしてそんな行動を取らせた教会だか貴族だかのやり方が下手うったって事でもある。

 大方金でも与えておきゃ問題ないとでも思ったんだろうが、んな訳ねぇだろ。

 大金を扱った事もねぇ平民に金だけ渡してどうなる。

 本来ならもっと村自体に利益を与えるか、嫌な言い方だが金で【神の愛し子】を買うくれぇの事をしなきゃなんなかった。

 貴族様がんな事まで平民のために動くわきゃ無かったって話なんだけどな。


 孤立した気に食わねぇ餓鬼に対する不満が解消される事は無かった。


 結果、餓鬼共によって「俺」は崖から突き落とされたんだ。

 流石に其処までやるのかって『俺』は思ったし「俺」は驚愕で声も出ねぇし抵抗も出来ないまま真っ逆さま。

 運良く枝やらがクッションになった御蔭で即死は免れた。

 けどまぁそのまんま放置されれば死んでいたかもしれねぇ。

 傷から流れ出る血は命のタイムリミットを刻んでるみてぇな錯覚を覚えた。

 特に額から流れ出た血のせいで右目の視界が真っ赤に染まった時は死を覚悟をしたぐれぇだ。

 

 この時光精霊が俺を助けてくれなかったら「俺」はこの時肉体が死んでいたはずだ。

 【闇の愛し子】が死にかけた事に対する哀れみか、それとも「俺」には【光】の才能でもあったのか、そこは今でも分からねぇ。

 ただ死にかけの俺を多くの光精霊が救ったという事実が全てだった。

 ……こん時死んだ方が「俺」的には幸せだったのかもしれねぇとは思うけどな。


 死の淵から掬い上げられた「俺」を待っていたのは今までは正反対とも言える冷たい視線と対応だった。

 最悪失明を覚悟していた右目は視力を失わなかった。

 けど何故か銀色ではなく「金色の眸」に変化していた。

 光精霊に助けられた訳だし、そのせいなんだろうと思う……何でかまではわからねぇけど。

 

 髪と眸の色が貴色を纏う人間を【神の愛し子】と呼ぶ。

 じゃあ片目が変わったら?

 その結果が周囲の掌返しともいえる対応の変化だった。


 ってかよ、おこぼれが頂けないから八つ当たりしてぇ気持ちは分かるよ?

 だってのに、元々この色だったのに自分達を騙した的な発言はどうよ。

 しかも教会まで尻馬に乗って「俺」を責めだすし。

 血縁上の親も騙された憐れな自分達と言い出す始末。

 貴族様は「俺」を詐欺師扱いし言葉の限り罵って去っていった。

 教会は「俺」の【神の愛し子】認定を取り消すと声高々に宣言して去っていった。

 どっちもついでとばかりに「俺」を最大限コケおろしていったけどな。


 勝手に祭り上げておいて、今度は一変全部「俺」のせいと来た。


 そんな一変した劣悪な環境に子供である「俺」が耐えられる訳が無く「俺」の心は粉々に砕け散った。

 精神の死は本来ならそのまま肉体の死となるか、良くても一生目覚めない眠りにつくって所だろう。

 けど「俺」には『俺』がいた。

 地球でそれなりに生きた、周囲の大人の盛り上がりを冷めた目で見ていた『俺』が。

 粉々になった「俺」とは違い『俺』の心は砕けなかった。

 周囲へ期待なんぞしなかったのが裏目に出たらしい。


 ――「【闇の愛し子】なんだから闇精霊が助けてくれれば良かったのに」と消え入りそうな声で呟いた最期の「俺」の言葉を『俺』は生涯忘れる事は出来ねぇと思う。

 その時感じた理不尽だと分かっても込み上げる怒りと共に、な。


 こうして俺は最悪の状態で自分がこの世界の人間だと認識するはめになった。


 俺はこうして最悪の環境で産声を上げたのだった。



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