第55話・最後の対峙




 灯り一つ無い漆黒の闇夜

 作られた闇夜の中煌き輝く星々を模し数多の光球

 

 ホール内には今、満天の星空が広がっていた。

 

 魔道具【プラネタリウム】


 私が今回の計画のために構造を考えて、お父様達の力を借りて創り出した魔道具。

 試行錯誤の成果が目の前に広がっている。

 少しばかりの例えのようない感情と取り敢えずの成功に対する安堵と感動が胸中に渦巻いていた。


 今更だけど『地球』で大好きだった『プラネタリウム』を計画に組み込む事に躊躇が無かったとは言えない。

 大好きなモノを利用して、最終目標として誰かを排除しようとする。

 そのせいで大事なモノを汚してしまったという思いに襲われるのは仕方ないと思う。

 

 けど私はそれでもこの計画を変更する気は最後の時まで起きなかったし、実際実行してもその事に対しては何も思わなかった。

 大事なモノを利用した事に対して何からの気持ちはあるけど、目の前に広がる光景は変わる事は無い。

 満天の星空が人々の目を楽しませている。


 あれだけ私を見下し、文句を言っていた人間ですら、満天の星空を前に言葉を失って魅入っている。


 計画に私の大好きだった『プラネタリウム』を利用したのは事実だ。

 けど魅入られる人を見て「綺麗だと魅入っている。良かった」と思う気持ちもまた事実だった。


 計画のために創られた魔道具。

 けど計画のためだけに創られた魔道具という訳でもない。

 この魔道具一つで色々な盤面を覆す事になると思うけど、私の中では純粋に「もう一度見たい」という欲求も存在していた。

 ただ、見たかったのだ、満天の星空をもう一度。

 人工の星空だとしても人々を感動させる事が出来る『プラネタリウム』の素晴らしさを誰かと共有したかった。

 勿論一番共有したいのだお兄様やリアと言った私が心から大切に思う人達だけど。

 他の人達に対してはお裾分けするような感覚だった。


「(嫌いな、見下した人間の創ったモノでも感動する事は出来るでしょう?)」


 ちょっと「ざまぁみろ」と思っちゃうんだよね。

 それと「どうだ、凄いだろ!」的な気持ちもね。

 

 見上げると精霊が変換された光は星の様に煌き、思いつきで構成された魔道具だけど出来は中々だと思った。

 『プラネタリウム』には劣るけど、星空を見せるという点では成功したと思う。


 一応攻撃性は存在していない、分類するなら生活密着型の魔道具って事になるのかな?

 娯楽用魔道具って分類は存在してないしね。


 ただこれって軍用に転用しようと思えば出来るんだよね。

 ほら、光が散らばる御蔭で微妙に光源がある状態だからさ、夜間訓練の際、訓練地をこの魔道具で囲えば、昼なのに夜間訓練が出来る、とかさ。

 後、言いたくないけど攻撃性を持たせる事も出来なくはない。

 その危険性は先生もお父様も気づいていたし私も魔道具を錬成する際に気づいた。

 三つの魔道具の一つ一つが脅威になる可能性は充分にある。

 だから本来なら三つの魔道具を一つに組み立ててバラバラに作動しないようにしたモノを完成品として世に出すべきだったのかもしれない。


 けど私には時間が無かったし実力も無かった。

 だから三つの魔道具をそれっぽい一つの魔道具として纏めてこの場に持ってきた。

 近くで見ない限りは多分バラバラの魔道具による代物だとは気づかないだろう。

 これで今の所問題はないと判断したのだ。


 正直、これを世に出す事で何時か軍用への転用は免れないと思っている。

 一つ一つの構造を解析されてしまえば、誰でも作れるモノだから。

 発想がないから今まで作られなかった、だけなのだ。

 特に精霊を変換させる事はそれを思いついた事自体を大層驚かれた。

 

 これに関しては私が出来るかもしれないと考えて、実際出来てしまった。

 そしてこうして実現してしまった。

 今後、これが分析されて軍事使用される可能性は否定できなかった。


 けれど、そんな事を考えていたら何も世にだす事は出来ない。

 そりゃ世界の歴史に合わないオーバーテクノロジーは不味いと私でも思う。

 『核』なんかはこの世に生み出しちゃいけない類のモノだし。


 過去、この世界に来てしまった人達が後世に残す事は無かった様々なテクノロジー。

 世界のバランスが一瞬で崩れてしまうモノを生み出して、普通にしていられる訳がない。

 

 けど、だからと言って何も出来ないという訳じゃない。

 文化は歴史は常に前を向き歩み続けているのだ。

 その歩みを極端に進め過ぎない程度に便利さを求める事まで罪だとは思わない。


 それに幾ら安全なモノを作り出しても軍用にと考える輩は出るのだから。

 其処まで気にしていられないという気持ちもあった。

 私は最初から娯楽用としか考えてない。

 なのに、それを勝手に使って、勝手に戦いに利用しようする。

 そんなのモノを創り出した私が悪いんじゃなくて、利用しようとしている人間が悪い。

 

 結局、私の中ではそう結論が付いてしまっていた。


 薄情と云うなかれ。

 そんな事まで考えていたら何も創り出せないのだ。


「(大体、『核』よりもメテオ系の魔法の方がよっぽど怖いし)」


 あたり一帯を焼き尽くすような魔法の方が場合によっては恐ろしいと思う。

 高位の魔導師なんて、私にしてみれば正直人間『兵器』でしかないよねぇ、って話である。


 とまぁ私はそんな感じに割り切って、時世を見つつ自分の利便性を追求する事にしている。

 今回の【プラネタリウム】に関しては最終的には一つの魔道具として完成させてからギルドに登録するつもりだけどね。

 時間がないから試作品という形で今回のお披露目である。


 技術の進歩を極端に早めて歪みを産むというのなら、そうならないように努力する。

 それが私のせいだと言うならば責任を取るために尽力する。

 ただ全てを私のせいにされても困る。

 最低限の理性で持って自制して、許されるラインの中で、自由にする。

 マッドサイエンティストじゃあるまいし、世界と自分の欲求を天秤にかけて自分の欲求を取る程破綻はしていない。

 今回の魔道具だって一応大丈夫なように色々考えているしね。

 

「(まぁ直接何かしらの被害にあったりしたら、そんな事言い訳にしか思えないだろうけど)」


 そんな輩が出たら丁重にお引き取り願うだけだ。

 そう言い返す事が出来る程には私も頑張っているのだから。


「(とはいえ、そんな話が出るのはもっともっと先の事なんだけどね)」


 今、考えないといけない事では無い。

 満天の星空を見上げながら、私は一つの山場を越えた事を確信する事が出来た。

 ならば次の段階に移行しなければいけない。


 【精霊眼】でホール内の精霊がほぼいなくなった事を確認すると、最終段階に入るために、目標を探す。

 【眼】を発動させていると一人だけブレて見える目標人物は私にとってはとても探しやすい存在である。

 今回も多分、直ぐに見つかるだろう。


 【プラネタリウム】という名づけに対して反応するのは私以外には彼だけだ。

 彼だけが、そう名付けた理由を知っている。

 昼間の明かりの中でも闇夜を生み出し、輝く星々を見る事の出来る装置。

 満天の星空を生み出す披露する施設。

 私にとっては一日だろうと居れるであろう大好きな場所だったけど彼にとってはどうだろうか?

 少なくとも良い気はしていないだろうけど。


 この世界に居場所を得ている私にとって『地球』での記憶はあくまで前世という位置付けでしかない。

 私は私だし、この世界で得る事は出来ない記憶を持っているだけの存在でしかないと思っている。

 時折疼く何かがあったとしても、生活基盤や基本理念、様々なモノは基本的にこの世界に遵守している。

 つまり『地球』は私にとって故郷ではなく、知っている理の違う世界という認識でしかない。

 今回のように記憶を利用し魔道具を創ったり、思考回路が時々この世界では突拍子も無いと思われる事を考えたり。

 それでも「私」を見失う事は無い。

 私が「キースダーリエ」だという根幹が揺るぐ事はないのだ。

 

 だから私は焦がれるような郷愁にかられる事は無い。

 懐かしさを感じる事も少しばかりの寂しさにも似た何かを感じる事もある。

 けど、それだけだ。

 ……彼の抱く感情を私が全て理解する事は決してないのだ。


 フェルシュルグは直ぐに見つかった。

 暗闇の中でもブレる姿ははっきり見える。

 スキルを発動させようとしているのか、僅かに残った光精霊が彼に引き寄せれているのが視える。

 けどそれじゃあ到底姿を維持するには足りないはずだ。

 

 私でも彼がするであろう次の行動が分かる。

 魔道具の発動が切れ、明るくなったら終わりだ。

 自らの真の姿が白日の下にさらされてしまう。

 ならばどうすればよいか?


「(この場を離れて精霊の居る所にむかえば良い)」


 序でに混乱している自分の思考を落ち着かせれば一石二鳥ってやつなんじゃないかな?

 

 何処まで私の推測が合っているかは分からない。

 けれどフェルシュルグがホール内から出ていく後ろ姿を見送り、私はお兄様に合図を送り、お父様にも合図を送る。

 二人はこの暗がりの中でも私の意図を汲み取ってくれたのか、僅かに頷いてくれた。

 これで大丈夫だ。

 お父様は私達が居ない事をフォローしてくれるはずだし、お兄様はついてきてくれる。


 私はそれを確信すると、タンゲツェッテ達や敵視してくる子供達を避けてお兄様とホールを出ると、フェルシュルグを追う。

 彼の居場所は精霊が教えてくれる。

 計画通り動いている事に少し安堵しつつ、私達はフェルシュルグの元へとかけていくのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る