第49話決戦の舞台は?




 必要な事を調べて、代用できるレシピを探して、シュティン先生に相談して、私はようやく自分の力量の範囲で創り出せるレシピを作成する事が出来た。

 とは言え完全オリジナルとは言えず、どっちかと言えば改良レシピを使い複数錬成した錬成物による混合体を新しい物体として打ち出した感じである。

 『ゲーム』ではオリジナル錬成はマスターレベルでしか出来なかったし、当然ゲームにプログラムされた範囲だったから真の意味でのオリジナルレシピは存在しなかった。

 そこらへんは仕方ないし、当たり前の事だと思っていたけど、実際思い描いたモノを作り出すために試行錯誤してみると、オリジナルレシピを生み出すというのは難しくて一筋縄ではないかないと言う事がよくよく分かった。

 改良レシピだって本来なら私の錬金術のレベルじゃ出来ないしやってはいけないモノが幾つかあったし。

 今回は計画に必須だという事で、私が案を出して、お父様が作成したって事になってる。

 というよりも作成に関しても私は殆ど手を出してないから、正直な所私が創ったモノとは言い切れない。

 アイディアを出して監修したと言われればそうなんだけど、本音を言えば全てを一人で作り上げたいと言いたかった。

 自分がそんな事を言いだせるレベルではない事は分かっている。

 私の錬金術のレベルじゃとってもじゃないけど成功はしない。

 むしろ無理をして魔力が枯渇した上、失敗作が出来るのは目に見えている。

 

 私のこの悔しさにも似た感情はお門違いだと理性では分かっている。

 それでも私は悔しいのだ。

 計画を立てたのは私で、必要なモノを創りたいのも私で……アレをこの世に生み出すのは私で有りたかった。

 

「(レベル不相応のモノを創りたいと言える程の無鉄砲さが私にあれば言っていたんだけどね)」


 結局、この年にしては少しだけ自分を知ってしまっている私には言える訳がなかった。

 酷い我が儘であり無鉄砲な行為でしかないと分かってしまっているから。

 

 この悔しさは次のための原動力に昇華しよう。

 私は自分の思い描いたモノを自由自在に創り出せる錬金術師になりたい、という夢を叶えるための原動力に。

 

「(そのために錬金術のマスターランクを目指したい)」


 夢は大きく、だよね?



 私の夢はともかくとして、計画に必要なモノは目途が付いた。

 私自身の事については一応誤魔化してお父様にお話しする事が出来た。

 ……見逃されているだけだと思うけど、そこは仕方ない。

 そろそろ腹をくくって、今回の騒動が終わったら話そうと思っている。

 

「(大丈夫。きっとお父様もお母様も受け入れて下さる)」


 だって完全にではなくともバレていない訳がないのだから。

 あの鋭いお父様とお母様が違和感に対して何かを言う事がないっていうのはそういう事だと思うから。


「(大丈夫。……大丈夫!)」


 自分を鼓舞しつつ、今じゃない事に僅かに安堵しつつ、私は次の問題に着手しようと考えた。


 次の問題、それは舞台をどうするかだった。


 私発案でお父様作成の新しい魔道具のお披露目という名目では、それなりの人数を集める事は難しかった。

 というよりもお父様が声を掛けると今回は遠慮したい人達まで呼び寄せる可能性が高い。

 政敵とか来ちゃったら私の計画は実行できない。

 幾ら秘密裡にすると言っても、目を光らせる害獣のような輩の目を掻い潜るのは難しい。

 初お目見えの私が注目される可能性もあるのだし。

 私が自由に動けない状態は困る。

 ……そも、傘下、派閥の恥を流布するような真似はしたくない。

 つまりそこそこの規模のパーティーを開催するためにはどうすればいいか、それが今最大の悩みだった。

 出来れば傘下、派閥の人間だけを集めたい。

 一番ウザイのはマリナートラヒェツェだけど、手を貸している家だって少なくは無いはずだし、ラーズシュタイン家を下に見ている家もそれなりにある。

 その癖何かあれば恥も無く頼ってくるのだからうっとしい事この上ない。

 切り捨てるのは数が多すぎるし、何かをお考えなのかお父様は自分への不敬程度なら口頭注意で済ませてしまう。

 まぁ其処だけなら優しすぎるだけの人なんだけど。

 宰相にまでなっている錬金術師であるお父様が考えていない訳がない。

 貴族らしく計算の上何かを考えているはずだ。

 それが何かまでは分からないけど。


 とは言え、現在派閥の家が鬱陶しいのは事実だ。

 そこらへんの見極めをするためにも派閥だけの参加でパーティーを開く事が好ましいとは思う。


「(ただ、そうなるとパーティーを開く名目が必要なるんだよねぇ)」


 パーティー後にマリナートラヒェツェに何かがあれば真の目的は直ぐに知れ渡るはず。

 けどそれは実はどうでも良い。

 知られる事も抑止力として作用させれば良い事だろうから。

 その程度の誘導は貴族なら嗜み扱いだ。

 つまりパーティーを開き、私の計画が終わるまで疑われなければ良いのだ。

 少しハードルが下がる……訳もなかった。

 根本的に呼びたい人だけを呼ぶ名目が見つからないのが問題なんだから。


 ホールという限られた空間をネタに人数制限する、には我が家のホールが普通に広すぎる。

 魔道具もある程度の広さには対応できてしまうから言い訳には使えない。

 その部分に嘘を付くわけにもいかないし、今後使用する際に少しでも欠点は作りたくはない。

 今回一回の使い捨てにするのはあまりにも物悲しい。

 アイディアを出した人間として……本当はオリジナル錬成物の制作者として、一回だけのお披露目で終わりにはしたくなかった。


「(だからと言って決戦の舞台が決まらないなんて話にならないんだよねぇ)」


 結構困った事になっている気がする。

 

 これが私が年頃で、それこそ婚約者を探すためのパーティーとか言うなら問題は無かった。

 だってまず派閥や傘下の人間に声を掛けるのは然程可笑しい事じゃないのだから。

 こまめにパーティーを開いて結婚相手を探すのもまた貴族にとっての当たり前だろうし。

 不審を呼ぶ程ではないと言える。


 けど残念ながら、今の私は年頃の娘ではなく、まだちっさい女の子である。

 【属性検査】により家の者とようやく認定されたばかりで発言権も半人前程度、パーティーを開く処か行った事もないおこちゃま。

 それが現状の私だった。


「(その御蔭で人望その他諸々においてタンゲツェッテに負けているんだしね。……ん?)」


 そうか、逆に言えば私はまだ自分の意志でパーティーに出た事も無ければ開いた事も無いって事なのか。

 つまり私自身もお披露目をまだしていないって事になる?


「(私が【属性検査】の時何をされたかは詳しくは知らされていない。けどその後【再検査】をした事をした事までは知られている)」


 その事で私の錬金術としての才能を疑う人間も少数ながらいるくらいなのだ。

 得意属性に関しては私の纏う色を見れば一目瞭然だから何も言われてないけど。

 

 本来なら家の人間として認定されたら直ぐにパーティーやらなにやらでお披露目を済ませる。

 家格が上の方ならば自宅でパーティーを開く事もよくある話だったはず。


 つまり公爵家である私のお披露目のためにパーティーを開く事は可笑しな行動ではない。

 その際初お披露目で派閥や傘下の人間と言った一種の身内のみを招待する事もあり得る話だ。

 失敗しても笑って許してくれる所で練習する感覚に近いと思う。

 

 【再検査】により錬金術の才能を疑われてる、まだお披露目を済ませていない私の初お披露目パーティー。

 それは呼びたい人間だけを呼ぶ事が可能な舞台にはならないだろうか?

 更に言えば、今回魔道具をお披露目をする事でアイディア兼すこしだけ手伝ったと明かせば私のおかしな噂も霧散するのではないだろうか?


 口さがない言葉の中には私は錬金術の才能が皆無であり、それはお母様の不貞だからというモノがある。

 それを教えられた時は頭に血が上ってそんな事を言った人間を血祭に上げようと思った。

 お兄様に、何よりお母様本人に止められなかったら首謀者を見つけ出して血祭に上げていたと思う。

 お兄様はまだ色彩がお父様と似ていらっしゃるからいいけど私は【愛し子】として貴色を纏っている。

 顔立ちからするとお母様似なんだけど、目から入ってくる色という情報は中々侮れない。

 『地球』でそんな事があったら夫婦の中は相当揉めるし、最終的には親子鑑定すら行われる可能性があるレベルの色違いなのは確かだ。

 まぁそもそも向こうでは私みたいな色彩の子供が生まれるのか分からないけど。

 

 ともかく色彩に騙された輩……または分かっていても攻撃の材料する下卑た輩の思惑を一蹴する事も出来るかもしれない。


 問題は……うーん、しいて言えば、私の晴れの舞台にそういった思惑を絡ませる事をお父様がよしとしない事くらいかな?

 やっぱりお父様は子供大好き、奥さん大好きで家族(大半の使用人含む)大好きな人間だから。

 私のお披露目は何の憂いも無くしたいと思ってくれている。

 だって私直接お父様に「この厄介事が終わったらお披露目会を大々的にやろうね?」と言われたし。

 あんまり大々的にやらないで欲しいなぁと言われた時には思ったんだけどね。

 どうせ派閥・傘下以外にもお披露目会はしないといけないから、拘る事でも無いと思うんだけどね?

 私自身は特別な何かを感じる事は無くて、むしろ失敗したくないからパーティーとかあんましたくないなぁとか思うくらいだったし。

 そこら辺は『地球』の感性に引っ張られている気がしないでもない。

 貴族令嬢だからパーティーとか必須だし、開かない訳にはいかないんだけど、ね。

 社交が苦手なんです、なんて口が裂けても居ないのは悩ましい所である。


「けどこんなにお誂え向きの舞台なんて早々に用意出来ないし」


 お母様に対する誹謗中傷も散らす事が出来るかもしれないなんて一石二鳥だよね!

 それもお父様を説得する材料になったりしないかな?


「提案するだけして見ようかな。その上でもっと良い舞台があるのなら意見を聞いて決めよう」


 他に良い案もないしこれでいこう。

 そうと決まればお父様の所に行かないと。

 今、何をしているかなぁ? 仕事かな。

 なら執務室かな。

 あーならアポイメントが必要……じゃないね。

 家で執務をしている家族の所に顔を出すのに事前にアポが必要ってどんな家ですか? って話だし。

 まぁ先ぶれ程度は必要だと思うからリアに頼まないと。

 じゃないとお父様が重要事項を整理して見えないようにする時間も無いだろうしね。

 お父様が宰相なら必要な措置って奴だと思う。


 ……前向きな気持ちで部屋を出れるってやっぱ良いなぁ。

 先に進めているって感じするもんね。

 準備完了までもう少しだし頑張ろう。

 

 私は着実に前に進めている手応えに喜びを感じつつ、部屋を後にするのだった。



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