第48話ただいま準備期間中(2)




 比較的広範囲を光の差さない空間にする効果

 無数の小さな光を散りばめるように配置する効果

 そして、隠れ効果として闇精霊以外の精霊の属性を闇に変化させる効果

 

 最後の奴は光精霊に限定出来ないから仕方なくだし、本来なら必要はない効果である。

 けど私達の計画には必要だ。

 フェルシュルグを攻略するために、この効果があれば大分此方が有利になる。


「まず、光が差さない真っ暗な広範囲の空間」


 これはホール全体を包みこむ結界を作ってその中を真っ暗にすれば良いかな。

 

「えぇと問題は広範囲を真っ暗にするにはどうすれば良いか、だけど」


 昼夜の因果律をひっくり返す訳じゃないし……松明の逆バージョンを作ればいいのかな?

 いやいや、あれは油に火を付けて光源にしているのか。

 えぇと確か光精霊を使った熱源を持たずに火を灯す魔道具があるから、それの逆……もダメか。

 

「んー。周囲の光を吸収して真っ暗にする? いやいや、其処まで難しく考えなくてもいいよね? あれ? もしかして結界に光源を遮断する効果を付加出来れば問題無い?」


 『遮光カーテン』みたいな効果を付加出来ればって事だよね。

 

「無色透明じゃない結界って存在するかどうか調べないと」


 まず出来る事と対策を紙に書きこむ。

 えぇと「『遮光カーテン』仕様の結界を創る」と。


「次は無数の小さな光を散りばめて配置する効果」


 物理的に光を放つ魔石を振りまくのが一番簡単だけど……それじゃ一回毎に大量の魔石が必要になるから違う方法を考えないとダメ。

 だからと言って光を発する効果を組み込んでも『ビーム』みたいになったらダメだしどうしよう。


「星みたいに見せる効果が必要で。地上から光を照射するのはダメ。うーん」


 よくよく考えてみれば別にこの世界には『星座』が無いから、配置は適当でもいいんだよね。

 実際、光っている魔石を天井に振りまくだけで星っぽいし。

 だから『地球』のアレよりは明確に配置を気にする必要はない。


「……あっ! ガラス二枚の間に絵とか入れたモノとか『地球』にあったよね。あれっぽい構造にすればどうだろ」


 この屋敷を覆う結界が二重なんだから結界を二重にする事は可能のはず。

 外側を『遮光カーテン』仕様にして、それよりも小さい無色透明の結界を作り出して、その間に光を散りばめる。

 

「『天の川』とか『北極星』くらいあってもいいよね。それくらいの操作なら出来ないかなぁ」


 えぇと取りあえず、これで作りたいモノの骨組みは出来たかな……ってダメだ!


「【結界陣】は複数の結界を作り出すと相殺されるんだっけ」


 あぁ、それじゃダメだ。

 効果の無効化って結界そのものがダメになるのかな?

 あーでも『遮光カーテン』効果は無効化されるからやっぱりダメか。

 色を付ける事が付加効果に換算なれないならまだワンチャンスあるけど。


「内側だけは魔法で結界を作り出す? いやいや、それじゃあ結界を張れる魔術師が必要になっちゃうから。それもどうよ」


 発想そのものを変えないとダメかぁ。

 ――そういえば【属性検査】の時の魔道具、あれって内側から貴色が水晶玉の中を染め上げていたよね?

 あれを大規模に出来れば問題ない?

 三重構造みたいにしてさ、一番外側と二つ目の間が暗闇、二つ目の一つ目の間が光を散りばめる。

 そうすればそれっぽくなる気がする。

 

「本当はさ『映写機』みたいなモノを創れれば一番いいんだけど、流石に無理なんだよなぁ」


 実際地球ではそう言ったモノを使って星を建物の天井に空間に描き出しているんだろうし。

 けどそれは出来ないからもう少し考えないと。


「あーけど流石に物理的に部屋を覆う訳にはいかないんだよね」


 うん、それはそれで計画に支障が出るからダメ。

 人の出入りは可能でなきゃいけない。

 全てを秘密裡に行うならそこら辺は必須だ。

 

「――要は散りばめられた光が結界にくっつけば良いって事、かな?」


 『磁石』みたいな効果が付加出来ればいいのかな?

 それとも風の魔法で常に結界の外に張り付けるみたいに押し付けておく?

 どっちが簡単だろうか。


「そもそも光の粒って言っても光精霊は使えないんだよねぇ」


 だって結界内の精霊は基本的に闇に変化させるつもりだし。


「……けど結界内の光精霊が結界の壁に引き寄せられれば問題ないのかな?」


 ただその場合フェルシュルグに好意を抱いている光精霊を引き寄せる程の餌が必要なる。

 ちょっとそれは難しい気がする。

 フェルシュルグはかなり精霊に好かれていたし。


 やっぱ魔道具で光を生み出して、それが最終的に結界の壁に張り付く仕様にしなきゃいけない。


「成功すれば『蛍』っぽい演出も出来るしいいかも」


 問題は生み出された光がどうやって自ら結界の壁に向かうかって事になっちゃう。


「うーん。二重、三重構造も悪くないと思うんだけどなぁ――あーもう! 頭がこんがらかってきた!」


 盛大な独り言だけど、仕方ない、うん。

 離れの工房の中だし、私しか居ないから大丈夫。

 リアも居ない本当の意味での一人だから、誰かに見られて頭の心配される事は無い。

 ただし私が虚しさを感じるけど。


「えぇと……頭整理しよう」


 まず『遮光カーテン』仕様の結界は必須なんだよね。

 そしてそれは多分魔道具に付加を追加しないといけない。

 ただこれは誰かを守る結界でも無いし、閉じ込めるモノでもないから、多分上限値は問題ないはず。

 

 第一段階これで成功って事で次に必要なのは「星」を模したモノ。

 これをどう発生させてどう結界の内壁に定着させるかって事が問題になってくる。

 

 いけると思ったのは結界を二重に張って、その間に光を散りばめる方法。

 けどこれはダメだった。……結界は近距離だと相殺してしまうから。

 効果の相殺をしてしまうと『遮光カーテン』の効果が無くなってしまう。

 それじゃあ意味が無い。

 

 じゃあって事で生み出した光を結界の内壁に引き寄せて定着させるってのも考えたんだけど……この場合どうやって内壁に引き寄せるかが問題になる。

 視覚的効果はばっちりなんだけどなぁ、これだと。

 『蛍』っぽいじゃん?

 綺麗なんだけど、方法が思いつかないのが難点だった。

 

 って事で次の方法を考えないといけなくなった。

 此処までが今まで考えていた事をまとめた際の結論だった。

 

「微妙な結論になっちゃった」


 何とも言えない結論である。

 悩んで回り道をして、けど行き止まりだった感がある気がする。

 まぁこれに固執してもしょうがないから次のアプローチを考えるんだけどね。


「ようは【結界陣】とは別種の壁を作れればいいって事だよね?」


 例えば「水」とか?

 あぁ、けどそうなると今度は水を結界の内壁に留めておく方法を考えないといけない。

 話が全然進んでない事になる。

 他の無色透明の何か……。


「……ん? あれ? 風もある意味色ないよね? 固形化は出来ないけど、圧縮された風は硬くなって物体を通さなくなるよね?」


 銃弾も防ぐ! っていうのは言い過ぎだろうけど、上手く使う事が出来れば無色透明の壁が出来るんじゃないかな?

 ついでに風なんだから光は透過するよね?

 魔石は無理だけど『蛍』みたいな光を中央から『大砲』みたいに打ち出して風の壁を通過させて外の結界の内壁に衝突させる。

 ある程度の光の粒なら散り散りになれば演出にもなる。

 其処まで出来るかどうかは分からないけど、一応夜空に星を描き出す事は出来るかもしれない。

 その時点で『蛍』っぽくはならないけど、仕方ない。

 そういった情緒的な演出は別の所で使おう。


「外は【結界陣】の亜種の結界を作り出して、そこから然程距離を開けずに今度は【風の壁】を生み出す。その間に光の粒を散りばめる」


 それで満点の星空が完成する。


「……今度こそ行けるかな?」


 そうなると錬成しないといけないのは「真っ暗闇を生み出す『遮光カーテン』の要素を組み込んだ【結界陣】」と「圧縮した風の壁を生み出す魔道具」と「星を細かい無数の光を生み出す放射する魔道具」の三つ。

 これらが揃えば私の思い描いたモノは出来る?


「まだまだ私の知るモノには遠く及ばないけどいけるかもしれない……っと大事な事忘れてた」


 結界内を闇精霊に変化させる効果が必要だった。


「いっその事結界内を全部光精霊に変化させた上で天井に向かって照射させる装置でもいいのかな?」


 そっちの方が言い訳も出来るし。


「確か精霊を集める魔道具は存在しているんだよね。じゃあ結界内の精霊を集めた上で魔力で光精霊に変化させて、其の上で天井に向かって放射する。多分人の目に映る光の存在にする事は可能だし、人に害をなすモノじゃない。それならその場に誰が居ても問題ない」


 家格が幾ら下でも束になれば色々な事をひっくり返す事は出来てしまう。

 人に怪我をさせたなんて隙を作る訳にはいかないから。

 そこは気を付けないといけない。


「――大体の骨組みはこんなもんかな」


 私は走り書きで読みづらくなった紙を見て苦笑する。

 途中でぽしゃったモノまで書いてあるから、何が決まっていて、何が骨組みなのか私でも分かりづらい。

 途中で『漢字』というか『日本語』まで混じってるモンだから、誰かが拾ってもさっぱり分からない仕様になってる。

 全く持って意図せず暗号作っちゃったみたい。


「『日本語』を暗号にするのは考えてたんだけどなぁ。フェルシュルグみたいのが居るなら無理だよなぁ」


 私とか私が教えた人しか分からない言語っていうのは暗号とか密談にはもってこいなんだけどなぁ。


「ま、今はどうでも良い事か」


 暗号については今後必要かもしれないけど、今今考えないといけない事じゃないから後回しでいい。


 えぇと整理すると――


 ・『遮光カーテン』の効果を組み込んだ結界の魔道具を錬成する

 ・圧縮した風の壁を生み出す魔道具(それも結界のギリギリの所に展開できるように調整したモノ)を錬成する

 ・結界内の精霊を集めて光精霊に変化させる効果を組み込んだ上で放射する魔道具を錬成する


 ――って感じかな。


「三つを一つに纏める必要はないよね? 最終的には一つの『機械』みたいにした方がいいと思うけど現時点では三つがバラバラでも構わない」


 そこまで考えてたら私の創りたいモノが出来た頃には時期を逃してしまうから。


「うん! とりあえず骨組みは完成」


 後は私の力量で何処まで出来るかって話と材料はどうするんだって話だよね。


「もう少し自力で調べて出来るか出来ないか確かめて、その後お父様に相談かな」


 ただフェルシュルグの事を何処まで話せば良いモノやら。

 下手すると私の事までバレるし。


「それともそろそろ潮時なのかな?」


 お父様やお母様にも私の事――『地球』での記憶の事を話すべきなのかもしれない。


「……んー。取りあえず現状維持で。必要なら話すけど、今の所懸案事項は減らすべきだし」


 逃げてるって言えばそうなんだけどさ。


 取り敢えず他所事は排除しとこって事で。


「さて、と。――まず調べものからかなぁ」


 私は暗号みたいな紙の束を持つと本邸の図書室に向かうため工房を後にするのだった。




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